第4話 分かる人には分かるんだ

 ミティスさんのパーティーの面接に落ちてから、すぐに他のパーティーの面接を受けにいった。

 

 でも――



「貴意には沿いかねます」

「今回の採用は見送らせていただくことに」

「ベルムのところをクビぃ? そんなやつ、雇えるわけねぇだろ!」

「うちでは、ちょっと……」

「今回はご縁がなかったいうことで」



 ――見事に、連敗中だ。

 

 まさか、ベルムさんがこんなに根回しをしてるとは思わなかった。僕のことが気に入らないのかもしれないけど、ここまでされるなんて……。

 

 あ、そうだ。

 クビになった日、サブリーダー……、ルクスさんに食ってかかったっけ。

 多分、それを大げさに告げ口されたから、ベルムさんが怒ってこんなことになってるんだ。


 本当にあの人は、どこまで僕のことを――

 

  ぐぅぅぅぅ


 ――イライラするのは、このくらいにしよう。


 ここ二日間、一日パン三分の一しか食べてないんだし、怒って無駄な体力を消費したくない。

 今日こそは、仕事を見つけないと……。



 空腹でフラフラになりながら、ギルドの求人コーナーへ足を運んだ。

 えーと、パーティーメンバー募集の面接で、まだ受けていないのはどれだったかな……。


「……あれ? お前、ひょっとして、フォルテか?」


「あ、はいそうですが……、あ」


 振り向いた先にいたのは、学生時代の同級生だった。

 でも、名前までは思い出せない。

 騒がしいグループの隅の方で、いつもヘラヘラしてたやつってことは覚えてるけど……。


「あれぇ? ひょっとして、俺のこと覚えてない?」


「あー……、ごめん。最後の学年で同じ組だったことは、覚えてるんだけど」


「まじかっ! ちょっと、ショックなんですけど」


 ショックと言われても、特徴もないやつのことなんて、いちいち覚えていられない。

 

「まーでもいいわ。ほら、俺、マルスだよ、マルス。一回ダンジョン探索の訓練で、同じ班になったことあったろ?」


「あー、そういえば、そんなこともあったかな」


 ああ、そうだ、あのときはコイツがタンクだった。それで、敵を上手く引きつけられなくて、もの凄く迷惑した覚えがある。


「懐かしいなぁ。そういえば、卒業したあと、あのベルムさんのパーティーに入ったんだよな?」


「うん。まあ、ね」


「あの最強パーティーに入れるなんて、すげーよなぁ」


「あー、うん。そう、かもね」


「それで、最近はどんなかんじなんだ? やっぱ、最強パーティーって言われるだけあって、給料もいいんだろ?」


「まあ、ボチボチだよ」


「またまたー、謙遜しちゃってー」


 ……はやく、どっかに行ってくれないかな。求人情報を見るのに、集中できないじゃないか。


「俺らなんかさー、今月も結構カツカツで……、ん? そういや、お前、最強パーティーにいるくせに、なんで求人情報なんか見てるんだ?」


 放っておいてくれ。

 と言いたいけど、こらえておこう。同級生の騒々しい連中に、変な噂でも流されたらたまったものじゃないから。 


「実は……、不当解雇されそうになったから、出てきてやったんだ」


「は!? 不当解雇、マジで!?」


「ああ。なんか、ボクの戦い方が気に入らなかったみたいで、いきなり辞めろって言われた」


「戦い方が気に入らない……、それって、ベルムさんから言われたのか?」


「そうだよ」


「ふーん……。お前ってさ、戦い方、学生のときから変えてないの?」


「変えてはいないね」


「あー……、そっかそっかー」


 何が、そっかそっかー、だ。分かったような顔して、うなずいて。

 いい加減にわずらわしいから、いったんこの場を離れることにしよう。


「他に話もないみたいだし、僕はこのへんで……」


  ぐぅぅぅぅ


 ……なんで、このタイミングで腹が鳴るかな。


「え、なに? お前、腹減ってんの?」


 この音を聞けば分かるだろ、そんなことぐらい。


 まったく、本当にわずらわし――


「なら、俺がおごるから、ちょっと早い昼飯にしようぜ!」


 ――え?


「ん? 腹、減ってないのか?」


「あ、いや、かなり減ってるけど……、なんでおごってくれるんだ?」


「だって、友達が困ってたら、助けるだろ、普通」


 マルスの顔に、屈託のない笑みが浮かぶ。

 ……学生のころは、パッとしない奴だと思っていたけど、本当はいいやつだったんだな。


「悪い……、じゃあ、お言葉に甘えて……」


「おう! 気にすんなって! じゃあ、さっそく食いにいこうぜ!」


 そう言うマルスに連れられて、ギルドをあとにして、隣にある大衆食堂に向かった。


 昼食にしては早い時間だからか、店内はまだそこまで混雑していない。


「よし、あの席にしようぜ」


「わかった」


 マルスが指さしたすみの席に座ると、すぐに女性の店員がやってきた。


「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」


「俺は、日替わりセットを一つ。お前は?」


「僕も、同じ物で……」


「かしこまりました。それでは、少々お待ちください」


 よかった。これで、ようやくまともな食事にありつける……。


「それでさ、フォルテ。次の職場って、もう決まったのか?」


「え? あ、いや……それが、まだ……。なんか、変な根回しされてるみたいで……」


「あはははは! 根回しか! そりゃあ、災難だったな!」


「笑うなよ、こっちは死活問題なんだから……」


「おっと、悪い悪い。それじゃさ、俺のパーティーに来ないか?」


「……え?」


 マルスのパーティー?


「俺さ、卒業したあとに、自分でパーティー立ち上げたんだよ」


「へー、そうだったのか」


「そうそう。同じクラスのやつらと、作ったんだ。それでさ、頑張ってるんだけど、今ちょっと人手不足で」


「それで、僕に入団してほしいと?」


「ああ、そうなんだよ!」


 立ち上げて間もない、人手不足のパーティー、ね。

 話を聞くだけだと、不安要素しかないけど……。


「幸い、俺の所にはまだ、ベルムさんの根回し、ってのは来てないし」


 まあ、ベルムさんも多忙だから、弱小パーティーまでは構わなかったんだろう。


「お前、学生のころから戦い方変わってないんだろ? なら、俺の所なら、絶対に活躍できるぞ!」


 たしかに……、同じ学校だった分、マルスの方がまだ、僕の固有スキルを理解してるか。


「お前が来てくれたら、俺のパーティーは、絶対にでっかくなれるんだ!」


 ……うん。弱小パーティーが僕の力で最強になっていけば、ベルムさんたちも僕をクビにしたことを後悔するはず。


「なあ、頼むよ……」


「……じゃあ、質問しても良い?」


「もちろん! 何が聞きたいんだ?」


「給料って、どのくらいになるんだ?」


「ああ、今日入団を決めてくれるなら、前の所の三割増しにするぞ!」


 三割増し!? それだと、新人にしたらかなりの高給だ……。


「三割増しじゃ、不満か?」


「あ、いや、そんなことないよ」


「それなら、よかったぜ!」


「あと、もう一つ質問。今ちょっと早急にお金が必要なんだけど、前借りしても大丈夫?」


「ああ、もちろん!」


 ここまでの待遇なら、断る理由もないか。


「それじゃあ……、君の所に入ることにしようかな」


「本当か!? いやぁ、マジで助かるよ! ありがとうな!」


 マルスは目を細めて、嬉しそうに笑った。


 ほら、僕の実力が分かってるやつは、こうやって正当な評価をしてくれるんだ!

 だから、見る眼のないパーティーのことなんてさっさと忘れて、コイツらのところで存分に活躍することにしよう。

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