呪的遁走

那須儒一

0話 プロローグ

「さてと、これで新入生に配るパンフが出来たかな」

 みやびは明日の入学式にて新入生に配るサークルの案内を徹夜で作成していた。


 時刻は午前3時。既に明日ではなく今日だなと自身の認識を改めつつ、最後の仕上げに完成したパンフをダンボールに詰めていく。


「静かな夜だ…」

 築60年の木造住宅もとい“としけん”の部室を夜の静寂しじまが包み込む。

 他人から見たらボロ家でも、住み慣れた我が家よりも部室で生活しているみやびにとっては愛着すら湧いている。


 束の間の静けさを打ち壊すように、部屋の隅に置かれている黒電話がけたたましく鳴り響く。


 突然の電話に特に驚く素振りも見せずみやびは受話器を取る。

「…そうですか。わかりました…」

 誰かからの連絡を受けたみやびの声が低くくぐもる。


 入学式、早朝。部室にはみやびが完成させたパンフレットだけが残されており、これが彼の消息を辿れる最後の痕跡となった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る