春が終わり、
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プロローグ
濡れた手でガラスのふちを撫でると、透きとおった水音がする。初めて聞いたときの耳の奥の感触を忘れられないまま、どこかにそれを探し続けていた。
毎朝グラスハープのCDを流すのは、またいつか、あの感覚に出会えると期待しているからだと思う。
光の漏れる隙間に指を差し込み、カーテンを引いた。むらさき色の空の下から、ほのかなピンクがさしていた。
ベッドから這い出し、シーツを整える。シワひとつない真っ白のシーツ。洗面所で顔を洗う。歯を磨く。バスケットの衣服を選りわけ洗濯機に放りこみ、窓辺の植物に水をやる。洗面所とシンクに跳ねた水をキッチンペーパーで綺麗に拭き取る。洗濯が終わるのを待つ間にコーヒーを淹れ、ソファに座ってグラスハープに耳を澄ます。
マンネリ化した動作には一分の狂いもなかった。
ピー、ピー、ピー、ピー、ピー。
洗濯機が鳴った。感覚の冴えた朝は音が鳴る前にわかる。
ベランダに長い影がさし、太陽がビルの脇から顔を出していた。窓を開け、湿り気を帯びた風を一気に吸いこみ、クシュン、と大きくくしゃみをした。
「これ。すごくよく効きますよ」
見たところ普通のお茶だった。飲めば不思議とくしゃみがとまった。
「スギはウメの季節でヒノキはサクラの季節。スギとウメは二文字で、ヒノキとサクラは三文字、そうやって覚えるとわかりやすいんです」
彼女の声は、つんと耳を刺すように高かった。
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