ビーフジャーキー盗難事件〜食肉目の集い〜

徳野壮一

第1話

※動物たちの会話は全て日本語で訳させていただきます。



「ワオーーーーン!?」


 午前6時、とある家のリビングで犬の鳴き声が響き渡りました。


「なんだよ、犬。朝っぱらからうるさいな。こっちはこれからお眠なんだから静かにしてくれよ」


 自分の部屋から出てきたムジナが言いました。


「オレの朝ごはんのビーフジャーキーがなくなってんだよ!」


 ムジナだけではなく、キツネとタヌキも犬の声を聞いてリビングに集まってきました。


「なんだなんだ?」

「どうしたんだよ犬?」


 人間以外にこの家には犬、ムジナ、タヌキ、キツネの四匹の動物が住んでいました。


「お前らの誰かが、オレの寝ている隙に、オレのビーフジャーキー食べただろ!お前ら全員夜行性だもんな!!」


 犬が3匹に怒鳴ります。

 この家の人間は、平日は朝5時に家を出ます。動物達が起きてない場合があるので、動物たちの朝の餌は、それぞれの皿に入れて置いておいてくれるのです。早起きの犬の餌がないという事は、人間が家を出た午前5時から、6時の間にムジナ、タヌキ、キツネの三匹の誰かが食べたとしか犬には考えられませんでした。


「オレじゃないよ」

「ボクでもないよ」

「ワタシでもないよ」


 ムジナ、タヌキ、キツネの順番で言いました。


「くぅ〜。全員、化かすの得意な感じだから、誰が嘘言ってるのかわからない!」


 食べた奴を絞れず犬は思わず頭を抱えました。


「てか、犬の餌ってドッグフードじゃなかった?」

「あれ、キツネお前しらねぇの?犬は『オレはお前ら雑食と違ってグルメだから、ジャーキーしか食わねえ……』とか言ってさ、人間に強請って変えてもらったんだよ」

 とタヌキ。

「お腹減ってるのに、あえて我慢してドッグフードを食べずに、ビーフジャーキーが出てくるのを待ってたんだってよ」

 とムジナ。

「一歩間違えば病院行きなのに、やるなぁ、犬」

「そんなことより!誰が食ったんだよ!」


 3匹の会話を遮るように、犬は言いました。


「そういえばタヌキ、『犬ってなんか世間でチヤホヤされてるからってオレら舐めてね?』とか言って気が……」

「ははは。そんなこと言った記憶はありませんよ。キツネさんの気の所為でしょう。そういうキツネさんこそ『犬って従順とか、忠臣とか言われてるけど、裏で絶対悪いことしてるよね。見られてる時しか頑張ってないよね』って言ってたませんでした?」

「やれやれ、タヌキさんも歳ですかな?記憶を捏造し始めたらおしまいですよ」


 タヌキとキツネの言い合いで、地味に犬は傷ついていました。

 7年ずっと一緒にいた2匹にそう思われていたなんて……と。


「タヌキも、キツネもどっちも記憶力が悪いって事で」


 ムジナがそう言って、言い争っている2匹の間に入ります。


「1番の新入りが生意気言うじゃないか」

「ムジナって言ってるけど、貴方……ハクビシンでしょ。あれ?おかしくない?貴方だけイヌ科じゃなくない。1番怪しくない?」

「何言ってんだよ。オレらみんなネコ目仲間だろ」


 犬そっちのけで3匹で争い始めてしまいた。


「おいおい。喧嘩はやめろって」

「ていうか、犬は鼻がいいんだから、自分で嗅げばわかるだろ?」


何故自分が喧嘩の仲裁をしなければならいのかと思いつつ、止めに入った犬に、タヌキは言いました。

 タヌキの言う通り、お皿にのっているビーフジャーキーを、3匹のうち誰が食べたのならお皿に近づいたということ。食べた奴は、食べる時に顔をお皿につけた可能性が高い。臭いがついていも不思議ではなかった。


「嗅いでみたんだが……何の匂いもしないんだよ」

「何の匂いも?」

「……ああ」

「ビーフジャーキーの匂いもか?」

「……ああ」

「犬……それは……人間が餌やり忘れただけじゃね……」

「…………マジか……」


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