第35話 帰り道

 まだ少し調べものがあるというベルムさんを残して、僕とリグレは図書館を後にした。


「フォルテちゃん、じしょ借りられてよかったね!」


「うん、そうだね」


「図書館、大っきかったね!」


「うん、そうだね」


「ベルムちゃんと、ちゃんと仲直りできたね!」


「……うん。そうだね」


 別れぎわに、ベルムさんは「ダンジョンでの立ち回りを覚えたければ、カフェとサーフショップの手伝いがないときなら、トレーニングに協力する」と言ってくれた。

 この間の一件で、見限られたと思ったのに……。


「よかったね! フォルテちゃん!」


 リグレがこっちを見上げて、満面の笑みを浮かべた。



 ベルムさんに走り寄っていったときは、なんてことするんだって思ったけど――



「リグレ」


「なぁに? フォルテちゃん!」


「さっきは、ありがとうな」



 ――その行動がなければ、今日の結果はなかったはずだ。



 いや、今日だけじゃなくて……、ヒューゴさんも、ルクスさんも、リグレがいなかったら、二度と口をきくことさえなかったんだろうな。


「うん! どーいたしまして!」


 リグレは相変わらず、無邪気に笑って答えた。

 

  お前がちゃんと

  守ってやらないとな


 ……僕が守る、か。


「それじゃ、フォルテちゃん、お家までかけっこだね!」


「うん。でも、このあたりは人が多いから、海辺の道まで出たらね」


 正直なところ、誰かを守れる自信なんてない。

 でも、人ごみで迷子にならないように手を繋ぐことくらいなら、できるはずだ。


「フォルテちゃん……」


 手を握るとリグレは目を輝かせた。


 

 そして――



「私たち、やっぱりラブラブだね!」



 ――なんとも、反応に困る言葉を言い放った。



 当然、周囲の人たちはこっちに注目する。その中には、警官の姿もある。

 警官は困惑した表情で、こっちに近づいてきた。



 えーと……、多分、子供の冗談だと分かってくれると思うけど――



「あー、お兄さん、ちょっとお話を聞かせてもらえますか?」



 ――やっぱり、職務的に質問をされることになるよね。



「このお嬢さんとは、どういうご関係で?」


 警官は微笑みながら首をかしげた。

 一見穏やかな人に見えるけれど、気迫はすさまじい……。あらぬ誤解が解けないと、かなり厄介なことになりそうだ……。


「えーと、ですね。僕はこの子の魔術の家庭教師をしていまして……」


「うん! それで、一緒のお家に住んでて、ラブラブなんだよ!」


「うん、リグレはちょっと黙っててくれるかな」


「なんで!? 私のことは遊びだったの!?」


「そういうセリフをどこで覚えてくるんだよ……。ともかく、今は……」


「ゴホン!」


 突然の咳ばらいが、会話をさえぎった。

 顔を向けると、警官の微笑みと気迫が、さらにすさまじくなってる……。


「この子とのお話、交番で詳しく聞かせてもらえますね?」


「……はい」


 ……ひょっとしたら、何かからリグレを守る力より、リグレから自分を守る術を身につけた方がいいのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る