V.C.T
丁度ザグラスがリナリィの世界からディスコネクトした時メリルは治安隊の動きを警戒しながら、木の間を縫う様に飛んでいた。
「ソウマ、ネクロの反応消えたわ!」
メリルはネクロの、というよりヤッツムの臭い―――実際にはその
「くそっ!結局逃げられたか!」
「仕方ないわよ、追い返せただけ良かったと思わないと、とりあえずコマンダーが来る前に私達もディスコネクトしないとね」
「そうだな、一度森の上に出る、合流しよう」
「オッケー!」
そう言ってソウマは木々を利用しながら上空へ飛び上がり、メリルはソウマの
そしてソウマは木々よりも高い位置に出た所で丁度飛び込んで来たフルゴオルビスの背に乗る
「よっと、さっすが!タイミングバッチリだな!」
「ふっふーん!そうでしょそうでしょ?」
ネクロも追い払えて、ほぼ問題は解決した二人は少しリラックスしているようだ。
「ところでリナリィさん、メリルには結構説明聞けたかな?」
「あ、はい、今のところ聞いておきたい所はたぶん」
「おー、それは良かった!じゃあちょいと
ソウマはリナリィが目覚めた時に支障が無い場所を探す。
「そう言えば、私は
「あ、それは大丈夫よ、私がリナリィさんの
「そうなんですね!じゃあ、教室とかでも…?」
懸念していた
「いやー、それは…俺達は記憶に残らないからいいけど、リナリィさんは世間に大事故のど真ん中で奇跡の生還を果たした少女みたいな扱い受ける事になるかもだよ?」
と、ソウマが苦笑いで言う
「あ…そうか…」
「この騒ぎは…そうね、恐らく通り魔とかテロの犯行みたいな扱いになると思うから、なんなら避難したという形も取れるし、少し離れた所でもいいかもね」
「あ、それなら…そこの池の所でも大丈夫です」
リナリィは校門から四つの校舎を挟んで反対側にある池を指し示す。
「よし、じゃあそこにしようか」
「まだ治安隊も来てないみたいね」
メリルは幻装機を池のほとりに移動させる。
「じゃあリナリィさんこのまま
ソウマは片手で拝む様なポーズでお願いする。
無論リナリィにはなんのポーズがサッパリではあるのだが
「あ、はい、わかりました…えっと、どうすれば?」
「リラックスしていてくれればいいよ、はい深呼吸深呼吸〜」
「は、はい…すぅぅぅ…はぁぁぁ…」
ソウマに促されリナリィは深呼吸をする。
「
「っ!」
リナリィは一瞬まるで身体が全ての感覚を失った様な錯覚を覚える。
「うわぁ…」
そして目の前に広がるのは見た事も無い景色、幾つもの銀河が不規則に入り乱れる無限の宇宙空間だった。
「ここが
ソウマが少し得意げに言う
「ここが…
「そう、ここが多元宇宙への中継地点、周りに沢山の銀河があるだろ?あの先全部に色んな世界があるんだけど、ユニバースシフトをする時には必ずここを経由する。」
「こんなに沢山の世界が…」
リナリィはとてと数え切れない、まるで銀河の夜景の様な景色に呆然とする。
「この
メリルはそう言いながら、自身のアニマと結び付いているイーバと同町する。
すると、周りの景色が光速で流れていく…
「これが私達のリーダーのソキウス[イーバ]よ」
「え…?動…物?」
メリルがそう紹介したのはアルマジロに似た巨大な生き物だった。
「メリル、ソウマおかえり、リナリィさんようこそ、私はイーバ、よろしくね」
「えっ…?喋った…?」
イーバが喋った事に驚くリナリィ、そういえばリナリィはメリルがフェレットだという事もまだ知らないのだった。
「アハハハ!そりゃ驚くよね〜!俺も初めは驚いたもんなぁ!」
「リナリィさん、後で私の姿も見せるからね」
「え…?メリルさんも…?」
恐らくリナリィの中で、メリルもイーバの様な巨大アルマジロもどきになっているのであろう
「じゃあ中に行こうか」
そう言うとソウマはイーバの口の中へと飛んでいく
「えええぇぇぇぇ!?中ぁぁぁ!?」
ソウマの後に続いて口の中に入っていく幻装機の中でさらに驚かされるリナリィであった―――――
イーバの口の中は全く生物的な構造ではなく、意匠はまるで見慣れないが普通の建物の様だった。
「これが…イーバさんの中?」
そして外見上のイーバの身体よりも中の空間は広く見えた、ギリギリ通れた感じであった幻装機が中に入るとずいぶんと通路に余裕がある。
「私達ソキウスの内部は虚数空間らしくて、こうやって建物みたいになってるのも、あくまで私達のリーダーがそうイメージしてるだけなのよ」
「キョスウクウカン…?」
リナリィは怪訝な顔をする。
「あー、その辺は俺達、というかアル…リーダーもよくわかってないんだけどな、ただ、こうやって多元宇宙を行き来してる以上、虚数空間が存在するとしか…っていうか、
「あ、いえ、そのキョスウクウカンという言葉自体がわからなくて…」
ソウマの説明にリナリィは恥ずかしそうに笑いながらそう言う
「虚数空間は、簡単に言うと世界―――宇宙の裏側みたい物、らしいよ」
「え…?」
聞き慣れない声に振り返ったリナリィの目に、少年の姿が映った、そして気付けばいつの間にか幻装機ではなく、ソファに座っていた
「ただいまアル、任務完了だ」
「ありがとうソウマ、五世界目で救出任務大変だったよね、お疲れ様」
サムズアップしてアルに報告するソウマを、アルは感謝を込めて労う、そして
「初めましてリナリィ・ウィズリアさん、挨拶が遅れて申し訳ありません、若輩者ながら僕がV.C.T[ヴィクト]のリーダーをさせてもらっている。アルバート・ペイルと申します」
アルは胸に手を当てて挨拶をする。
「え…リーダーさん…?あ!は、初めましてリナリィ・ウィドゥッ!〜〜〜〜〜っ!!!」
「いやいやいやいやリナリィさん驚くのわかるけど落ち着いて」
リナリィはやはりアルバートの見た目でリーダーというギャップに驚きを隠し切れず、舌を噛んでしまったようだ
ソウマは自分も驚いたなぁと感慨を覚えつつ、リナリィを落ち着かせる。
「ひゃい…ひゅまひぇん…」
「ぶふっ!!」
まるで漫画やアニメの様なリナリィの返しに堪らず噴き出してしまうソウマ
「こらこらソウマ…しっ、失礼だぷっ…よっ…ぷぷ」
「アルも全然堪え切れてないけどっ」
ぴょんっとメリルがソウマの肩に乗る
「え?え?え?その声…」
「やっほー!リナリィさん、これが私の本当の姿よ」
「ええええぇぇぇぇぇ!?メリルさん!!?」
聞き覚えのある声の先にいた見た事の無い可愛い生き物がメリルである事がわかりさらに驚愕するリナリィ
「いやー、いいねぇいいねぇ!やはり最初はそうなるよなぁ!」
うんうん、と、ソウマは頷きどこか満足そうにしている。
「さ、触ってもいいですか…!」
「い、いいけど…ちょっと怖い…」
目をキラキラと輝かせて寄ってくるリナリィにメリルは少し及び腰で応じる。
「すごい…!フワフワだ!」
「メリルは俺の世界のフェレットっていう動物がモデルになってて、今は冬毛だからフワフワだけど、夏はまた違う手触りになるんだよ」
「へぇぇぇ!フワフワ…可愛い…」
「そ、そう?エヘヘ」
本題をそっちのけでメリルの本体に夢中のリナリィ、その様子をアルバートはにこやかに眺めていた。
「あっ!すいませんなんか脱線しちゃって!」
「いえいえ、構いませんよ、緊張もほぐれたみたいで何よりです」
「そういえば、リナリィさんは俺達
「えっと、
「あ、そうか、私達〜って言ってたから…私達イコール
自分達が何をしているかは説明していたものの、自分達の総称を話していなかった事を思い出す
「
どうだ!と言わんばかりにソウマは得意げだ、メリルは可愛く頭を抱えており、アルバートはニコニコしている。
「そうなんですね!かっこいいです!!」
「えええええええええ!!?」
「かっこいいよね、僕も気に入ってるんだ」
リナリィの反応にメリルが驚愕し、アルバートが同意する。
「おぉ!!この良さがわかるかリナリィ!!これをわかってくれるのはアルとハンナだけだったから嬉しいよ俺は!!」
「ハンナはソウマの言う事ならなんでも良さそうじゃない」
新たな同志を得てソウマは喜ぶがメリルは少しセンスが違うようだ。
「ハンナさん…という人もいらっしゃるんですか?」
「あ、ごめんごめん今ここにはいないんだけど、まぁすぐに会え…あれ?俺肝心な事聞き忘れてたかも…」
話が盛り上がって既に仲間になった気でいたが、まだリナリィの意志を聞いていなかった事を思い出す
「リナリィさんなら大丈夫よ、ソウマ」
「あ…はい、大丈夫です!」
「ね?」というメリルの視線にリナリィも気付き応える。
「ありがとう、リナリィさん、ソキウスを宿す者として、貴女の決断に心から感謝を」
アルバートはもう一度胸に手を当てて感謝の念を表す。
「いえいえ!そんな!私も私のソキウスに会いたいですから…それに私だって助けてもらわなければどうなっていたかわからないなら、私と同じ様な人を助けてあげたいなって」
「かといって別にソウマみたいに最前線で
ワチャワチャと手を振って恐縮するリナリィに、危険な事はしなくてもいいと告げるメリル
そこでリナリィにふと疑問が浮かぶ
「そういえば…ソキウスを目覚めさせた後、
「ああ、なるほど、今は確かにそれは疑問に思うか」
「確かにその選択も可能です。でも、私がソキウスを
リナリィの疑問にソウマは「今は」という言い方をし、アルバートは「例外なく」と言った。
「例外なく…」
「はい、何故なら私がソキウスを
「そして、その問いかけへの答え…魂の誓いとも言うべき想いを受けて私達は目覚めるのよ」
「だからソキウスを宿す者は、その想いを
アルバート、メリル、ソウマが順に答えていく
「わかりました、なんか変な質問しちゃってごめんなさい」
「全然変じゃないさ、自分のこれからに関わる問題だし、ただまぁ…ソキウスが目覚めたら疑問に思う事ほとんど解決するから肩透かしだけどな」
「そうなんですか?」
「ほらー、ソウマまたリナリィさんにハテナマーク付いちゃったじゃ無い!」
「おっと、これは申し訳ない」
「じゃあ、リナリィさんが良ければ、そろそろソキウスを目覚めさせましょうか」
リナリィの心の準備が整ったかアルバートが確認をする。
「…はい!お願いします!」
リナリィは強い眼差しでアルバートに答える。
「それでは…リナリィさん―――貴女の魂に問う」
アルバートはすっとリナリィの胸の前に手をかざす。
すると<ドクンッ!>とリナリィの鼓動が強く脈打つ
「貴女が絶望に負けそうな人を救う時、希望を掲げる時」
「絶望に負けそうな人を救う時、希望を掲げる時…」
リナリィの胸の中心から、透明な水の様な球体―――アジャストタキオンに包まれた
「貴女の魂は、どんな力で絶望を打ち払う?どうやって人に希望を与える?」
「私の…魂は…」
リナリィの想いが
「リナリィ・ウィズリアの魂に眠る
アジャストタキオンが球体から形を変化させていき、光の粒子となって弾ける――――
「ずっと貴方を待っていた気がするわ…」
リナリィは歓喜の涙を流して、ソキウスを抱きしめた。
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