第12話 ほら見たことか!

 王都の病院を退院してから二週間が経った。

 傷もふさがって痛みも消えたことだし、そろそろ次のパーティー探しをはじめないとな。仕送りを売った金はまだのこってるけど、使いつくすわけにもいかないから。

 前回はベルムさんが変な根回しをしたおかげで、マルスなんかのパーティーに入る羽目になった。でも、魔の森で助けてくれたってことは、さすが罪悪感があったんだろう。なら、きっと、もう邪魔をしてくることもないだろう。


 今回は、すぐにでも新しいパーティーが見つかるはず――



「不採用」

「残念ですが、今回はご縁がなかったということで」

「なぜこのパーティーに入れると思ったのか、ちょっと分からない」



 ――と、思ってたのに、結果は散々だった。



 ただ、今回はベルムさんが変な根回しをやめたみたいで、面接で落とされることはなくなった。用心してベルムさんのパーティーにいたことは言わないようにしていたから、それも効果があったのかもしれない。

 でも、今回面接を受けたパーティーは全て、トレーニング用のダンジョンでの実践試験があった。

 

 だから――


「周りとの連携が全く取れていない」

「当パーティーは、協調性を重んじておりますので」

「こんなんで、よく養成学校を卒業できたね」


 ――他の希望者に足を引っ張られて、実力を充分に発揮できなかったんだ。


 まだ金銭的な余裕はあるから、そこまで焦る必要なない。でも、さすがこんな状況が続くと、やる気も失せてくる。 

 今日こそは、実践試験がない募集が見つかるか、あったとしても他の希望者も有能ならいいなぁ……。


 ギルドに着くと、求人コーナーは今日も混雑していた。

 なんだか、一週間ぐらいからやけに混み始めた気がするな……。


「ねえ、あの話聞いた?」


「あ、うん。ベルムさんのパーティー、格付けが下がるかもしれないんでしょ?」


 不意に、女性たちの会話が耳に入った。

 ……え? 格付けが下がる……?


「そうそう、しかも、今まで王宮から直々に依頼を受けてたみたいだけど、それもなくなるかもしれないんだって」


「らしいね。私も友達があそこのメンバーだから、その話聞いたよ」


「最近、依頼も失敗続きだったみたいだしね……」


 依頼が、失敗続き?

 一体、なんで……。


「優秀な人いなくなっちゃたんだから、仕方ないよ……」


「まあ、それもそうだよね」

 

 優秀な人がいなくなったから……、ああ、そうか。

 僕のことを、理不尽にやめさせたんだから、そうなるに決まってるじゃないか!

 むしろ、今までなんともなかったことの方が、不思議だったんだ!

 あはははは! いい気味だ!


「ねえ、なんか一人でニヤニヤしてる人がいるんだけど……」


「うん、ちょっと怖いから、もう行こう……」

 

 ……はしゃぐのは、この辺にしておこう。

 でも、本当にいい気味だ。

 ああ、この間みたいに、ベルムさんと偶然ぶつかったりしないかな? 

 そしたら、調子はどうですか、って聞いてやるのに。


「すみません、そこちょっといいですか?」


 不意に、背後から男性の声が聞こえた。


「あ、すみません。今どきます……ん?」


 振り返ると、そこには眼鏡をかけたさえない雰囲気の男性が、パーティーメンバー募集の貼り紙を持って立っていた。この人は、ベルムさんのパーティーで、事務関係の仕事のサポートもしていた、実質ナンバースリーの……。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ、お久しぶりです、ソベリさん」


 僕が名前を呼ぶと、ソベリさんはかるく眉をよせた。


「えーと、なぜ、私の名前を……、ああ、君はたしか以前パーティーにいた……」


「はい。魔術師のフォルテです」


「ああ、そうでしたね」


 本当はベルムさんに会いたかったけど、この際、ソベリさんでもいいか。この人も、ベルムさんが僕を理不尽にクビにするのを止めなかったんだから。


「なんか、最近色々と大変みたいですね」


「ええ、そうですね」


「今日は、パーティーメンバー募集の手続きに来たんですか?」


「はい、そんなところです」


「へー、やっぱり有能な人間がいなくなると、大変なんですね」


「まあ、そうですね」


 ……なんで、こんなに反応が薄いんだよ?

 普通なら、どうか戻って来て下さい、って僕に泣きつくところじゃないのか?

 ああ、そうか。

 依頼失敗で発生する諸々の手続きに疲れて、失敗の原因がなにかっていうところまで気が回らないのか。

 それなら、ちゃんと教えてあげないと。


「でも大変ですよね、『怯み無効』みたいな固有スキルなんて、持ってる人はそうそういませんから」


「ええ、そうで……、固有スキル『怯み無効』?」


 ソベリさんはようやく、顔をこっちに向けた。


「そうだ。フォルテさんの固有スキルは、『怯み無効』でしたね」


「はい。その通りですよ。今、パーティーに同じスキルを持ってるメンバーって、いるんですか?」


「いいえ、いないですね」


 それはそうだ。このスキルを持ってる人間は、この国でも数えるほどしかいないんだから。

 お前らは、そんな貴重で有能な人間をクビにしたから、報いを受けて……。


「フォルテさん……」


「わっ!?」


 いつの間にか、目の前に顔があった。目の下のクマがハッキリ見えるけど、眠れないくらい忙しいのかな……?


「折り入ってご相談したいことがありますので、パーティー事務所まで来ていただけますか?」


「話したいこと? ここで話すのじゃ、ダメなんですか?」


「ええ。長くなる話ですので」


 これは、僕を呼び戻したい、とかそんな話をしたいんだろうな。それならちょうどいい。


「ええ、いいですよ」


「そうですか……! ありがとうございます」


 事務所まで行って、謝りながら懇願するベルムさんと……、ついでにルクスさんに、何を言われても戻る気はないって言ってやろう。

 あの人たち、どんな顔をするのかな……、今から、すごく楽しみだ。

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