幼馴染ヒロインっていいよなって言ってからいつもつるんでいる後輩が幼馴染を自称するようになったんだが……ちょっと待って、なんで俺の昔の写真にもお前が写ってんの?

高野 ケイ

第1話 幼馴染VSうざかわ系後輩

 俺は生徒会室で暇つぶしにラブコメ漫画を読んでいた。ちょうどスマホを壊してしまっているのでちょうどいい。生徒会とはいえ、某かぐ〇様のようにいつも忙しいわけでもないし、恋愛頭脳戦をするわけでもない。別に学校を変えようという気概もなく内申点のために集まった奴らである。元々モチベはないし、仕事も最低限しかしない。それでもここにいるのは生徒会長としての義務感である。




「せんぱーい、何をにやにやしながら読んでるんですか? ちょっとキモイですよ。コーヒー淹れたんでどうぞ」

「ああ、ありがとう、てかこれお前から借りた漫画なんだが!! きもくて悪かったな」



 そう言って俺の目の前にコーヒーの入ったカップを置いてくれたのは後輩の渡辺梓である。鮮やかな茶色い髪の毛に雪の様に白い肌、そして大きい目をした明るい笑顔の似合う少女だ。俗に言う陽キャで、彼女もまた内申点目当てで生徒会に入ったそうだ。

 彼女との出会いは俺が高校二年生の時で、俺が会計をやっていた時に当時の生徒会長のお願いで、仕事を教えたことがきっかけだった。真面目な校風のこの学校で茶髪ということでよくも悪くも目立っていた彼女とは、俺と同じラブコメ好きだという事が判明したこともあり意気投合して仲良くなった。他の連中は繁忙期以外は部活やバイトで忙しくてあまり顔を出さないのだが、彼女は結構暇らしくちょくちょく話し相手になってくれるのもあり、今では仲良くなりすぎて敬意とかそういうのを一切感じなくなったのは問題だが……



「お、読んでくれたんですね。どうでした柊先輩!! こういうなんも努力していないのにやたらと主人公がモテるラブコメ好きでしょう?」

「ちょっと毒がある言い方が気になるが大好きだよ!!」



 そう言って彼女が指を差したのは『私とのラブコメで最後ですよ、先輩』という漫画である。メインヒロインは今流行りのうざかわいい系の後輩ちゃんで、サブヒロインの幼馴染と主人公を奪いあうという話だ。



「この漫画はヒロインがいいですよね。特に……」

「ああ、わかる。むっちゃ萌えたよ!! 特に」

「後輩ちゃんが!! 素直になれなくて、ついついいじわるを言ってしまう所がもういじらしくて最高でしたよね」

「幼馴染が!! 今までの幼馴染という関係を崩すのがいやで一歩踏み出せないんだけど、毎朝おこしてくれたり、お弁当をつくってきてくれたりするのが健気で最高だったな」



 俺達は同時にオタク特有の早口で喋ってから、押し黙る。おいおい、待て待てこいつは何て言った? 俺と梓はお互いにらみ合う。 



「何を言っているんですか? 幼馴染何て負けヒロインじゃないですか!! いまやうざかわ系ヒロインの時代ですよ!! その証拠に妹がうざい奴がアニメ化するんですー!!」

「ブッブー!! 幼馴染が負けヒロインの時代は終わったんだよ!! お前今度アニメ化する幼馴染が負けないラブコメ知らないのかよ!!」

「お前らうるさいぞ。外まで漏れていたぞ」



 俺と梓が口論をしていると扉が開いてガタイの大きい武骨そうな少年がため息をつきながら入ってきた。彼の名前は斎藤武。剣道部に所属しており、生徒会では副会長をやってもらっている。



「よう、武、部活はいいのか?」

「問題ない!! 流石に最近根を詰め過ぎたんでな。ここで休憩がてらお前らの様子を見に来ただけだ。案の定いつも通りの様だな……」

「だって、勝利先輩が悪いんですよ、名前が勝利の癖に負けヒロインばっかり好きになって……」

「やかましいわ。だいたいあずにゃんが幼馴染の素晴らしさをわからないのが悪いんだぞ!!」

「あずにゃんって呼ばないでって言ってるじゃないですか!! あー、小学生の頃のあだ名を何ていわなければよかった!!」



 そう、俺と梓は趣味こそ合うが推しキャラの属性がマジで噛み合わないのだ。あいつは転校生や特殊な能力をもったヒロインを好きになり、俺は主人公と共に育った幼馴染を好きになるのである。そして、男のタイプもまた違う。あっちは成績優秀なライバル系インテリイケメンを好きになり、俺は熱血系の主人公タイプを好きになるのである。



「勝利と渡辺は本当に仲いいな、いつも夫婦喧嘩をしているじゃないか?」

「「夫婦じゃない!!」」



 俺と梓の声が重なる。そしてなぜか顔が赤い梓と目が合う。そりゃあ確かにこいつは可愛いし、結構気が利くところもある。漫画の趣味も合うしまあ、あいつがどうしてもっていうなら付き合ってあげでもいいんだが……それに俺は幼馴染が萌えなのだ。付き合うなら幼馴染とつきあいたいという思いがある。



「大体幼馴染のどこがいいんですか……実際いても家族みたいなもので異性とは見れないでしょう」

「何度も言ってるだろ? 子供の頃からの思い出による強い結束力、幼稚園の頃にした約束をしてお互い覚えているけど大人になったら言い出せないもどかしさ、中学になり異性を意識して周りからかわれて疎遠になるもお互い気になっている距離感!! 告白しよう、俺は幼馴染が大好きだ!!」

「ふーん……勝利先輩はその幼馴染の子が好きなんですか?」


 つい幼馴染について強く語りすぎてしまったせいか、引いたようで梓のテンションが露骨に下がる。そんな様子に武が助け舟を出す。



「いや、こいつに幼馴染の女の子はいないぞ、強いてあげれば小学校からの友人である俺が幼馴染だな」

「え、じゃあ、さっきまでのは妄想なんですか? やば!!」

「うっせー!! 冷静に考えろよ、家の近所に同年代の子供がいる確率はどれくらいだ? そしてその中に女子がいる確率は? そしてその子と仲良くなる確率は? まさに宝くじが当たるくらいなんだよ。SSRを引くくらいなんだよ!! 俺はそんな幻想おさななじみにあこがれているんだ!! もしかしたら俺がわすれているだけで、実は男だと思っていた友人が女だったりするかもしれないだろ。俺は幼馴染と恋がしたいんだ!! 俺の目の前に幼馴染の女の子がいたら速攻告白するね!!」

「うわぁ……想像以上に頭おかしいですね……」

「俺が本当に男ですまんな」

「あたりまえだ、武が女だったらそれはそれで驚くわ!!」



 必死に力説する俺を見て、梓が頭を抱えて、武は溜息をついている。くっそ、なんで俺が幼馴染を語っただけでこんなに馬鹿にされなければいけないんだ。



「大体幼馴染何ていいもんじゃないぞ。なんかお互い新鮮味がなくなるしな」

「うるせーよ、そういうお前は幼馴染の彼女といちゃついてんじゃねーか、ご丁寧にお弁当まで作ってもらってさ!! 幼馴染萌えの一端はお前とお前の彼女のやりとりをずっと見てきたのもあるんだからな!! SSR幼馴染をひいてるくせに!!」

「いや、それは……すまん。俺の彼女がかわいすぎてすまん」



 そう言うと、武は顔を赤くして頭をかいた。男の赤面何て誰得なんだよ。くそが!! あと二回すまんっていったのは大事な事だからですかね!! いやさ、付き合う前からこいつとこいつの彼女にしょっちゅう恋愛相談されているのだ、こいつらがいかに相思相愛でラブラブなのかを俺は知っている。しかもすごい微笑ましいんだぜ。ああ、うらやましい。そんな俺の思考に割り込んできたのは梓の言葉だった。



「もー、仕方ないですね、そんなに幼馴染が好きなら私が勝利先輩の幼馴染になってあげますよ」

「はっ?」



 俺は彼女の言葉に疑問の声をあげる。だってさ、幼馴染ってなろうと思ってなるものじゃなくない? 幼いころから馴染んでるから幼馴染って言うんだぜ。そんなに「ちょっと幼馴染やってみるわ」みたいなノリでいわれても……



「大丈夫ですよ、私が勝利先輩の理想の幼馴染になって見せますから」



 そう言ってドヤ顔をする梓を俺は止めるべきだったのかもしれない。その時の俺はあんなことになるなんて思いにもよらなかったんだ。

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