第9話

 アパートに着いた吉川が冷蔵庫から缶ビールを取り出し、椅子に腰かけながらグビっと一口飲み、我慢していた煙草に火を付けた。

 ふと、

 渡辺さん、本当に同じクラスにいたのだろうか……。

 そう思うと卒業アルバムを探し出した。

 確か押入れの奥の段ボールに入っていた筈だ。

 なんとかアルバムを見つけ出し、3年7組のページを開く。

 渡辺加代子……。

 見つけた。たしかに今日会った人だ。高校時代から幾分大人びて美人になっているが確かに同じ人物の様だ。

 本当にクラスメイトだったんだな。

 2本目の缶ビールを冷蔵庫から出しつつ加代子の高校時代の姿を見つめ続けた。



 築地口駅からマンションに着き307号室のポストを開ける。隣の306号室は空き室なのであろう、チラシやDMがポストからはみ出している。

 加代子は自分のポストに入っている幾つかの郵便物を手にしエレベーターのボタンを押した。

 ピザ屋チラシ、分譲マンションのチラシ・・・加代子宛の郵便物は無かった。

 部屋に入りテーブルに着く。

 そうだ、お礼のメールを送ろう。

 加代子はスマホを手にし吉川宛にショートメールを送った。

 「今日は御馳走さまでした。次は私が御馳走します。ありがとうございました。おやすみなさい」

 程なくして返信のメールが届く。

 「こちらこそ楽しかったです。また宜しくお願い致します」

 スマホをテーブルに置き、ほっと息をつく。

 吉川さんか……。全く覚えがないのだが本当にクラスメイトだったのであろうか?

 加代子は卒業アルバムを持ってきていない。実家に置きっぱなしだ。

 でもどうしても気になる。スマホを手にし母に電話をかけた。

 「あら加代子?どうしたの?」

 すぐに電話に出た母が尋ねた。

 「あ、うん。実は調べてほしいことがあるの」

 「あらそう?珍しい。なんなりと」

 母が答えた。

 「高校時代の卒業アルバムをみて欲しいんだけど」

 「急にどうしたの?」

 母には今日同窓会があった事は伝えていない。

 「はいはい?なんでしょう?アルバム見てますよ?」

 「あのさ、私の3つ前の人誰か教えてくれない?」

 「3つ前?・・・えーっとね、吉川さんって方ね。吉川遙さん」

 本当に居たんだ。嘘じゃなかったんだ。

 「だよね。わかったよ、有難う、お母さん」

 「いったいなんなの? この吉川さんと何かあったの?」

 「別に何でもないよ」

 加代子は早々に電話を切りベッドに横になった。

 吉川が架空の人物では無く本当に存在していた事に安心と嬉しさを感じていた。

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