その敵意の矛先は

 ソウマがイェーガーと相対していた頃、ザグラスは自らに残る幻顕力REを使って出来る最後の嫌がらせを考えていた。


「さぁて、時間稼ぎのイェーガーを除いて残るモルタはクリーガー二体とイェーガー二体…」


「この獣なら森の中にまだ多少生息しているようなので、イェーガーなら増やせますが…」


「彼はもうイェーガーの捌き方がわかっちゃってるし、[カヴァレ]を二体作って一体は直結しようかねぇ、ヤッツムは指輪に」


「かしこまりました」


 ヤッツムは魂玉アニムストーン化し、指輪となってザグラスの右手中指に収まる。


「我に隷属せし虚なる屍肉共、今在りし日の殻を捨て新たな姿を顕せ」


 ザグラスは両手を広げて歌い上げる様にそう言った後に、パンッと手を合わせこう言った。


混ざれミッシェン


 その場のモルタは鏡面体になり、ザグラスの足元に出来た小さい銀河の様な渦に吸い込まれる、そしてまたそこから、ロトモアの身体にクリーガー…頭の傷は塞がっているその人型の上半身を持つケンタウロスの様なモルタ[カヴァレ]が二体現れた。


「さて、ヒロイック…に付き合ってもらおうか」


 ザグラスは一体のカヴァレの背に跨り、もう一体に命令する。


「ヒロイックと戦闘だ、ただし、何よりも俺の右手を優先して守るようにねぇ」


『言われなくてもわかってるよねぇ』


 カヴァレは主人であるはずのザグラスに対し、対等の感じで返す。


「直結すると横柄で困るねぇ…あ、君は戦闘中付かず離れずだ、もちろん右手が最優先ねぇ」


『はい、かしこまりました』


 一方もう一体のカヴァレは、下された命令に流暢に敬語で返す。


『まぁ諦めなさいな、それが直結ってもんだねぇ』


「いやまぁそれはそう…っと、来るか」


 上空でソウマがこちらを向いているのが見えた。


『さ、この世界のカヴァレの力…試させてもらおうかねぇ』


 ドンッ!と直結されたカヴァレはソウマを迎え討つべく地を蹴った。



         ======================>


 ソウマが向かったのを見送ったリナリィは、ふと周りに目を向け気付く


「あ…メリルさん私達すごい見られてます…」


 流石に他の三つの校舎にも既に情報が届き、人々が敷地の外へと避難をしている途中であったり

 そんな非常事態に見た事もない奇妙な物体が空を駆けているのだ、誰かが気付けば衆目に晒されるのは当然だ。


 「ああ、大丈夫大丈夫、外から幻装機の中は見えないから」


 メリルはあっけらかんと答える。


「そうなんですか?でも…この騒ぎ、メリルさんがやった事になりませんか…?」


「あー…確かに今はそうなるかも、でもまぁ、私達がこの世界の境界を越えれば、幻顕者リアライザーオーウォーでない者の記憶から私達は消えるから、それこそ夢の様にね。」


「でも、メリルさん達は助けに来てくれたのに…」


 リナリィは、自分の命の恩人が一時的にであれ、悪事の元凶である様に思われるのが嫌なのであろう。


「私達は、いつも犠牲者をゼロに出来るほど万能でも無いし、状況によっては、救う命の選択を迫られる時もあるの」


「救う命の選択…」


「そう、今回で言えば、私達はリナリィさんを助けに来た。この世界を救いに来たわけでは無いの、楽園パラディーゾを追い返せば、結果的にそうなるとは言え、例えばリナリィさんがさっきモルタに投げられた時、同時に他の誰かが命の危険であった場合、私達はリナリィさんを優先したよ」


「――――」


「私達は決して万能の存在じゃないし、ソウマだって自分の世界では普通の学生なの、アストラルタイムで精神的に過ごした時間は長いけど、全てを悟り、全て正しく選択出来るわけでもない、間違える事も、失敗する事もあるのよ…」


「そう…ですね、助けてもらった私には、それくらい輝いて見えたけど、実際は私と一つしか違わないんですよね」


「そうね、でも私達は犠牲者が出なければいいと願ってはいるし、犠牲になってしまった人を救えなかった後悔もあるから、例えその世界の人に一時的に悪の権化の様に思われても、私達はそれを受け入れるの」


 自分達は万能のでは無い、救える命も救えない命もある、犠牲が出てしまった事のせめてもの償いとして、その世界にいる間はどんな誹謗も受け入れるという、メリルの言葉をリナリィはしっかりと胸に刻む。


「私もいつか…選択を迫られる時が来る…」


「その時は…必ず来るから、迷わない様にたとえ迷ってしまっても、動きを止めない様に、覚悟を決めておかないとね」


「はい…!」


 その時、迷わずにいられるか、それはまだ想像でしかない状況であるリナリィにはわからないが、今メリルにこの話を聞けた事は、これから幻顕者リアライザーになると決めたリナリィにとっては、意義のある物であった。

 覚悟なくその場面に出くわしてしまえば、何も出来ずただ犠牲者が増える可能性だってあるのだ。


 そんな話をしていると、遠くに警報とは違う音色が聞こえて来た。


「この音…この世界の警察?」


「ケイサツ…は…多分違います、この音は国の治安隊です」


「なるほど治安隊…ね、と言う事は軍隊に近い組織か、どんな武装があるかわかる?」


「そうですね…装甲車と、大砲、ガトリング…後は手榴弾なんかもあったと思います、テレビで見た限りですけど」


「いきなり学校の敷地内に大砲撃ってきたりはしないだほうけど…」


<ドルルルルルルルルルルルルルル!!!!>

<ドルルルルルルルルルルルルルル!!!!>

<ドルルルルルルルルルルルルルル!!!!>


「まぁ!当然そうよね!!!」


「きゃっ!!」


 メリルは治安隊の撃って来たガトリングを避けながら下降していく


「とりあえず森の中でやり過ごすけど…ソウマ!この世界の軍隊が来た!早くしないとコマンダーが来るかも!!」


 メリルはザグラスと交戦中のソウマへテレパスを飛ばした―――――



         ======================>


 ザグラスのいるであろう方向へ飛び込んで行ったソウマは木々の間から自分の目掛けて飛んでくるカヴァレと空中でぶつかる


「新しいタイプのモルタ!能力アビリティ増えたのか!!」


『それはもちろんさぁ、その為に日々せっせと経験を積んでるんだからねぇ』


「!!…お前…ネクロか!」


 幾度か交戦はした事はあるが、まだザグラス自身の顔を見た事が無かったソウマはカヴァレが完全に意志を持って喋った事に驚く


『いやいや、俺様はあくまでカヴァレだねぇ』


「カヴァレ?それがタイプ名か!」


 空中でぶつかった後、お互い木々を使いながら攻撃と回避を行なっていく


『まぁさらにちょいと特殊なタイプではあるけどねぇ』


「確かにお前みたい饒舌なモルタは初めて見たよ!」


 ラディウスシューターでは穴を穿つ事は出来ても、カヴァレを止める事は叶わない上に、小さな穴はすぐ修復されてしまう

ブレードモードでまずは足一本を狙いたい所ではあるが…


『機動力を奪いたい気持ちはすごくよくわかるけど、俺様の事ばかり気にしてていいのかねぇ?』


「くぁっ!?」


 不意に背中に衝撃を受ける、なんらかの攻撃を受けた様だ。

 飛んで来たのが一体だった事、そして会話可能である事も含めて今までに無いタイプのモルタに気を取られ過ぎた事もあり、つい一対一の気分になってしまい周囲の警戒を怠っていたが、当然まだネクロ本人がいる事を思い出す。


「届けよっ」


 そう言うとソウマは右に飛びながら先程衝撃を受けた方向へ身体を向ける。


「サーチアイ」


 幻装スーツのマスク部分、ちょうど目のある所辺りが青くに点灯する。

 アストラル光を拡散放出し索敵を行う、アストラル光、即ちエーテル体の直接放出は幻顕者リアライザーとしての活動時間を大きく削ってしまう、現在ソウマは280メートルまで索敵可能であるが、この索敵が空振りであれば無駄に活動時間だけ減らしてしまう事になるのである。


「そこかぁっ!!」


 カヴァレの更に奥に移動していく同タイプのモルタとその背に跨る幻顕者リアライザーの幻体を捉えた。

 

『おっと、させるわけないよねぇ』


 ブラスターを撃とうとするソウマの前にカヴァレが立ちはだかる。


「はええなくそっ!!」 


 構わずブラスターを撃つが下から腕を跳ね上がられ軌道を逸らされる。

 そのままブラスターをブレードモードへと切り替え真っ向斬り、をわざと防がせる。


「ルクストルネード!」


 魂玉アニムストーンがあった胸部、今は魂命アニムスヴィータの輝きを放っているその球体から、螺旋状の光の波動を放出する。


『ごあっ!!』


 両手を使い真っ向斬りを防いでいたカヴァレは眼前からその波動をまともに喰らい、その頭部と胸部を失う


「ふぅ…これで再生も出来ないだろ…」


 その残された両腕、下半身と少しの上半身と共に着地するソウマ、間もなくカヴァレは光の粒子となり霧散する。

 ようやく一体のカヴァレを倒したが、まだあと一体とネクロ本人がいる。


「あーらら、やられちゃったねぇ」


 その様子を陰から見ていたザグラスは、ゲームで失敗した調子で言う


「くそっ!また見失っちまった!」


 ソウマもザグラスを見失ってしまい、カヴァレはその役目はしっかりと果たしていた。

 悔しがるソウマにメリルからのテレパスが届く


「ソウマ!この世界の軍隊が来た!早くしないとコマンダーが来るかも!」


「そいつは最悪だ!メリル!イグニスいけるか!?」


「一回なら大丈夫!」


「よし!イグニスブレード!!」


 幻装スーツのサーチアイが赤く灯り、ブレードの刀身が消える。


「イグニスルクスチャージ!」


 ラディウスブレードにフルゴオルビスの先端から光焔が放たれ、ブレードの刀身になっていく


「サーチ圏外だ方角を!」


「左斜め前方!」


「行けぇ!イグニス!ファルコン!!」


 ソウマが袈裟斬りを放つ、するとブレードの刀身から放たれた斬撃が赤い光焔を纏ったファルコンの型となりザグラスへと向かって行く。


「ザグラス様!!!」


『!!!』


 ヤッツムが気付き、防御態勢に入ったカヴァレに斬撃が直撃する――――

 その直後、ファルコンの軌跡を辿って翔けてきたソウマは左逆袈裟斬りを放つ


「イグニッション!!!」


 交差した斬撃はカヴァレの身体を覆い尽くす様に激しく燃え広がる、ソウマが振り返り様にイグニスブレードを振ると、カヴァレの身体からファルコンは飛び立っていき、カヴァレの身体は光の粒子となって霧散した。


 そして―――――


「――――ふぅ、危ない危ない」


「完全には避け切れませんでしたね、厄介な」


 ヤッツムの声に反応し、即座に飛び退いていたザグラスは、足首から先は無くなっているが、気にするそぶりも無く距離を取って行き、離れた所で足を幻顕リアライズする。


「まぁ、とりあえず一つ手札は見せてもらった、それで良しとしようかねぇ」


「では、今回はこれで」


「そうだねぇ、ここで三つ目だしそろそろ帰るかねぇ」 


「かしこまりました」


 ヤッツムはアジャストタキオンを出現させ、ザグラスを包み込む、アジャストタキオンは収縮していき、ザグラス達と共に消えた―――――

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