幕間SS 幸せ結び編プロローグ
「明日から一人だけど、本当に大丈夫?」
晩ご飯を食べている時、お母さんが心配そうな顔をして聞いてくるので、わたしは不安にさせないよう笑ってみせる。
「大丈夫だよ。わたしもう高校生だよ?」
「確かにそうだけど。でも、高校生であろうと、女の子を一人にするというのが心配なのよね。やっぱり私は残ろうかしら」
「大丈夫だって! お母さんが一緒じゃないとお父さんダメダメでしょ?」
わたしが言うとお母さんはくすくすと笑う。
お父さんは仕事人間だ。そう言うと家族のことはほったらかしみたいに思われるけどそんなことはない。
ただ、仕事以外がてんでダメだというだけだ。それはそれで失礼な言い分だと思うけれど。
「確かにね」
それでも、やっぱりお母さんは心配そうだ。
たった一人の娘のことを心配してくれるのは嬉しいけれど、しかしわたしだって高校生だ。もう一人で何もできない子供ではない。
「それに、いざとなったらこーくんがいるし、本当に心配いらないよ?」
「幸太郎くんね。確かに彼がいるなら心配ないか」
お母さんもお父さんも、こーくんに対しては多大な信頼を置いているようだ。
こちらに戻ってきてからまだ会ってはいないけれど、わたしがよく話すからこーくんのことはよく知っている。
「そういうことなら、お願いね。結」
明日からお父さんは出張。お母さんはそれについていくので、わたしはしばらくの間この家に一人になる。
別に問題はない、と思う。料理はできるからご飯は困らないし、面倒な用事は当面ない。
これくらい一人でできなければ大人ではない。誰かに迷惑をかけっぱなしな結ではないのだ。
「……そういえば、明日は体育があるんだった」
自室に戻ったわたしはふと思い出す。
明日はいつもより荷物が多い上に体操着を持っていくとなれば、いつものカバンでは少し小さい。
大きめのカバンを用意しよう。
「カバンを替えると荷物詰め替えなきゃいけないのが面倒なんだよなあ」
ぶつくさと呟きながら、カバンを掘り出す。何を言っても自分でしなければならないのだから、早く終わらすに越したことはないのである。
「ちょっと結、手伝ってー!」
そんなとき、一階からわたしの名前を呼ぶお母さんの声が聞こえた。お母さんはお母さんで明日からの準備に追われているのだろう。
「はぁい」
呼ばれて降りるとカバンへの荷物の詰め込みを手伝わされた。お父さんの分もやらなければならないとなると一人では大変だろう。
そういうわけで、わたしはお母さんの作業を手伝う。
いろいろとお話しながら進めたのでずいぶんと時間がかかってしまった。
「……ふぁ」
作業が終わる頃にはいい時間になっていた。
ほどよい疲れのせいか、こみ上げてくるあくびを我慢できない。
「それじゃあわたしお風呂入って寝るね」
「ありがとうね、手伝ってくれて」
「うん」
その後、湯船に浸かりながらぼーっと考え事をして、お風呂から出て部屋に戻るとまた睡魔が襲ってきた。
体が温まったから余計に眠たくなったのかもしれない。
少し横になって、スマホをいじっていると、うとうとしてしまい、気づけばいつの間にか寝てしまっていた。
アラームすらかけ忘れていたわたしは翌日、慌ただしい朝を過ごすことになる。
そんなことがあった結果。
まさか。
翌日にあんなことが起こるなんて、この時のわたしは考えもしていなかった。
――――――――
雨の日。
とある事情で結は幸太郎の家に泊まることに。
二人だけの部屋、二人だけの時間。
それは幸せな時間で。
けれど、それだけではなく。
幸太郎が語る中学時代。
幸太郎と結が思い返すそれぞれの記憶。
静かな夜。呼ばれる名前。
「……一緒に、寝ていいかな?」
思いがけずやって来る隣り合わせの夜。
そして。
桜散る春の終わりに。
幸太郎と結。
二人が結ぶ一つの約束とは。
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