第6話 冒険者パーティーを組もう

 夏休みも中盤を過ぎて、朝夕にやかましかった蝉の鳴き声もアブラゼミからツクツクボウシに変わってくる頃。


 久しぶりにアンテナから「会わない?」と呼び出しがあった。

 お互いに「冒険者活動」で忙しかったから、これまでの人生で珍しく長期間 ―― 3週間ぐらい?――顔を合わせて行動することは殆どなかったのだ。


 もっとも僕はアンナさんの依頼で何度かアンテナの家には訪れていたのだけど、アンテナはいつも冒険者活動で外出していたのだ。

 アンテナのやつは、いったい何だってそんなに冒険者活動に入れ込んでたのだろう?そんなに小遣いに困っていたのか?


 その理由は、僕を呼び出したアンテナの偉そうな一言で明らかになった。


「スイデン、パーティーを組むわよ!あたしがリーダーね!」


 勉強机の椅子に日焼けした腕だけでなく足も組んで僕は迎えたアンテナは、これ以上なく勝ち誇った笑顔で宣言した。


 ★ ★ ★ ★ ★


 冒険者パーティーとは何か。


 冒険者アプリ規約によれば ―― 僕はマニュアルや規約の類を読み込むのが好きなのだ ―― 複数の冒険者が組んで依頼をこなす際に臨時もしくは継続的に結成されるチーム、とある。


 冒険者アプリ掲示板の依頼の中には「2人以上」等の人数を条件に指定している依頼も結構ある。

 それは複数人で依頼をこなすことに様々なメリットがあるからだ。


 普通に考えても、複数人であたれば個人であたるよりも大きい仕事ができるし、仕事のリスクも減る気がする。

 例えば山菜採りで山登りして1人が怪我をしてたとしても、もう1人が救助にあたれるから遭難しにくくなる。クマに襲われても一人より二人の方が生き残る確率があがる。


 たぶん冒険者アプリ運営側からしても複数人共同で依頼にあたってくれた方が依頼の成功率も上がるとか、不正の確率も下がるとかいうデータを持ってるんだろう。


 警察官が2人組なのもそういう理由だ、とドラマで言っているのを聞いたことがある。

 それに女性が対面で依頼する際なんかには1対1だと不安だものね。


 まあとにかく、冒険者がパーティーを組むことにはたくさんのメリットがある。


 だけれども、どうしても納得がいかないことは世の中にあるのだ。


「どうしてアンテナがリーダーなの!?」


 アンテナには行動力がある。

 それは認めよう。


 もの心ついた頃から嫌と言うほどアンテナには引きずり回されてきたし、いま僕が冒険者(レベル3)をやっているのもアンテナが冒険者ポイント目当てとはいえ紹介してくれたことがきっかけであるのも事実だ。


「ふふーん!これを見なさい!」


 アンテナは自慢げに自分のスマホを突き出した。


「あ、スマホカバー変えたんだね」


 前に見たときはピンク基調でキャラ絵のカバーのスマホだっだのが、今はオリーブグリーンで分厚いゴムのものになってる。

 ちょっと高そうだ。


「そうよ!屋外冒険者活動のためにはタフでないとね!じゃなくて、レベルよレベル!冒険者レベル!」


 指摘されて冒険者アプリのアンテナ個人情報欄を確認する。

 個人情報欄はプライバシーの塊だからあまり見せて良いものじゃないんだけど…

 しかし、そこに表示された情報は些細なことなど気にならないくらいに、僕を大きく驚かせたのだった。


「レベル5!?」


 僕より2つもレベルが高いじゃないか。

 すごい。

 僕だってこの夏はわりと頑張って依頼をこなしていたはずだけど、アンテナの頑張りはそれ以上だったらしい。


「パーティー申請をするには最低冒険者レベルが5は必要なの!つまり、スイデンはリーダーにはなれません!」


 僕は慌ててアプリの冒険者規約を読み返した。


「ほんとだ、レベル5以上じゃないと駄目だって書いてある…」


「そう!つまりあたしがリーダー!そしてスイデンは奴隷なのよ!」


 同時に、ぴろん♪と電子音が鳴ってアプリに新着メッセージがきたことを知らせてくる。


『エダナさんがあなたをパーティーに招待しています。承諾しますか?』


 ノータイムで「拒否」をタップした。


「なんでよ!?」


 なんでもくそもあるか。

 逆にどうして承諾されると思ったんだ。


 ★ ★ ★ ★ ★


「普通、冒険者なら高レベル冒険者の言うことを聞くものでしょ…」


「それはアニメとか小説の話。現実は違います」


 パーティー申請を拒否したせいか、アンテナがぶつぶつと壁に向かって文句を垂れるのを無視して僕は冒険者アプリの規約を読み直している。

 別に意地悪でアンテナのパーティー申請を断ったわけでなく、いろいろとわからない点があるからだ。


「ねえねえ。冒険者パーティーを組むと報酬が分配される、って書いてあるけど」


「別に。普通じゃない?2人でやったら半分になるんでしょ?」


「いや、臨時じゃない継続パーティーの場合だと報酬の一部はパーティー基金とかいうのにチャージできるらしいんだ。装備をそこから買ったら税金が安くなるんだって」


「税金取られるの!?」


「僕たちぐらいの稼ぎだと関係ないけど、高レベルパーティーの人達は事務所を借りたり税理士や弁護士と契約したりとか、経費がいろいろかかるみたいだね。ほら、例えば動画配信してる冒険者の人だとカメラ機材とか編集スタッフ雇ったりとか、お金かかってるでしょ?」


「ふーん…あたしも動画配信した方がいいのかしら」


「いやあ、僕達みたいな地味な冒険者のニーズはないと思うよ」


 片田舎の高校生が鼠を捕っている地味動画 ―― 罠をしかける場面は動きがないし、あとは捕った鼠を処理、つまり水に沈める場面なんて誰も見たくないだろう ―― を配信するコストをかけるぐらいなら、普通に冒険者レベルを上げた方が稼げる気がする。


 人気の冒険者達は、もの凄く努力しているのだろうし、僕はそんな方向で努力したくない。


 ふと気がついたことがあって、僕はアンテナに尋ねてみた。


「ひょっとして、冒険者パーティーを組むとポイントがもらえるの?」


「そうよ。冒険者パーティーボーナス10ポイント」


「リーダーになると?」


「さらに10ポイント追加よ!」


 ですよねー。

 素直でたいへんよろしい。


 仲間を募集すると招待ポイントゲット!リーダーになればさらにボーナスポイントゲット!という設計なわけか。

 まるでソシャゲだな、という最初の印象はますます強くなった。


 規約を読み返してだいたい気が済んだので「承諾」をタップする。


「っ!」


「僕がサブリーダーならいいよ。奴隷はなしだ」


「いいわよ!スイデンって黒幕似合いそうだものね!」


 笑顔になったアンテナが聞き捨てならないこと言う。


 黒幕とは失礼な。


 まあ、いいか。

 パーティーは一度組んでみたかったんだ。


 無能で追放されるかもしれないけど、それも経験になるし。

 後で出世して呼び戻されてももう遅いとかもやってみたい。


 そんな理由で、僕は冒険者パーティー「アンテナとその仲間たち」のサブリーダーになった。

 人員は2人しかいないけど。


 ★★★がほしー

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