ただいま修行中!!(没)
NEO
序章
第1話 想定外の旅立ち
私の名はクリム。年齢は十才になったばかり。
代々魔法使いのお父さんとお母さんの血を引いて、私もまだ卵だけと魔法使いだ。
本当はシグレンという、ここから馬車で一時間くらいかかる、それほど大きくない街だったが、魔法使いの伝統として十五才になるまで、誰か師匠の元で修行しなければならない。
私の場合、おばあちゃんが魔法使いだったのでその手に預けられ、カランサという海沿いの本当に小さな村で育った……とまあ、そういうのはともかくとして……。
「はぁ、このぼろっこい乗合馬車時間通りにきたことないんだよね」
ひなびた街道沿いある乗り合い馬車の停留所で、シグレンに出かけているおばあちゃんを待っていた。
「はぁ、私がわるいんだけどね。おばあちゃんのホウキで遊んでいたら、バッキリ折っちゃったんだもんね。新品の買い出しとついでに薬を買ってくるっていってたな。膝が痛いって大変そうだしね。魔法薬師にでもなろうかな。難しいけど」
私は笑みを浮かべた。
しばらくして、馬車が近づいてくる音が聞こえ、ガラガラの馬車からおばあちゃんが下りてきた。
馬車の屋根上スペースには届かないので、私がよじ登ってホウキを取って下りた。
「ありがとう」
もうかなりの年齢だろうなと思っているが、おばあちゃんが優しげな笑みを浮かべた。
ガラガラと乗合馬車が遠ざかり、私はホウキをもって家に帰った。
家に入ると、おばあちゃんは居間のいつもの椅子に座り、ニコニコしながら私をみた。「その杖をよく見てご覧なさい。柄の先端の方です」
私はホウキの柄の先端を見て、ビックリした。
「わ、私の名前……」
「はい、その杖はあなたのものです。私はすでに自分で直しました。慣れれば簡単なのです」
おばあちゃんが笑った。
「そ、そんな、ついに飛んでいいっていう許可が……」
「はい、あなたももう十才です。そろそろ始めてもいいでしょう。一休みしたら、さっそく始めましょうか。まずは、浮くところからです」
おばあちゃんが笑った。
やや夕焼け掛かった空の下、おばあちゃんと私は程々に広い庭にいた。
「まずは、クリム。そのホウキに跨がって」
「はい」
私はホウキに跨がり、ちょうどいい場所に腰を下ろした。
「最初に伝えておきます。これは飛ぶ事を教えたいのではなく、魔力の集中力を高めるための訓練だと思って下さいね。簡単そうですが、難しい。できますか?」
おばあちゃんが笑った。
「やってみれば……。えっと、魔力の集中……?」
私はホウキに魔力を集中させた。
魔力の放出などとっくに出来るので、それを杖に溜めていくイメージで……。
しばらくやっていると、おばあちゃんが止めた。
「はい、もういいでしょう。これで、このホウキはクリムしか使えません。誰しも最初にやる事です」
「はい、分かりました」
私は右手で額を拭った。
「では、本番です。ホウキをしっかり持って、『浮け』と念じるだけです」
「分かりました……」
私は目を閉じ、「浮け」と念じた。
地面についていた明日が浮き、私を乗せてホウキが浮き上がった。
「おばあちゃん、出来たよ!!」
思わず声を上げた途端、いきなり箒がガタガタしはじめたので、私は慌てて意識を集中させ、ホウキを安定させた。
「少し慣れたら高さを変えたり、ゆっくり前や後に進めてみなさい。最初でこれなら問題ないわね」
おばあちゃんが笑顔でいった。
私は頷いて、高さを変えながらホウキの練習をして、思い切って少し前に進めてみた。 決して広い庭ではないので、あっという間におばあちゃんの家から出てしまい、こうなったらとお私は海に向かって、地面に手が届きそうな高さでホウキを飛ばした。
「い、いいんだよね……」
小さな村を抜け、地面スレスレで、砂浜の砂を風で巻き上げながら、そのまま海上に出た。
「これが空か。いいね」
私はホウキの速度をあげ、海面スレスレの飛行を続けた。
みると、いつの間にか黒いサングラスをかけたおばあちゃんが右脇後方に付き、同じような速度でついてきていた。
楽しくなった私は一気に速度を上げ、目の前に迫ってきた船を急上昇でさけ、また海面近くをひたすら飛び、岬の灯台を回って帰路についた。
「これいいね、気持ちいいよ」
私は思わず一人呟いた。
そのまま夜釣りに出る船団の上空を掠めるように飛び、無事におばあちゃんの家の庭に戻ってきた。
「はい、合格です。お疲れ様でした」
庭でおばあちゃんが笑みを浮かべた。
「ありがとうございました」
私も笑みを浮かべ、ホウキを空に掲げた。
「予定外です、ここまで上手に飛べたという事は、魔力の集中には問題はありません。あとはどんな魔法を使うかです。この家だけでも、かなりの書物があります。例えば、何か植物を育てる方法とか、自動筆記も便利ですね。結界も便利です。今日は練習のつもりだったのですが、これなら大丈夫でしょう。私から積極的に教えられる事はここまでです。たったの十才で卒業してしまうとは、かなりの魔法使いになれるかも知れません」
「そ、卒業ですか!?」
私は思わず声を裏返らせてしまった。
「はい、あとはアドバイザです。どうしますか、私はそこの魔法学校で勉強するのをオススメしますけれど。このままここでも構いません。魔法学校はここから通いでいけるので、興味があるなら紹介状を書きますよ」
このぼろっこい村にも魔法学校があって、簡単で実用的な魔法が欲しくて習いに行く村人が多い。
中には王宮魔法使いを目指して頑張る人たちもいるが、それはごく少数派だった。
「そこに見えるリズエラトパトラ魔法学校……。田舎にあって目立たないけど、実は優秀な魔法使いを輩出するってホント?」
私はおばあちゃんに聞いた。
「はい、それは本当です。興味はありますか?」
「もちろんだよ。魔法使いになるって決めてる以上、魔法学校で勉強をしっかりやりたいよ」
私の言葉に、おばあちゃんは頷いた。
「分かりました、ではさっそく……」
おばあちゃんがホウキを家の壁に立てかけ、私も真似て同じ事をして、庭側の扉から家に入った。
冬が明けて間もない今は、夜になると急に冷える。
温かな暖炉の火に照らされないが、私はソファで簡単な魔法薬を作っていた。
「えっと、次なんだっけ、次なんだっけ……」
ガタガタ次の材料を探していると、アルコールランプで加熱中の薄気味色をした魔法薬の元Aが突沸をおこし、試験管からボコッと吹き出て飛び散った。
「あちっ!?」
熱い液体が顔にかかり、思わず手を振った瞬間に装置全体をひっくり返し、私は慌ててアルコールランプの火を消した。
「あーあ、またやっちゃったよ。魔法薬は面倒なんだよなぁ……」
私はそこらに飛び散った液体を拭き取り、試験管にヒビがない事を確認した。
「どうすれば美味くいくだろう……。そっか、先に材料を全部使う順に並べて置けばいいのか。あとは、あっ、アレはどこだったかな」
私は居間の引き出しを開け、白い小さな石のようなものがつまり、沸騰石と書かれたラベルが貼られた瓶を取り出した。
「これだ、なんか知らないけど、危ないから絶対に入れなさいっていわれてたな。二、三粒でいいらしいけど……」
私はもう一度装置を組み立て、材料をすりつぶしたり、叩いて粉にしたり、鉛筆削りのような機械で、削ったりした。
「材料は揃ったか。後は試験管二本に材料を入れて……」
私は失敗した魔法薬の精製を、再び始めた。
「いけね、黒サンショウウオだった。蛇トカゲじゃない」
私は落ち着いて、材料を差し替えした。
「さて、あとは過熱して、まだまだ火を付けてないもう一本の試験管に入れるだけだね。「おばあちゃんどこ行っちゃったのかな。すぐに戻るっていうから、何かの買い忘れかと思ったんだけど、違うのかな?」
私はチラッと家の出入り口をみて、魔法薬の装置を見つめた。
火を付けている方の試験管コポッとなり、それを合図に火をつけていなかったもう一つのアルコールランプに火をつけ、暇つぶしに明かりの球を天井近くに上げて、色を変えてえて遊んでみた。
しかし、それにも飽きたので、私は呪文を唱えた。
「……ダイヤモンド・ダスト!!」
私が突き出した右手の平から、猛烈な勢いで綺麗に光る水の攻撃魔法をぶっ放した。
氷は部屋の壁を容赦なくぶっ壊し、外まで貫通した光の帯はそのまま破壊音を響かせ、夜空に消えていった。
「……しまった。つい、暇でやっちまったぞ」
私はとりあえず、普通に魔法薬の精製を再開した。
A液とB液を混合するだけといえばその通りなのだが、この配合が難しくて、でもそこが面白いうというのが魔法薬。
おばあちゃんも三番目くらいに魔法薬が好きで、この業界で名があるパラト・ウエンディという人が書いた本を何冊も持っていた。
「さて、Aはこれでいい。あとは、Bに混合」
私は二つのアルコールランプの炎を消してから、試験管ばさみでスタンドにセットして、しばらく中の液体が落ち着くのを待った。
すると、Bの液体が黄緑色の光を激しく放ち、家の中が明るくなった。
「これが収まってから……」
しばらくすると、黄緑色の光が落ち着いて、ただ静かに黄緑色の光を放つだけの液体になった。
「さて、こっちだな。これで、液体になるか薬液になるか決まる……」
私は黒いもう一本の試験管を試験管ばさみで挟み。黄緑色の光の試験管に静かに注いでいった。
この時間だった。この時間が命で、ゴミになってしまうかが決まる。
私は祈る気持ちで最後の一滴まで落とした。
「さて、あとは冷ませば十分かな。その間に、この壁に空けちゃった穴どうしようかな。外から石でも詰め込んで、誤魔化そうかな」
私は笑みを浮かべ、倉庫からビニールシートを取り出し、外に出て雨が降っても多少は大丈夫な状態にした。
「よし、クリム特製。適当に雨知らず!!」
私は家の中に入り、思わず笑みを浮かべた。
その間に魔法薬が冷めたようで、私は試験管を手に取って軽く振ってみたが、特に問題なかった。
「はぁ、これが一番簡単なポーションとかいうヤツなんだね。結論、買った方が安くて便利。でも、覚えておいて損はなし!!」
私は笑った。
装置を丁寧に片付け、やる事がなくなった私は、しばらくソファで転がったあと、そういえば地下室があったなと思い当たった。
「クリムは一人は入っちゃダメってきいたけど、危険な食料とか危険な魔法薬の材料が置いてあるだけでしょ」
私はソファから立ち上がり、地下へと続く階段の前にある扉の前に立った。
「あれ、鍵がかかってる。こうなったら……」
私は呪文を唱えた。
「……適当に散れ!!」
私は扉に向かって爆発魔法を放った。
「しまった、爆発は!?」
すでに魔法が発動した後で、気が付いても遅かった。
辺り一面閃光が走り、ド派手な爆発が家を根こそぎ消し飛ばした。
「……どうしよ」
思わず握った扉のノブだけ持って、私は途方に暮れてしまった。
「まいったな、助けを呼ぶにも隣のトーラスさんの家までは二キロ近くあるし、こうなったら、ホウキでどこか……」
私が呟くと、どこかに埋まっていたらしく、ホウキが私の手元に飛んできた。
「……おいで」
私は手にしていたノブを放り捨て、ホウキを抱きしめて地面に座った。
「あーあ……どころじゃないな。これ、どうしようかな。ってか、おばあちゃんどこ?」
私はぐったり地面にひっくり返った。
そのままひっくり返って夜空を眺めているうちに、ガラガラと馬車の音が聞こえてきたので、立ち上がった。
私が明かりの魔法を上げると。白塗りのかなり上等な馬車で、こんなちっぽけな村で見る事はなかったし、実際、今まで見たことがなかった。
私が上げた明かりをなにか合図と取ったのか、馬車がゆっくり速度を落としはじめて止まった。
馬車の扉が開くと、普段着だとは思うが、いかにも上等そうな服を着て人が下りてきた。
「こんばんは、このような時間に困った様子が顔に出ています。お話しを聞かせて下さい」
「はい、実は……」
私は馬車から降りてきたその人に、掻い摘まんで話を聞かせた。
「ああ、失礼。私はこのアハド王国第二王女マドンラです。よろしくお願いします。護衛もなく不思議だと思いますが、要するに家出の身なのです。苦労しました」
マンドラさんが笑みを浮かべた。
「わ、私はクリム・エランコード。ここで魔法の修行をしていたのですが、よりによっておばあちゃんがいないときに……ん、第二王女……様!!」
私は、思わず飛び上がった。
なんでこんな辺境のへっぽこ村に突然すっごいのが生えたと驚いた。
「はい、でももうこりごりです。昨日、三回目に暗殺されかけて、こんな場所いられるかって……逃げちゃった!!」
マンドラさんが舌をペロッと出した。
「に、逃げちゃった!?」
私の低性能な頭では、早くも理解出来なくなった。
「はい、もう嫌でしたから。さて、そろそろいいでしょう。着替えますので、馬車の中に入りますね」
マンドラは馬車に乗って、よく街の人がきているような服に着替え、髪型も変えはじめた。
「あの、手伝いましょうか?」
「普通に友人のように喋って下さい。もし誰かきたら、怪しまれます」
マンドラは笑った。
「では、失礼して……。マンドラ、ここで着替えなくても……」
「見た?」
マンドラが爆笑し私はパカッと口を開けた。
「あはは、面白い子だね。ビスケット」
マンドラが私の開けたままだった口に、香ばしいビスケットを放り込んだ。
「……美味しい」
「ならよかった。それにしても……ああ、呼び捨てね。お互い。毎日ヘコヘコされて、それも嫌気が差していたんだ。私もクリムって呼ぶよ。それにしても、お婆様遅いね。どこにいるはずなの?」
「それがわからない。ここには街道一本しかないから聞くけど、途中で異常がなかった?」
「うーん、特になにもなかったよ。しっかし、真っ暗だね。クリムのお婆様捜しに行くにも、これじゃなにも見えないよ」
「それで困っていたんだ。迂闊に魔法使っちゃって、墓穴掘っちゃったし」
私は苦笑した。
「それにしても、長い髪の毛だね。セットが大変でしょ」
「うん、一人じゃ無理だし、思い切ってバサって切っちゃおう!!」
マンドラが笑った。
「それも一人じゃ出来ないよ。私もてでは出来ないし、創世系の魔法を使えば出来るけど、いいならやっちゃうよ」
「へぇ、そんな便利なのがあるんだ。肩くらいでいいから、もうズバッとやっちゃって!!」
マンドラが笑った。
「うん、待って。馬車の椅子に座って、気持ちを楽にして、こんな感じがいいってイメージして」
私は、これとホウキだけは残った鞄を空け、パラパラとページを捲った。
「滅多に使わないから……。よし、あった」
私はノートをしまい、呪文を唱えた。
馬車の椅子に座ったマンドラの周りにいくつも『窓』が虚空に浮かび、全体イメージもバッチリ表示された。
「よし、成功。後は静かに目を閉じて、座ってるだけで大丈夫。一瞬で変わるよ」
「そうなんだ。便利だね」
マンドラが笑った。
「注意点は、戻せない事だよ。あと、変えられるのは髪型だけだからね。別人にはなれないから」
「分かった。よし、出来たよ」
マンドラの声と共に、その全身が光り。まるで雰囲気が違う人になった。
「うん、これでいい。もう、王族らしさはないでしょ」
マンドラは馬車から下りて、笑みを浮かべた。
「あと馬車だね。王家の紋章まで入っていたら……」
「これも直せるよ。えい!!」
馬車が光り、今までの豪華な馬車から、どこにでもあるような大きな幌馬車に変わった。
「これでいいいか。目立たないし」
マンドラが笑った。
「うん、いいと思う。おばあちゃん、遅すぎるな。でも、心当たりはないし……」
「うん、心配だよね。とりあえず、真新しくなった馬車に乗ろう。ちょっと寒いし」
マンドラは私の返事を待たずに手を取り、馬車の荷台に飛び乗った。
当然ながら馬車内は真っ暗なので、私は魔法で光りの球を打ち上げた。
「やっぱり不安だよね?」
マンドラが私に体をくっつけた。
「うん、いつもいるからね。とんでもない時に、家をぶっ飛ばしちゃったよ」
私はため息を吐いた。
「まあ、今日はゆっくりしよう。明るくなったら、ホウキかなにかで帰ってくるでしょ」
「うん、どうにもならないしね」
その夜、私とマンドラは、山のように積もった魔法の愚痴とか、城のクソ面倒な話をしながら、徹夜で会話を続けた。
マンドラと話をしていると、日が昇ってからホウキでおばあちゃんが帰ってきた。
「あっ、帰ってきた!!」
不思議そうに馬車を覗いたおばあちゃんに、私は飛びかかるように抱きしめた。
「ごめんさないね。会合が荒れて落ち着くまで……。これはどういうことですか? 家がなくなって、この馬車だけというのは……」
マンドラ動き、素早く馬車から飛び下りた。
「通りすがりの者です。昨晩、ここでクリムがホウキを握りしめて泣いていたので、詳しく事情を聞きました。少し長いですが、ご説明を」
私に代わり、マンドラがおばあちゃんに説明をした。
「そういう事ですか、分かりました。ところで、失礼ですが、あなたがお城で大騒ぎになっているマンドラ姫ですね。上手く隠せていますが、そのサンダルがミスマッチです」
おばあちゃんが笑った。
「あっ、そこまで……」
「悪い事はいいません。お城にお戻り下さい。私はそうとしか申し上げません。ご事情があったはずなので」
おばあちゃんが笑った。
「クリム、サンダルを靴に出来る?」
「うん、出来るよ」
私は馬車から降りて、小さく呪文を唱えた。
マンドラの豪華なサンダルが、ありきたりなショートブーツに変わり、私は笑みを浮かべた。
「おお、ありがとう。あの、お名前を伺っても?」
「はい、私はエルダと申します。この子はまだ魔法修行中で、あと五年は私の元で修行を積まねばなりません。もう教えるべき事はほとんどないと思っていたのですが、私の家を吹き飛ばしてしまうようでは、まだまだだったかもしれません。まあ、卒業は卒業です。なにが適切な行動かは、失敗から学んで行くものですからね」
おばあちゃんは笑った。
「さて、それでどうしましょうか。私はこのまま、この馬車で旅をするつもりです。クリムとも随分仲良くなりましたし、可能なら同行させて頂きたいです。よろしいですか?」
マンドラが頷いた。
「えっ、私も!?」
「だって、一人じゃ寂しいから。城生活しか経験ないし、困っちゃうんだよね。助けて欲しいんだ」
マンドラは笑みを浮かべた。
「分かりました、それも訓練です。ただ、見習い期間が五年間残っていますし、まだ十才の子供です。私もお目付役で同行しましょう。それであれば、構いません」
「分かりました、願ったり叶ったりです。では、これからは私の事はマンドラと呼び捨てにして下さい。私はエルダと呼び捨てにしますし、長らく親交があったかのように振る舞いますので、ご無礼お許し下さい」
「分かりました。では、近くの街で諸々揃えましょう」
おばあちゃんが笑った。
「分かりました。それでは、馬車に乗って、ゆっくりして下さい」
マンドラが笑い、私はおばあちゃんが馬車に乗るのを手伝い、自分も乗り込んだ。
「それでは、行きますよ」
マンドラが手綱を操り、馬車はゆっくり街道を走りはじめた。
「それにしても、クリム。あの地下室に行こうとしたのでしょう。他に理由が見当たりません」
「うん、ずっと気になっていたから……」
「あそこには危険な魔法薬が山積みだったのです。幸い誘爆しなくて済んだようですが、一度は死んだようなものですよ。気をつけなさい」
おばあちゃんが笑った。
「そ、そうなの……」
私の顔から血の気が引いた。
「ちゃんと反省は出来ていますね。無茶はしないことです」
おばあちゃんは笑い、持ったままだったホウキを空間に開けたポケットにしまった。
それで思い出し、私も床にあったホウキをポケットにしまった。
「全く、お転婆ですね。その方が、いい魔法使いになるのです。失敗は成功の元。気にしないでください」
「はい、ごめんなさい」
私は小さく息を吐いた。
こうして、突然の事ではあるが、私たちは当て所ない旅に出たのだった。
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