独立都市デバンド
果ての見えない黒の空間、その空間の所々に形も大きさも様々な光の窓がある。
「わ、わ、わ、これどうやって進むのっ?」
「うわー!」
リナリィとアウラがその空間で溺れる様にバタバタともがくが、一向に進まない
「あ…この空間は無重力なので、私以外の人は外の物体を掴んだり、他の人をその…踏み台にしたりしないと動けないんです」
「な、なるほど…まさか初めてのミッションが着いて早々に影の中になるとは思わなかったわ…」
リナリィはこの世界に着いた途端に、一緒に来たソウマは飛び出して行ってしまい、代わりにハンナが現れたと思うや否や影の中に入り今に至る。
「それにしてもソウマ君のあの姿…」
リナリィは光の窓の外で
「ハンナを助けてくれた…ソウマさんのもう一つの姿です」
「ハンナさんもソウマ君に助けられたのね」
「はい…あの時のソウマさんの勇姿は今でもハッキリと覚えています」
ハンナは自らが
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そびえ立つ岩山の数々を削り、穴を穿ち、そこから得た石材や鉱石、そして岩山そのものを加工して造り上げられた独立都市[デバンド]
その街の周囲には岩山を螺旋状に登る線路や隣り合った岩山を繋ぐ線路の上を列車が走っている。
十二峰ある山はそれぞれが街として機能しておりその頂上は窪地状に均され、都市の有力者達がそれぞれに屋敷を構えている。
その内の一つデバニア鉱業が最も盛んな街クラジール、その街の名を冠する家系クラジール家の当主オステア・クラジールの三女がハンナ・クラジールだ。
デバニア鉱はこの世界の主力エネルギーで、その産出は、元々はマバルバという国に属する土地であったこのデバンドの地を独立自治都市と認めさせるに至るほどである、デバニア鉱は水に触れると発光し、デバニア鉱同士をこすると電気を発生させながら気化していく性質を持っている。
例えばデバンドでの街灯はガラスの様な透明の球体に水が張ってあり、その真ん中に拳大のデバニア鉱が固定された物になっている。
列車等はシリンダーに入ったデバニア鉱を上下させる事で摩擦を起こし、後はその時に生まれた電力でシリンダーを動かすという方式をベースに動かしているようだ。
特筆すべきはデバニア鉱の圧倒的なコストパフォーマンスの良さだ。
このデバンドを構成している岩山や、その周りにそびえる鉱山の内部でデバニア鉱は採掘されるが、既に掘り終えた場所でも、時間が経てば周りの空気中に含まれるこの地域特有の気体デバニウムが再度結晶、鉱石化される為、採掘量と流通量さえ過剰にならなければ尽きる事はない。
デバンドはその名からも分かる通り、デバニア鉱がこの世界で初めて発見された土地であり、現在もなお他の追随を許さない産出量を誇る。
クラジール家は代々デバニア鉱の採掘を担ってきた、この世界でも三本の指に入る発展都市デバンドで序列三位の名家であり、今も変わらずデバンド全体のデバニア鉱業を管理・運営している。
有力者の敷地の一角には列車の駅の他に、上層、中層、下層、そして地下の最下層までを繋ぐエレベーターが運行されており、外周を回りながら登る列車よりも遥かに早く上下の移動が可能である。
無論下層に行くほどに面積は広くなる為、目的地によっては列車を使った方が早い場合もある。
今クラジールを走るその列車の上に座し、風を受けている男がいた。
「ほう…これは良い景色だな…」
「ハッ、仰られる通りで御座います閣下」
「
「申し訳御座いません、まだ反応が小さく絞りきれておりません…
肩に止まっている嘴を太く長くした梟のような五本指の鳥に閣下と呼ばれた男、短い銀色の髪、深緑の軍服に黒の軍靴を履いた、いかにもな軍人然とした服装をしている。
「構わぬ、しかしそうなるとこの景色が血に染まるとなるか…」
「さぞかし絶景かと」
「そういう事だバキアよ!吾輩は心が痛むぞ!!」
「御意に御座います閣下」
「ククク…クハハハハハハ!!!」
そのまま軍服の男は列車に乗ったままクラジールを離れて行った。
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軍服の男がクラジールを去ってからおよそニ時間ほど経った頃、ハンナは隣の街にある学校からの帰路についていた。
「ユニウ先生、さようなら」
「はい、ハンナさん、さようなら」
ハンナの家、クラジールの屋敷は隣の街[ガムテル]の中層にある学校からエレベーターで下層に降りて、列車でクラジールの街の下層へ行き、そこでまたエレベーターに乗り換えて頂上に行くルートが時間的には最短だ。
しかしハンナはいつも二度の乗り換えを要するルートよりも、中層からガムテルの外周を回りながら頂上へ、そしてそのままクラジール家の敷地の駅へと続く列車に乗る。
このルートは二つの有力者の敷地内に入る為、誰でも使えるルートでは無い、実際にガムテルの頂上、ガムテル家の敷地内に入る直前の駅で、所謂SPの列車内検閲が入る。
クラジール家の三女であるハンナは当然の様に顔パスである為、走行距離の長さと検閲の時間を合わせて、下を通るルートよりも倍近い所要時間を要するが、ハンナはその時間をその日の学業の復習の時間に当てていた。
「デバニア鉱のエネルギー効率を高める為に、空気中のデバニウムを取り込みながら加熱させる機関を発明した866年産まれの発明家は…」
この日もハンナは列車の中で復習をしながら帰っていた。
「この新型デバニウム循環熱発生機関を…!?」
<ドッゴォォォォンッ!!!!>
爆発音と衝撃があり列車が緊急停止をする。
「な…なんですか…?」
まだガムテル上層にも着いていない地点の線路上―――つまり岩肌である街の外周で停止した列車、夕方のこの時間に、この先富裕層の居住区である上層に住む者や、頂上の屋敷、そしてクラジール家の敷地内に入る許可を得た者しか乗っていない為、さほど乗客は多くない
「なんだ?今の音…?」「ば、爆発…?」「何…どうしたの?」
乗客は車窓から外の様子を伺おうとするが、見えるのはいつもと変わらない周りの岩山と街、そして反対側の岩肌だ。
「一体何が…あ…」
『き、緊急停止申し訳ありません…え?えー…た、只今…』
ハンナも同じく車窓から外を確認しようとした時、車内アナウンスが流れてきた―――――
『当列車は…デ、デバンド防衛軍からの宣戦布告を受けて巡行不可能となりましたので、非常経路から避難をお願いします…』
「…はぁ?」「なんの冗談だ?」「デバンドがデバンド防衛軍に宣戦布告を受けたって何?」「車掌!ちゃんと説明を!」
このガムテルももちろん大都市デバンドを構成する街の一つだ、デバンド防衛軍とは序列一位のワグサム家が管理しているその名の通りデバンドを外敵から防衛する為の軍隊である。
デバンドは一つの都市でありながら、国家予算に匹敵するほどの資産をデバニア鉱業とそのエネルギーを利用して動く機関で生み出してきた。
その為、その莫大な資源を得ようとする他国やテロリストの類にも対応出来る様に、都市独自の防衛軍を所有している。
状況を飲み込めない乗客達の抗議の声を置き去りに、<ウィーン>と列車のドアが開いた。
「非常経路って…これ…ですか…?」
線路上に降りたハンナの視界に恐らく点検用に作業員が使用する岩肌に設置された長いハシゴを登る人達を見て呆然とする。
現在中層と上層の中間地点、地上からゆうに五百メートルはある高さだ、作業員であれば転落防止のベルトを装着して昇降するだろう、だがそんな装備も無く特に運動に身体能力に秀でているわけでもない自分が、吹き荒ぶ風を受けながらこのハシゴを果たして昇れるのだろうか…考えるだけで足が竦む…
「!!!」
ハンナは息を呑んだ―――――ただでさえこの高度で風は強い、だが時折来る突風はその比では無かった。
「こんなの…昇れませんよ…」
ハンナは膝を震わせながら呆然とハシゴを眺めて呟いた――――――
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