第26話 世界はコネで回ってる
そんなわけで、お金持ちマダム家の飛び込み依頼はうまいこと処理できた、と思う。
被害は僕が多めに日焼けしたぐらいで済んだ。
帰り道も農道脇のセイタカアワダチソウを刈りこんでやったので、だいぶ農道の見渡しは良くなった。
草刈り依頼は依頼者に喜んでもらえるし、高校生の小遣い稼ぎとしてはそこそこ割が良い。
他の高校生は草刈りドローンを使ったりしないからね。
ところが冒険者依頼として見ると、草刈り依頼は多いけれど上を目指すなら微妙なところだ。
草刈り依頼はお金になったけれど、あまり冒険者ポイントや経験値は貯まらなかった。
安全だし、繰り返し作業だし、僕はドローンの設定と操縦をしただけだしで仕方なのない面はある。
それと、依頼報酬はちゃんと3等分した。
金銭の方は小林さんが辞退しようとしたのだけれど「冒険者は報酬を辞退しないのです」と僕が強調したら「そうね、冒険者だものね」とニコニコして受け取ってもらえた。
装備の使用料と保険料、という面もあるから受け取ってもらえて良かった。
冒険者はただ働きはしないけれど、ただで働かせたりもしないのだ。
★ ★ ★ ★ ★
夏休みも終盤を迎え、僕はアンテナとオンラインでつないで手分けして宿題を片付けていた。
僕は理数系科目、アンテナは文系科目と手分けすると早く終わるからだ。
担当範囲が終われば、互いの宿題の複写タイム。
完全に同じように写すとバレるので、多少はミスを入れ込むのがコツだ。
手は忙しく動かしつつも、頭が暇だと雑談が弾むわけで。
「それでさ、草刈りの依頼は済ませたから、冒険者らしいステップアップの次の依頼は何にしようか悩んでるんだ」
「でも、またハケンゴテンの方から草刈りの依頼来てるわよ」
「そうなんだよね…」
何が気に入ったのか、老婦人の小林さんからは別の家の草刈り案件も紹介する、というメッセージがパーティー宛てに来ている。
そうなんだ。小林さんとは臨時パーティーのつもりだったのだけど、未だにパーティー解除はしてないんだ。
どうも本人が「冒険者活動」とやらを気に入ってしまったらしくて、パーティー離脱を渋ったんだよね。
「このあいだの西川さん宅の依頼でも、スイデンがくるまで凄かったんだから」
「凄いって、何が?」
「冒険者の話とか、セイイチさんの自慢話とか、プレゼントのドローンの話とか」
「ああ、そりゃあね…」
僕はテラスで目にした小林さんの嬉しそうな横顔を思い出した。
きっとお友達とのお喋りと自慢が楽しかったんだろうなあ。
で、それで味を占めて他の有閑マダムネットワークに声をかけてるっぽい。
お庭の広い家が多そうだものね。
「だけど、草刈りドローンは一般道を走れないよ。あと次の操縦はアンテナ担当ね」
前回は、たまたま私道で隣家までつながっていたから良かったけれど、他の家もそうとは限らない。
まさか5キロも10キロも狭い歩道―――田舎の車道は歩道の範囲がとても狭いのだ―――をラジコンでドローン操縦させるわけにもいかないし。
疲れるし、だいいち危ない。
「…ジャンケンで決めない?」
「決めない!」
「むむ…」
アンテナは諦め悪く腕組みをした。
「…お姉ちゃんに車を出してもらおうか?」
「アカネさんに?うーん…それは悪い気がするな…1回か2回ならそれもいいけど、それじゃ済まない気がしない?」
「…そんな気もする」
小林さんの冒険者モチベーションは高い。
彼女の炎が燃え尽きるのは、有閑マダムネットワークを何週も回り切ってからのことになるだろう。
「…いっそ、配送してもらおうか」
「あの草刈りドローンを?重いよ?高くない?」
「たしかに…」
今でもときどき親に頼まれて荷物の配送手続きで郵便局まで持っていくことがあるけれど―――自宅から送るよりも安いので―――配送物は基本的に重量に比例して料金が上がる。もしも草刈りドローンのように400㎏以上もあるような重量物の配送を依頼するなら、もの凄い料金になるだろう。
なるほど、これは難しい。
日本でアメリカのような草刈りドローンシェアのサブスクサービスが発達していないのには理由があるわけだ。
まあ、仕方ない。
冒険者はボランティアではないので、経済的に成り立たない仕事はできないのだ。
★ ★ ★ ★ ★
「ドローントラックぐらい、用意するわよ。西川さんのところで遊んでいる車があるんじゃないかしら」
「うえっ!?」
改めて小林さんに連絡をとり「誠に残念ながら今回のご依頼の件は…」と理由を挙げて断ろうとしたら一番の懸念点を腕力(おかねのちから)で一蹴された。なんでも、西川さんのところは運送関係の会社をしているらしくて、そのあたりに強いらしい。
「はあ…」
「だから大丈夫よ!」
「はい…」
ドローントラックが自由に使えるなら、ハケンゴテンと依頼者宅の重量ドローン配送問題が根本から解決する。
小林さんが仕事を取り、配送されたドローンで僕とアンテナが仕事をこなす。
もし次があれば、ドローンと僕達だけで仕事をする。
こんなの、いくらでも仕事が増えて終わらないじゃん…と、憂鬱な気分になったところで違和感を覚えた。
「……あれ?」
黙っていても定期的にお金持ちの人の家から仕事の依頼が来る。
これってすごいことなのでは?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます