探偵たちの章――Ⅵ
駒込及び白山周辺は、入り組んだ地形の隙間に敷き詰めるよう寺院が並んでいる。大半は徳川の時代に建てられたらしいが、よくこんなにも残っていたものだ。空襲での難を逃れた地域なのだろうか。
白山通りの坂を下り脇道にそれると、巨大な鳥居が目に入る。地域内では最大規模であろう白山神社が姿を現した。毎年六月には
灰色に染め上げられた鳥居。その脇に自転車を止めて、俺は階段を上っていった。自宅周辺からだと、さすがに徒歩では時間がかかるのだ。
段を上りきると、ベンチに座った三原が脚をぶらぶらしていた。何かの柔軟運動だろうか。脚が長くなるわけでもなかろうに、と俺は苦笑しながら近づいた。
「よお」
「ん」
空いていた三原の横に座る。
「江田から電話きたか?」
「きてない」
また、くだらんことに時間を割いているのだろうか。あまり切迫されたくないのだが……。
ああそういえば、これは伝えておかないと。
「青沼から電話がきたんだが、明日豊浜の家で警備をしてくれたら嬉しい、だと」
「あたしも? 足手まといにしかならないと思うんだけど」
「俺も同感だ。そもそも、青沼の依頼をまだ解決していない」
「……犯人捕まえろだっけ?」
端的に、三原は答えた。
「そうなんだが。でもな」
俺は、胸の内に書き溜めていた言葉を吐く。
「残念ながら、ご期待に沿えそうにはないな。達成できそうにない。三原の姉貴には悪いが」
三原は黙った。返すべき答えを探しているかのように、目を右に左に向かせている。そんな真面目に考えないでほしいなあ。俺に全責任を押し付けていいのに。
「……今から、その人と会うんでしょ。まだ、泣き言をいうのは早いんじゃない」
かもな。俺は笑った。あいつみたいな、皮肉な笑みじゃない。自然に出たものだった。
「方法は一つだけあるんだ」
「ほんと?」
「現行犯逮捕」
一言、それだけいった。
三原が何か言おうと口を開いた瞬間、鳥居とは別方向の階段から男が二人、並んでやってきた。
目を見張ったのは、華月の制服を身に纏った長身が、髪の毛を金ぴかに染め上げられていたことだった。校則は大丈夫なのか? 華月の校則はあってもないようなものなのか? 浮き上がる様々な疑問を吹っ飛ばすように男はフランクさを滲ませていた。
「江田の代わりに来たんだけど――そっちが、三原さん?」
「うん。えっと……廿日市君だっけ?」
「ご存知でなにより。やっぱ有名人なんだな、俺って」
おどけて独りごちると、隣にいた男を差し出した。丸顔で、あどけない。華月の制服がなかったら、中学生と判断したことであろう。そのコは唇を震わせながら、俺たちの前に一歩踏み出した。
「一年の、藤田です。話は……廿日市先輩から」
助かった。一から説明するのは、非常に手間がかかる。
すると藤田は、「あの……僕の家、向こうなんですよ」と鳥居方面を指さす。疑問符を打っていると、「歩きながらで、大丈夫ですか?」と訊いた。断る理由もない。
立ち上がり、鳥居の空間から白山通りの狂騒を窺った。
呼び出し音が鳴った。「江田」との名前を認識すると、すぐさま耳に当てた。
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