第10話 2000/12


-----------------[短文のコーナー]------------------------------------


[Blue・Grey]


ブルー・グレイのそらが砕けて

ひらひらひらと、白く舞う

free・fall


クールな魅力のsnowflakes

まぶしい瞳で僕をみつめる

Lady・elfin



さあ、開けて、扉の向こう

みづの匂いにとけこもう

はじける想い とめどなく

流れる気流 僕をつつんで

遥かに輝く、地平を目指せ



街は静かな Water Color

煌くひかり あふれてる


君の微笑み 魔法のように

いろ、あざやかな、色彩そえて...


さあ、翔びたとう、ひかりのなかに

無限の自由、僕ら、誘い...

Air・Prizm ゆらめいて

輝く未来 微笑んでいる



臆することは、なにもない。

怖れることも、なにもない。





-----------------[長文のコーナー]------------------------------------


[city]


ぼおっと、赤いランプが軒先に光っている、下町の警察。

ざらついたコンクリートの感触を心に感じながら、

僕は、マシンを玄関に止めた。




「いつ来ても、ヤなとこだよな....。」

でも。

今日は?



薄汚れた玄関。

手垢に塗れた。硝子扉の、

ひとの温もりを僅かに感じる部分。

それ、以外は冷え切って、無機的だ。





ほとんど人気がないので、かえって不気味。

返事は、返ってこない無人のロビー。

微かに、ざわめきの聞こえる

方向へと、僕は歩いていった。

狭く、暗い廊下には、どことなく陰気な。

犯罪の匂い?とでもいうのか。






「そんな話、聞いてないな。」

初老に近い年齢の警官。

当直なのか、眠そうにけだるそうに。



「でも、確かに家に...。」

僕は、名刺をもってくりゃよかったな、と思った。



「だいたい、高速の事故は、管轄が違うんでね。」

「それで?妙な男に点けられた、と。

まあ、その話は一応伺っときますがね。

警察としては、被害がなけりゃ..。」

とりあえず、付近を警らさせましょう。

面倒臭そうに、そう答えた。


おそらくは形だけ。

そんな雰囲気が漂う。

おざなりな、まるで自動音声発生装置のような言葉。




「わかり..ました。」




こんな連中に期待するべきじゃなかった。

徒労感。

とでもいうのだろうか?

疲れが、どっと出てきたような気がして。

僕は、脚を引き摺るように出口へ向かった。



うす暗い廊下の向こうから、制服警官が歩いてくる。

中年の、いかにもそれらしい警官。

こちらを見るでもなく、でも確実に


「ちょっと、こちらへ.....。」

制服警官は、僕に手招きをした。






物腰柔らかく、しかし不気味な雰囲気を微笑みに浮かべ。





「なんですか?」




警戒しながらも、僕は従う。

逃げるのも妙だし。





「あなたのオートバイですか?あれ。」


警官は、汚れたガラス窓ごしに見える、僕のRZVを指差し。










「はい、そうですが。......。」


「先程、通報がありましてね、その...」


「なんですか?」


「暴走車両のナンバーと、あなたのオートバイの

ナンバーが似ているんですよ、」


「.........。」







......そうだ....。


さっき、あの男に追われた時....。








「あの......。」


「とにかく、お話うかがえますか?」


と、事務的な口調で。






職務にかこつけて楽しんでいる、という様子がありありと解る。


僕は、しかたなく警官の後について窓のない小部屋に入った。







その部屋には、すでに男がひとり。

革のコートを着た、黒眼鏡。

入り口近くに立っている.....。








「!」







こいつは........。






「おまわりさん、こいつが!僕を追いまわしたから.....。」


「追いまわした?そうか、では、暴走したのを認めるんだな?」


「ふつう、変な男が襲ってきたら、逃げるのはあたりまえだろ!」



コンクリートの、物の無い部屋に声はむなしく響く。



「まあ、いい。」

男は、しわがれた声で。


この声、どこかで聞いたことがるような気がする...ような。









「もう、さがっていいぞ。」


そう、男は制服警官に告げると、


「はい、失礼します。」


と気張った声で、制服は廊下へと消えた。



???????






「あんた、警官なのか?」



「まあ、似たようなものだ。」



「だったら、なんであんなことをするんだ!」



「...悪かった。いや。」








男は、無表情に。

しかし、さっきの制服とは違い、不快な印象ではないのはどうしてだろう。

なんとなく、警官らしいイヤラシサが感じられない。

虎の威を借る狐のような、というか。


そのことが、不思議な感覚だった。






「....ところで、君は、この男を本当に知らないのか?」


革コートのポケットから、銀塩写真。

モノクロームの顔写真は、あの512の男だった。



「.....偶然、あっただけ、さ。」

僕は、不思議に本当の事を話した。







男は、黒眼鏡に眉間の縦皺。

その、鉄面皮のような表情が微かに緩み、







「....そうか、わかった。いろいろ、すまなかった。」







真実を話している事が理解された、ということで、僕は安堵した。


思う。

あの刑事や制服たちに話せなかったのは、なぜだろう。

多分、僕は、連中の胡散臭さを忌避したの、かもしれない。

真偽を見抜く目の無い者特有の、疑り深さ、ごまかし、嘘、誘導。


男、としては堕落した連中の、狡猾さ。


そんなものに、生理的に反感を抱いたから、なのだろう.......。



誇り。

真実。


男の存在、意義。


それらを全て奪い去ってゆく、もの。


かつての男が、身を挺して守った“社会”。

そいつが、今、男たちの心を歪めてゆく、誇りを奪う、真実から遠ざける。


詐術を生存戦略とした、卑劣な連中どものせいで。





しかし、かつての男たちの残党は、反乱を企てている、かのようだ...。











RZVは、水銀の明かりの中で、どこか寂しげに見えた。

キーを入れ、イグニッションを。

緑色のランプが、少し滲んで見えた。

キックで静かにエンジンを掛け、3000rpmでゆっくりとスタート。



街路灯の白銀が、フュエル・タンクに流星のような軌跡をつけて、

飛び去ってゆく。







....R31の汚れたフロント・グラス越しに。

男は、どんな思いで、2ストロークの排気音を聞いていたのだろう。

遠ざかるRZVを見、少し汗で湿気た仏蘭西煙草に、シガーライタで点火した。

サングラス越しの眉間に、深く縦皺が寄り、

紫の煙がただ、たなびいていた。

通過する車のヘッド・ライトが、黒眼鏡に光りの筋をいくつも作り、

脂汗の滲んだ頬に陰翳を浮かびあがらせた。


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