第48話:肥料
王都を任せているフォルカーとマリアには毎日連絡を取っている。
使い魔を領地と王都屋敷の間に放って魔術通信の中継に使っている。
当然王都屋敷にも使い魔がいる。
そのお陰でほとんど時間差なしに話ができる。
その俺の声を傭兵団や騎士団徒士団に聞かせているので、彼らが悪巧みをする可能性が極端に低くなっている。
そのようにして王都屋敷の支配を揺るぎないモノとしたうえで、領地に長期滞在することになった。
領都周辺の耕作地全てで促成栽培をするだけでも十日は必要だ。
全領地を周るには数十日は必要になる。
時々は王都に戻る予定だが、王都屋敷より領都の方が心安らぐので、できる事ならずっと領都にいたいと言うのが本音だ。
「さて、今から伝えるのは肥料の作り方だ。
好い肥料を作れるか作れないかで実る穀物の量と大きさが違ってくる。
まずは森から落葉を集めてきて畑で焼いて撒くのだ。
雑草も同じように焼くと肥料になる。
何よりも大きいのは大小便だ。
大小便は一ケ所に貯めて二年ほど発酵させれば好い肥料になる」
最初は俺の説明がよく分からないようだった。
だが諦めることなく懇切丁寧に説明して農民たちに理解してもらった。
実際には『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』の精神で何度もやらせた。
まあ、本心では農民たちが1年2年で覚えてくれるとは思ってない。
農民が覚えてくれなくても、常に俺の護衛として行動を共にしている家臣たちが覚えてくれれば、それでいいと思っている。
農民が俺に直接教わるのは1度きりだが、護衛の家臣達は1日何度も何十日も俺の説明を聞いているのだから、農民よりも早く確実に覚えてくれる。
騎士や徒士の身分をもつ家臣たちは、本心では肥料作りなどやりたくないはずだ。
大小便を肥料にするには、かき混ぜて発酵を手助けしてやらないといけない。
その時に大小便が跳ねる衣服にかかる事もあるし、なによりとんでもなく臭い。
だからやりたくないと思って当然なのだが、貴族の中の貴族である公爵家当主の俺がすすんで肥料づくりをしているから、家臣も文句は言えない。
単に領地の戦闘力と経済力を高くするだけなら兵農分離をすればいい。
だがそれは俺の理想とは違うのだ。
俺はアーベントロート公爵領を、大地に根付いた農民が危機の際して剣を持って立ち上がるような、自主自衛の領地にしたいのだ。
武装農民が自分たちの生命財産を護るような領地にしたいのだ。
「「「「「うおおおおお」」」」」
「ありがとうございます、公爵閣下」
「公爵閣下はわたしたちの救いの神です」
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」
「これで子供たちにお腹一杯食べさせてやれます」
促成栽培の魔術を使うと農民たちは涙を流して喜んでくれる。
だがこれは華やかに見える表面だけの現象だ。
これだけの促成と実りを現実にするには、下準備がとても大切なのだ。
肥料をやって土づくりができていなければ、どれほど魔術を駆使しても求める結果は得られないのだ。
「では次の段階に入る、心して聞いてくれ」
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