天秤

@wasunari

一話完結

部活終わりに忘れ物に気づいた僕は走って3階にある教室まで向かう。


もう鍵が閉まっている教室もチラホラある中、自分の教室は明かりが付いておりホッとした。


急いで目的を果たし戸締まりをしようと思っていたが、そこには一人席に佇む女子がいた。


彼女は学校のマドンナみたいな存在で文武両道。それでいてみんなから好かれている子だ。


そんな彼女に告白した男子は数知れず、学年関わらずアタックして一人としてOKを貰った人はいないなんて噂もある。


僕も勿論彼女を気になってはいたが、僕とは月とスッポンの関係であり、告白する前から結果は目に見えていた。


僕は自分の席からノートを引っ張り、鍵掛けをお願いする旨一声かける。


しかし彼女は微動だにせず俯くばかり。


「あの・・・、具合悪い?」


「・・・。」


一瞬こちらを見たようにも感じたが、返事は無い。


「じゃあ、帰るからね?」


いち早くこの場から去りたかった。


時間が無いからではなく、彼女と二人きりの状況に得体の知れぬ恐怖を感じたからである。


罪悪感はありながらも廊下の方を向こうとした時、急に啜り泣く音が聞こえる。


慌てて彼女を見ると、案の定小粒の涙をポロポロ流している。


使ったハンカチやタオルを差し出す訳にもいかず、残り数枚のティッシュを渡す。


正直意味がわからなかった上、こんな彼女に辟易さえした。


「僕でいいなら悩みとか聞くけど。」


こう言うしかなかった。しかしこれが間違いだったのかもしれない。



遡ること数時間前、僕はいつもの様に部活へ行こうと同じ部員である友達に声を掛けたが、私情があるらしく彼を置いて部室へ向かった。


どうせサボりか何かだろうとこれ以上干渉しなかったが、どうやら彼女に告白する為だったようだ。


かねてから仲の良い彼だが、そんな素振りを見せてなかったため驚きはしたものの、彼も人気がある奴でおかしな話ではなかった。


そして彼女に思い切って告白するが、例の如く振られたらしい。


振られた理由が「別に好きな人がいる」からだと言われ、彼は問い質すも彼女は口を割らず、結構な逆ギレをされたためショックを受けていたようだ。


しかし、多くの男子が彼女に告白してるにも関わらず、他に好きな人がいるなんて珍しい話だ。


それに気付かない男はとんだ鈍感とさえ思えた。


「その好きな人には告白してないの?」


「うん・・・。」


互いに気まずくなる。


例の友達から愚痴のLINEが届く。


何故か舌がやけに渇く。


不規則に肩を震わせながら涙を溢す彼女。


「残りも使い切っていいから。」


彼女に合わせていた目線を上げ、リュックを背負い帰る雰囲気を醸す。


「もう遅いし、帰ろう。」


逃げる様に彼女に背を向けると、彼女が僕のリュックをそっと掴む。


色々な感情が混ざり合い、彼女を見ることができなかった。


「好きです。」


今一番聞きたくなかった言葉。


教室には実験用に置かれた天秤。


どちらも僕にとって余りにも重い。

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