第1話「抱腹絶倒の目覚め」

「なんで……。なん、で……」

 俺は吐き気をもたらす煙の中、悲しみの言葉をこぼして涙をおとした。

 俺は、裏切られたんだ。あいつらはずっと、俺のことをお荷物だと思ってた。視線が、態度が、それを物語ってた……。

 痛い。痛い。脚が、胸が、心が、体中が痛い……。

 最初は、幼馴染のルチアとルクスに誘われて三人で組んで、ゆるーく黄泉蔵の探索をしてただけだったのに……。

 二人ともどんどん強くなって。ルチアは戦わないけど、一瞬でルクスの傷を治せるようになったし。ルクスも、急に落ちてくる頑丈なナベオロシだって、現れた次の瞬間には一刀両断できるようになって……。

 しかも、あのイグニスが来てから余計に俺たちは強くなって、周りからの期待もどんどん上がって。黄泉蔵探索は大変になったんだ……。

 だから、俺も頑張って呪術で支援してたのに……。もののけにデバフをかけたり、してたのに……!

 呪術なんて陰湿だとか、陰惨な顔にぴったりだとか、性格が陰気だから仕方がないとか、陰で悪口言われて、噂されて……。デバフ、とか言い方変えてみても、印象はよくならなくて……。逆に変なこだわりが気持ち悪いとか言われて……。

 みんなみたいに目に見えた結果がないから。敵を倒したり、傷を治したり、そういうんじゃないから。俺は何もしてないなんて言われて……。一人じゃ何もできないから。お荷物だって、陰口言われて……。

「うぅ……、うぐっ。ケホッ、ケホッ……」

 煙幕で喉が痛い。目が痛い。

 でも、俺を苦しめる煙も次第に晴れてきていた。しかし、それは同時に、俺を隠してくれていた目くらましがなくなることも意味していた。

「アーハァ~ア!」

 ダイラダボッチの咆哮が俺の身体を揺する。

 地面に突っ伏す俺の視界は、もう十分明瞭になっていた。

 そして、当然そこに仲間たちの姿はない。ルチアの、姿も……。

 赤く暗い黄泉蔵の空間が広がっているだけだ。

「アァーハァァァァァァァ!」

 地響きが俺の身体に響く。ダイダラボッチが近づいてきているのだろう。

 俺は振動を受けて気持ち悪さが頂点に達し、吐きそうになる。

「……くそぉ」

 俺の頭に、かろうじて仲間だった者たちの顔が浮かぶ。

 幼馴染だったのに、俺を裏切ったルチアと、ルクス!

 そして、俺にいつも強く当たったあのイグニス……!

「……せない」

 俺は、呟いた。

「許せない。許せない、許せない、許せない」

 許せない許せない許せない許せない!

「うわぁー!」

 激情のままに叫んだ俺の周りが、急に一層暗くなった。それは、ダイダラボッチが俺に迫っていたからだ。

 そして、地面に倒れる俺の体にダイダラボッチの巨大な足が降ってくる。

 ズドォーン! と途轍もない音が辺りに鳴り響き、ダイダラボッチは黄泉蔵の床に倒れていた。

 そして、俺は、立っていた。みなぎる力に突き動かされるように、俺はそこに立っていた。

「ああ、そうか……」

 俺は気づいた。

「俺は呪術師だから、憎んでいるほど強くなるのか。呪えば呪うほど、強くなるんだ……」

 振り返ると、哀れダイダラボッチが地べたに倒れ死んでいた。

「ふっ、ふふふ。ふふふふふ。ふははははははは!」

 俺は赤ぐらい黄泉蔵で真っ暗な天を仰いで抱腹絶倒の快感を味わうと――。

「はぁ……」

 憎いあいつらが消えていった黄泉蔵の帰り道に向かってこうべを垂らした。

「やめよう」

 俺はやめた。

 やめたのだ。

「すぐに追って呪い殺してやってもいいが、それじゃあつまらいな。一人ずつ、最高の舞台を用意して殺してやろう……」

 俺はそう呟くと、黄泉蔵のさらに奥へと入っていった。

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