旦那が浮気した。しかも相手が実娘だから全力で復讐します。
雲川はるさめ
第1話
俺はしがないタクシー運転手。今45歳。
雪のしんしんと降る真冬日に、
長野県の塩尻峠の街道沿いで綺麗な黒髪ロングヘアを携えた赤い毛糸の帽子を目深に被った色白の女が乗り込んできた。旦那に浮気され、
しかも浮気相手は我が娘だったと言う。
見たところまだ若い。
歳の頃、34、5といったところか。
「何方まで?」
「行き先はまだ決まっていません」
「は?」
変な女だなと思った。
じゃあ、手を挙げてタクシーを捕まえるなよなと心の中で悪態を吐いた。
「どうします?目的地が明確でないなら
乗り込んだ意味が無いんじゃないですか?」
「いいえ、そんなことはありません」
「というと?」
「車内は暖房が程よく効いていて暖かいですし。それに...」
「それに?」
「誰かと話したかったんです。
その、なんといいますか、愚痴を聞いてもらいたかったんです」
「へぇー、愚痴ねぇ...」
正直なところ。
どんな愚痴かは分からないが
そんな負の感情に塗れた話はあまり聞きたくはなかった。いや、でも。他人の不幸は蜜の味とも言うし、少しだけ興味はあるか。
「私で良ければ聞きますよ...」
「本当ですか!?それでは、お話させていただきます...」
女はコホン、と咳払いしてから
こう続けた。
「長年、連れ添った主人に浮気されたんです」
「浮気ですか...まぁ、大概の男はやりますね...」
「浮気を擁護する立場ですか?」
「まぁ、私も大概の男の部類に入っている
と思いますね...」
「それが。浮気相手がまたいけなかったんです」
「若い女ですか?会社の部下とか?」
「若い女、の方だけ合っています」
「まぁ、男は若い子好きですからね...
肌も張りがあった方が燃えますし...」
「そうですか。その相手は当時まだ女子中学生だったんですよ...」
「へぇ...」
「それも私の足の骨を折って動けなくしてから
事に及んだんです」
「私の目の前で、旦那は嬉々として
娘の部屋で、さも楽しそうに...!!」
「え?」
突如、運転手の声のトーンが変わった。
女は尚も続けて話した。
「娘は父親に初めてを奪われたショックでおかしくなり、今、精神病院に入院しています。
毎日毎日、大量の精神安定剤を医者から処方され飲んでいます。
母親の方は...。マンションの屋上から飛び降り
亡くなりました」
「さて。問題です」
「その旦那は今、何処で何をしているのでしょうか?」
タクシー運転手は何も答えなかった。
「もしかして....」
運転手がごくりと唾を飲み込み、
額から冷や汗の様なものを垂らし、
目を見開きながら背後を振り返った。
女の顔をマジマジと見ようと思った
その時だった。
ガッシャーン!!!
車はガードレールを突き破り、
谷底へと真っ逆さまに落ちて行った。
脇見運転が招いた末路だった。
後部座席に座っていた女は
ハンドルを握る旦那の死をしかと見届けてから
こう呟いた。
「たった今、私の行き先は決まりました。
あの世です」
「どうか、神様。
あの世ではこのクソ男と絶対に顔を合わせることのないよう宜しくお願い申し上げます」
「そして。やがては娘が退院して、
いい人と巡り合い、
幸せに暮らしますように、重ねてお願い申し上げます」
女の幽霊は。
車から降り、
フワフワと宙を彷徨い歩き、やがて
消えた。
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旦那が浮気した。しかも相手が実娘だから全力で復讐します。 雲川はるさめ @yukibounokeitai
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