第30話:挑発

 ミヒャエルが集めた傭兵と冒険者は、ミヒャエルと同じ腐れ外道ばかりだ。

 本当なら直ぐに契約を解除するか殺してしまいたいのだが、そうはいかない。

 王家に狙われている以上、腐れ外道でも戦力が必要なのだ。

 大賢者を駆使して強くなった自分の力を開放すれば、王家を滅ぼして戴冠する事など簡単だろうが、王になる気など毛頭ないのだ。

 真剣にやったら苦行以外の何物でもない王になどなりたくないのだ。


「全傭兵と冒険者をそろえてくれ」


 そう一番大きな傭兵団の団長に命じたのだが、なかなか返事をしない。

 自分の力を誇る内心を隠すことなく横柄な態度で俺を睨みつけるだけだ。

 俺の背後を護るリヒャルダから殺気が漏れてくる。

 このままではリヒャルダが名前も忘れた傭兵団長に斬りかかるかもしれない。

 たぶんリヒャルダが勝つだろうが、勝った後で傭兵団の残党にリヒャルダが狙われるのは嫌なので、ここで団長に俺との力の違いを見せつけておこう。


 大賢者、愛が1万以下になるまで使って構わない。

 ここにいる全傭兵と冒険者がリヒャルダを襲わなくなる方法を教えろ。

 俺の力を見せつけて恐怖を与えた方がいいならそれを行おう。

 時間がかかっても構わないから調べろ。


 ピロロロロ

 

 計算します。

 しばらくお待ちください。

 まずは最初に

 ……の順番に叩きのめしてください。

 愛が312645になりました。


「はあ、傭兵団や冒険者は自由な存在なんですよ。

 相手が雇い主の公爵閣下であろうと、全員で会うなんてことはありえませんよ」


 言葉の調子が明らかに俺を小バカにしている。

 だがこれは大賢者が計算してくれた通りだ。

 だから俺も大賢者が計算してくれた通りに返事すればいい。


「そうかい、それはとても残念だよ。

 金貨1000枚の賞金を懸けて団長と剣の練習試合をしようと思ったのだがな。

 俺に負けるのが怖くて団員や冒険者を集めたくないのなら仕方がないな」


「なんだとお、いくら雇い主でも言っていい事と悪い事があるぞ。

 今直ぐ発言を取り消さないと叩きのめすぞ」


「俺を叩きのめしたいのなら、こんな観客のいない場所ではなくて、多くの観客を集めた場所の方がいいだろう。

 他の傭兵団や配下の傭兵に、自分の力を誇示できた方がいんじゃないのか。

 自分が公爵も恐れない強者だと噂を広めたいと思わないのか。

 公爵の俺を叩きのめした上に、金貨1000枚が手に入るのだぞ」


 団長が真剣に俺との試合を検討しだした。

 俺が指名依頼した傭兵団なら俺の実力を調べてから引き受けるだろう。

 だがこの団長なら欲に眼がくらんで調べもせずに引き受ける。

 そう大賢者が計算している。


「よし分かった、全員集めて試合してやる。

 だが先に金貨を用意しておけよ。

 俺に殺されてからでは金貨を用意できないからな」

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