第5話 観光中の出会い

 ……ふむ、つれごさんからメールは来てないな。準備とやらにどれだけ時間がかかるかは知らないが、まだ店を回れそうだ。


 せっかくだし、先輩方への土産でも見繕うとしよう。私は優しく気配りもできる後輩なので、先輩への配慮も欠かさないのだ。


 そういえば八宝菜さんが着物くれたが、だとしたらそういった系統は避けた方が良いだろうか? あの人のことだから部員全員分持ってそうだ。鎖国してるのにどうして、などと突っ込んではいけない。どうせ“オトモダチ”とやらに貰ったのだろう。あの人はそういう人だ。


 なら、食べ物系にするか。マジックバッグもあって腐ることはないし、好き嫌いも把握している。


 それで行くかと思考を落ち着けたとき、ドンッと誰かにぶつかった。


「アッすみませ……えっ!?」


 ぶつかった相手が小声で謝ってきたかと思えば……こちらを見て驚きの声を上げた。


 何かと思って私も相手の顔を見ると、間抜け面を晒す番長さんがいた。


「そんな間抜け面してどうしましたか?」

「酷くない!?」

「私は思ったことに嘘を吐きませんので」

「それが嘘じゃん!!! それに心に留めておくのも優しさだよ!? ……え、てか本当に何でいるの!?」


 番長さんは以前フェンリルの件でお世話になったハイパーラッキーガール(アバターの性別は不明)だ。特徴的なチャイナ服と長ランがなく、和風の町娘の格好をしているため、普通に気づかなかった。


「つれごさんとまくらさんの付き添いです」

「あー、まぁあの二人なら入国手段も持ってるか……」

「そういう番長さんは?」

「俺は……立ち話も何だから、店入らない?」

「奢りなら良いですよ」

「ちゃっかりしてんなぁ……」






「それで、こんな奥まった店に連れてきてどんな話をする気ですか?」

「人には言えない話」

「帰ります」

「報酬は勿論出るよ」

「何もたもたしてるんですか、早く話してください」

「手のひらドリルがすさまじいね??? おっかしいな……俺一応先輩なんだけどな……」

「後輩が先輩を敬わなければいけない規則はありませんよ」

「まぁ、それもそっか」


 番長さんのこういうサバサバしたところは好ましく思っている。正直、確実に面倒ごとに首を突っ込んでいるであろう雰囲気のせいでご飯だけ奢らせて帰りたいが、そうもいかない。


 何しろ番長さんは幸運の神に愛されているどころか、幸運の神そのものと言って良いくらいに運が良いのだ。そして、交渉相手の求めるものを的確に察知する能力に長けている。


「前払いの雪女の召喚陣ね」

「気前が良いですね。協力しましょう」


 つまりは買収された。そういうことである。

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