悪役令嬢に転生したからには...

真理亜

第1話 神SHOTを目指します

 公爵令嬢レイナが前世の記憶を突然思い出したのは、王立学園の入学式に出席するため馬車に乗っている最中だった。


「なんてこと...よりによって悪役令嬢に転生しただなんて...」


 レイナは頭を抱えてしまった。この世界は前世で彼女が夢中になっていた乙女ゲームが舞台になっているんだということを、唐突に理解したからだ。


「しかも婚約者であるはずのハインツが迎えにも来てくれないところを見ると、既に相当嫌われているみたいね...」


 詰んだ...レイナはそう思った。


 前世の記憶を取り戻した瞬間から逆に、公爵令嬢として15年間過ごして来た記憶が一切無い。それでも晴れの入学式の日に婚約者を迎えに来ないなんて有り得ないだろう。


 これはかなりやらかしているとみた...


 今から関係の修繕は可能だろうか? いや、そもそもどんなことをやらかしたのか覚えていない以上、なにをどうすればいいのか見当もつかない。


 だったらこれ以上、悪くならないようにすればいいんじゃないか? レイナはそう思うようになった。とにかく断罪からの国外追放だけは勘弁! これから悔い改めてヒロインを虐めなければ回避することは可能だろう。


 それに元々、神SHOTとして有名だった、攻略対象イチオシの王子とヒロインの2SHOTは、是が非でもこの目で見届けたい! レイナは決意を固めるのだった。



◇◇◇



「お嬢様、到着致しました」


 御者の声で我に返ると王立学園の正門前に着いていた。


「あ、ありがとう...ひっ!」


「お嬢様、如何なさいました?」


「な、なんでもないわ! ちょ、ちょっと目眩がして...もうちょっと休んでから行くわね」


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫よ! ちょっと休めば!」


 レイナが慌てているのには訳がある。婚約者である第2王子のハインツが正門の前で待ち構えているからだ。それもこの上ない仏頂面で。


 恐らくだが、さすがに婚約者をエスコートしない訳にはいかないだろうと思い直し、甚だ不本意ではあるがレイナの到着を待っているといったところだろう。


 ここで出て行くにはまだ心の準備が足りていない。もう少し落ち着いてからでないと...


「あれ? 待てよ? このシチュエーションどこかで...あぁっ! ヒロインとの出会いイベントじゃん!」


 遅刻しそうになって慌てたヒロインが転びそうになったところを、間一髪王子が助けるという神SHOT! これを見逃す訳にはいかない! レイナは固唾を呑んでヒロインの到着を待った。


「来た来た来た来た~! あのピンク髪はヒロインに間違い無い! 行け行け~! ヒロインちゃん!」


 ヒロインが駆けて来る。そして正門の前でコケそうになる。それを王子が...


「抱き止めろ! 良~し! 神SHOT頂きましたぁ! あぁもう! なんでこの世界スマホ無いのよ!」


 レイナは仕方なく脳内メモリーに焼き付けることで満足するしかなかった。


 

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