本物


ヨーグルトの中の蠢く乳酸菌が手に取るようにわかった

多分おれは気狂いなのだろう

それがわかっているなら一安心だ

「なあ」

おれは余裕で口を開いた

「おれは気狂いだけど自分が気狂いだってはっきり自覚しているぜ?」

神様に挑戦状を叩きつける

しかし通りすがりのお前から返って来た答えは意外なものだった

「あなたは全然、気狂いではありませんよ」

にっこりと微笑みそいつは言った

「本当の気狂いというのはわたしみたいな奴のことを言うのですよ」

おれの目の前にいるこいつが本当の気狂いらしいのだ

何もおかしなところは無さそうなのに

「………きみ、本当に気狂いなのか?」

「そんな尊敬と畏怖が混じり合うような眼差しで見つめないでくださいよ、所詮はただの気狂いですよ」

そいつは自己紹介を始めた

「母はティッシュです」

その晩は骨付きカルビを持って派手に二人で騒いだっけ


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