二股かけてる彼女のパンツを拾ったら死亡フラグだった件。しかもオレは自殺扱いで、容疑者には完璧なアリバイが…みたいな小説をミステリー初挑戦の素人が書こうとしてごめんなさい

半濁天゜

第1話

 大学の春休みに、オレは二人の彼女――あや沙夜さや――と三人でキャンプにきている。いわゆるリア充ってやつだ。まあ世間体やらなんやらで、テントは彼女たちと別々に、お隣さんとして設置したけど。


 だから今、オレは一人で天幕の中にいる。なぜなら、目の前に可愛くて清楚なパンツがあるからだ!


 さっき彼女たちが、キャンプ場の管理棟から帰ってきた。その直後、二人のテントのそばに落ちていた物だ、が。問題は、どちらのパンツかということだ。


 ”二人が彼女なら、普通に聞けばいいだけだろ”なんてのはモテないDTの発想だ。どちらの物かを特定し、恥をかかせることなくそっと本人に返してあげる。そんな気遣いの積み重ねが、二人と同時につき合うことを可能にしている秘訣なんだよワトソン君。


 まあ、おそらく。黒髪ロングのお嬢さま、綾の物だろうと、あたりはついているけど。折を見て、それとなく探りを入れてみるか……。


 そして……。


 世界が急速に色を失い、黒い闇に溶けていくころ。綾が一人でテントをでていった。管理棟の方向だ。すぐ近くだし、多分ジュースでも買いにいくんだろう。


 チャンスだ。オレは通り道の明かるい場所で、綾が戻ってくるのを待ち伏せた。そして綾がくるのにあわせ、


「あっれぇー? っかしいなぁ、どこに落としたのかなぁ?」


聞こえよがしに物を探すフリをする。


「……どうされたんですか?」


 育ちのいい綾は、誰に対してもそうするように、敬語で話しかけてくる。


「んー、ちょっとハンカチを落としちゃって……ああ、あった、あった」


 と、拾うフリをしながら、綾にパンツをチラ見せする。


「!? そっ、それは……」


 顔を紅潮させ、潤んだ瞳でオレを睨みつける綾。やっぱり綾のパンツだったか。


「気をつけろよ、拾ったのがオレだからよかったものの、物騒な世の中だからな」


 冗談めかして、綾にパンツを手渡した。


「……あの……、ちょっとお時間ありますか……?」


 恥ずかしいのか顔を伏せ、小声で綾が聞いてくる。


「勿論、……」


 オレの返事をかき消すように、激しい夜風が吹き抜けた。綾の長い髪がかき乱される。さながら黒い炎が揺らめくように……。



† そして翌日。



「白石 沙夜さやさんですね。私は警部の刑部おさかべです。昨夜のことを話して頂けますか」


 管理棟の一室で、私への聞き取りがはじまった。


「はい……。昨日24時頃。私は友達の綾と一緒に、この管理棟にいました」

「管理人の話によると、随分長い時間、この管理棟にいたようですね」


「キャンプブームなのできてみましたが、色々大変で……。シャワーを浴びるだけのつもりで、20時くらいにここにきました。でも、文明の香りから離れがたくて。気づけば四時間くらいたっていました。まあ、女子がおしゃべりしてたら、それくらいすぐですよ」


「シャワーを浴びにきた時。”亡くなった男性につけられている気がする”と、管理人に言ったそうですが」

「はい、偶然だとは思いましたが、なんだか心細くなって……。やっぱり私たち、キャンプが合ってなかったんです。シャワーの間だけでも、不審なことをしてないか見ていて欲しいと頼んだんです」


 もちろん嘘だ。私たちの関係を隠すための、お芝居みたいなものだった。


「なるほど、つづきをお願いします」

「そのあとは特になにもなくて……。24時頃、二人で夜食を食べていると、もの凄い何かの音が聞こえました。管理人さんが棟を飛びだし、私たちもついていきました。そして、声のしたテントに管理人さんが入ると、男の人が死んでいて、管理人さんが警察に電話するのを、そばで聞いていました」


「どうしてついていったんですか?」

「音が、私たちのテントの方から聞こえたからです。正確には、私たちの隣のテントから、でしたけど」

「亡くなった男性とはお知り合いですか?」

「いいえ、全然知らない人です」


 この状況で警察には、いや誰に対しても、私たち三人の関係を話したくはなかった。綾とも秘密にしておこうと約束している。


「ふむ……。警察へは通報されなかったようですね」

「もう管理人さんがしていましたし、スマホはテントに置いていたので」



† さらに数日後。



ほとけさんの死因は、注射器で血管に直接アルコールを流し込んだ急性アルコール中毒か。死亡推定時刻は、仏さんがシャワーから帰った20時30分から22時くらいの間。睡眠薬などは検出されず、注射器には仏さんの指紋しかついていなかった。争った形跡も一切なし、と」


 独りごちる部下に、刑部おさかべ警部が問いかける。


「隣のテントにいた女子大生二人はどうだった?」

「複数の証言から、二人とも仏さんの死亡時刻には管理棟にいました。仏さんと大学も違うし、関係を示すものはみつかっていません。仏さんは周囲に、”彼女に二股かけている”と自慢していたらしいですが、誰もその彼女をみていません」


「…………自殺だな」

「そうっすね」



† 時間は、最初の日の、最後のシーンにさかのぼる。



「勿論、綾のお願いなら、なんでも聞くよ!」


 彼の返事をかき消すように、激しい夜風が吹き抜けました。私の長い髪がかき乱されて、神経が逆なでされます。なのに不快な声だけは、はっきりと耳に届いて……。


 これは、沙夜がなくなったと言っていたショーツよ。このストーカー、遂に私たちのテントにまで侵入したのね。そして盗みまで働いたのに……。いま拾った? 気をつけろですって? もう我慢の限界よ、到底許すことなんてできないわ……!


 このキャンプは、この男を排除するために、沙夜と計画したものでした。でも、もし男がここまでついてこなかったら、いえ、ついてきたあとも、ずっと決心をつけられなかった……。けれど……っ!


「じゃあ数分後、私たちのテントにきてください。貴方に渡したいものがあるの」

「わかったよ。なんだろう、楽しみだな」



† 数分後。沙夜と綾のテントの入り口にて。



「私と綾は親友で、二人とも貴方のことが大好きよ。だから三人一緒じゃなきゃ嫌なの。これはセックスをしつづけられる、とっても楽しいお薬よ。これを飲んで二人一緒に愛して欲しいの」


 ビニール袋に入れた注射器を、彼に渡して、


「私たちこれから、管理棟へシャワーを浴びにいくわ。貴方も一緒にいきましょう。もちろん私たちの関係がバレないように、少し離れておいてね。9時には貴方のテントにいくから、それまでにはお薬を打っておいて。血管に入れるタイプだから、気をつけてね。あと……。ちょっとくらい遅れても、貴方のために、念入りに体を洗いたい乙女心なんだって、許して欲しい……。いいでしょ? ね?」


「もちろんだよ、何時間だって君たちを待っているから」

「ありがとう、そんな貴方が大好きよ」



† 数時間後の管理棟。



 夜食なんてダイエットの大敵だけど、私と綾はカップ麺をすすっている。ストレスを食欲で発散させようとしてしまう、ストレス太りというものを、私ははじめて実感していた……。


 24時になると同時に。私たちのテントから、私のスマホが大音量で騒音をたれ流す。


 もし誰も気づかなかったら、私たちで管理人を呼びにいき、巻き込むつもりだった。でも、管理人が棟を飛びだして、私たちはそれについていく部外者のポジションを得る。


 男の死体を発見し、警察に電話したあと。管理人はスタッフに連絡するため管理棟へ戻っていった。


 その隙に。綾が手袋をはめ、男のテントから、ビニール袋を回収する。注射器を入れていた、私の指紋がついたビニール袋を。私も自分たちのテントに入り、スマホからトリックの痕跡を消去する。


 暗いテントの中に一人でよかった。闇が、テントが、私の顔を隠してくれるから。綾は私だけのものよ。その綾にまとわりつく害虫は、私が全部排除してやるわっ!


 昏い闇の中。スマホに映る私の顔を、私だけがみつめていた……。


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カクヨムさま五周年企画

【KAC20214】

お題「ホラー」or「ミステリー」

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