幻装

「くそっ!もう捕まってたか!!」


 ソウマが四階に着いた頃には既に一人の少女を除いて生きた人間はおらず、その少女も既に楽園パラディーゾ幻顕者リアライザーが使役する死者[モルタ]に捕まり、持ち上げられていた。


「ソウマ!あの子もう摘出カルペ寸前よ!」


「メリル、ルクス行くぞ!」


「いつでもオッケー!」


 モルタが少女を投げる素振りを見せた時、ソウマは少女に声をかける。


「絶対に諦めるな!!必ず助けてやる!!」

 そう言うや否や、少女は窓から放り出され、それを追いソウマも外へと飛び出し―――――


「幻装!!!」


 ネックレスの宝石部分、魂玉アニムストーンから光が溢れ、ソウマの身体を包み込むアジャストタキオンとなる


             ======================>


「君の魂は、どんな力で絶望を打ち払う?どうやって人に希望を与える?」


「俺の…俺の魂は…!」


 子供の頃から…ずっと憧れていた…

 高校生になった今でもずっと…ずっと…

 ―――――――そうだ…俺は…!!


 ソウマが幻顕者リアライザーになって最初のミッションは、ソシアに同行し、ユニバースシフト中のネクロを魂還レディアニマさせる事だった。


「うぉわっ!!」


「ダメソウマ!能力アビリティが発動出来ない!」


「うおおおぉぉぉ何故だぁぁぁぁぁ!!!」


 モルタを相手に幻装という自らの幻顕リアライズ能力アビリティを使えずにいた。


「おかしい…確かに能力アビリティは私のアニマに刻まれてるのに!」


 メリルは困惑しているようで魂玉アニムストーンが激しく明滅している。


「ソウマ、身体は強化されてるみたいだけど…そうじゃないのよね?」


 ソシアはモルタを軽くいなしながら、生存者を転移魔法で隔絶空間の外へと避難させていく


「いや、それも!っと!違わなく!は!無いんだけどぁおお!!」


 一応ソウマは運動神経も反射神経も悪くない、それに加えて幻顕者リアライザーというのはそもそも常人より身体能力は高く、さらに能力アビリティとして自己強化の能力アビリティが発動されていた。

 だが、それでは仮に打倒は出来ても、死者であるモルタを行動不能には出来ない


「とりあえず、生存者は全員避難させたから、もう少し試していいわよ、ネクロマンシーは私が警戒しておくわ」


 ソシアは視線を森の奥へと向ける。


「あーららら、アルスマグナはやっぱり面倒な相手だぁ、これはそろそろ退散かねぇ」


 その様子を五百メートルほど離れた木の上から様子を伺っていたザグラスが言う


「しかし、あの男の方…先日ワッコがしくじったオーウォーでしょうか…」


 その後方にモルタの肩に乗ったヤッツムがいた。


「うーん…あの少年の幻顕リアライズ能力アビリティ知りたいんだけど、なんだろねぇ」


「身体能力は通常の幻顕者リアライザーよりは高そうですが…」


「もしそれだけだとしたら…[マキシマム]とは比べ物にならないくらいお粗末だねぇ」


「そうですね…ハズレ…でしょうか…」


「だとすると、積極的に前線に参加させてる理由がわからないしねぇ…ま、もう少し遊んでから退散するかぁ、イェーガーゴーゴー!」


 楽しげにザグラスは足元に控えていた元は狼のような動物であったであろう死獣[イェーガー]に命じる。


「ソウマ、獣型も来たわ、素早さが人型とは段違いだから気を付けなさい」


「へへ…流石にこれはキツいな…」


 他勢に無勢、いよいよピンチかという場面に―――


「え?ええ!?ソ、ソウマ!幻顕リアライズいける!!」


 突如メリルは内に宿る幻顕リアライズ能力アビリティ幻顕リアライズ可能となった事を感じ取る。


「そういう!事かよっ!!」


 二体のイェーガーが左右からソウマに飛びかかる。


「いけない――――!!」


 ソシアがすぐさま魔法を幻顕リアライズしようとした時、ソウマはアジャストタキオンにつつまれ、イェーガーが弾き飛ばされる。


「これが…ソウマの幻顕リアライズ能力アビリティなのね、いいじゃない、とても素敵よ」


 ソシアは一安心といった面持ちでその姿を見ていた。


「ほー…そう来たかぁ…変身能力…って事なのかねぇ?」


 目を細めてザグラスはそう言った。


         ======================>


 アジャストタキオンの中は外見上の大きさとは違い、幾つもの銀河が不規則に入り乱れる宇宙空間を内包していた。

 入り乱れる銀河の数々から光の粒子が放たれソウマの身体に纏われていく

 その粒子は次々とソウマの能力アビリティによって幻顕リアライズされた[幻装スーツ]となっていく


「ルクス!!」


 光球が弾け胸の魂玉アニムストーンに収束していき、最後に魂玉アニムストーンがプロテクターで覆われる――――


「ブレイバァァァァァ!!!」


「おやおや、ヒロイックが来たか、幻顕リアライズしてるって事は…オーウォー取られちゃったかねぇ」


 タハハ、とゲームに負けたような感じでザグラスは笑う


「では、予定変更ですか」


「あぁ…嫌がらせだねぇ!」


 ニィッ!!とザグラスは口を歪ませる―――



『あ…あれ…私…?』


 落下のGを受け始めた時に見えた眩い光に強く瞑ったままだった目を開けていくと


「よっと!怪我は無いかな?」


 白をベースに赤と黄色で彩られたリナリィには見覚えの無い意匠のヘルメット(?)を被った人物に抱えられていた。


「あ、あ、ありがとうございます!だ、大丈夫です!」


 ワタワタとリナリィはその腕から降りる。


「うん!良かった良かった!それは何よりだ!」


「あ、やっぱり…さっき声をかけてくれた人…?」


 つい先程視線に飛び込んで来た人物とは全く姿が違う…というよりも、素顔も素肌も全く露出していない、その姿は頭部と同じく白をベースに赤と黄色の鳥の羽の様な意匠が所々に施されたプロテクター、そして両肩からは燕尾の様な赤帯が二本ずつ膝裏まで伸びている。

 しかし、その聞き覚えのある声に少し安堵するリナリィ


「とりあえず、聞きたい事沢山あるだろうけど、まだ終わって無いんだ、ネクロの奴が被害を大きくする前に動きを止めないと…」


「ソシアがいれば隔絶してもらえたんだけどねぇ」


 胸元の魂玉アニムストーン、メリルが言う


「そこは仕方ない、これ以上犠牲を出さない為にモルタを排除しつつネクロを探し出す。」


「あ、あの…?」


 リナリィから見れば、一人でブツブツ喋っているその全身プロテクターの変な人物であるが、自分の危機を救ってくれた事には変わりなく、恐る恐る声をかける。


「おっと、すまないリナリィ・ウィズリアさんだよね?あーっと!待った待った!なんで名前を知ってるとかは落ち着いたらバッチリ説明させてもらう、ただ、今は時間が無い」


「は、はい…」


「とにかく奴等は君を狙ってる、だから少し安全な場所にいてもらうけど、構わないかな?」


「安全な場所…?」


 今この状況で安全な場所とはどこなのか、リナリィは思案する。


「ソウマ、フルゴオルビスいけるわ!」


「来い!幻装機フルゴオルビス!」


 ソウマが手を掲げて叫ぶと、空にアジャストタキオンが現れる。

 アジャストタキオンが形を変え霧散すると、赤をベースに黄と白で鷹を模したデザインの乗り物が空を駆けて目の前まで降りて来た。

 幻装機が通った後には光の粒子が飛行機雲の様に尾を引き、そして霧散していく


「さ、これに乗っていてくれれば、ひとまず安全だから」


「は、はい…あの、学校のみんなはどうなりますか?」


 少し落ち着いてきたのか、リナリィは学友や教師の安否が気にかかって来た様だ。


「この状況でも他人を気遣えるなんて…素敵な人ね」


 そうメリルは感想を述べる一方、ソウマは言いづらそうに告げる。


「これ以上の犠牲は出さない様に全力を尽くす、だけど、既に命を落としてしまった人達の命は…残念ながら…」


「そう…ですか、やっぱり…」


「今はとにかくこの騒ぎを治めてくるから、リナリィさんはこれに乗っていてくれれば大丈夫だよ」


「わかりました…あの…あなたの名前は…」


「俺は光の力で人々を救う 断魔の剣[ルクスブレイバー]だ!」


「ルクス…さん?」


「はぁ…バカ」


 キランッ!っと言う効果音が共に鳴ってるかの様に、サムズアップをして答えるソウマ、魂玉アニムストーンのメリルはまた始まったかと肩を落としているようだ。


「さあさあ、乗って乗って!」


「は、はい…」


 いわゆるガルウィング方式で幻装機の側面が開く

 恐る恐る、幻装機に乗り込むリナリィ、中は見た事のないコクピットだが、意外と広く大人が二、三人くらいは乗れそうなスペースがある、しかし、リナリィが座るとパシュッ!と入り口が閉まってしまう


「メリル、操縦頼んだ」


「了解っ」


 メリルがそう答えると、胸元のプロテクターが開き、魂玉アニムストーンが飛び出す。

 そして、幻装機の先端…嘴部が開きそこに収納されていく。


「え?え?」


 一方リナリィは見た事の無い乗り物の中に一人にされ戸惑っている、しかし、魂玉アニムストーンの入った嘴が閉じると、操縦席らしき場所と自分の座っているシート以外が全て透過したように周りの景色に変わる。


「うわ、すご…」


「初めまして、リナリィさん、私はソ…ル、ルクスブレイバーの相棒、メリルよ、この乗り物は私が操縦するから安心してね」


「メリルさん…はい、よろしくお願いします」


 どこにいるのかもわからず、とりあえずリナリィはその聞こえた女性の声に返事をする。


「じゃあソウマ、あまり離れないようにね」


「おう!とりあえず付かず離れずで上にいてくれ」


「わかった、気を付けてね」


 メリルは幻装機を駆り、上空へと移動する。


「すごい…こんな乗り物があるなんて…」


 リナリィは助走も無く、プロペラもなく、エンジンの音や振動も無くスムーズに上昇する幻装機の駆動に驚く


「どう?少し落ち着いた?」


「あ、はい…ありがとうございます…あれ?どこに喋ればいいんだろう…」


 どこから聞こえてくるかもわかってないリナリィは、マイクを探す。


「あ、そのまま喋って大丈夫、今あなたが乗ってるこの幻装機が私自身だから」


「この…乗り物が…人工知能…?」


「ううん、私はそういう機械的な類の物ではないわ、そうね、ソ…ルクスブレイバーが事を治めるまでの間に私がある程度説明しておこうかな」


「…はい、お願いします」


 メリルはリナリィがモルタに襲われた経緯から説明を始めた――――――

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