五人目 〜紫輝 朽実〜

僕の名前は紫輝しき 朽実たくみ

ごく普通の家庭で育った一般人である

今は妻の紫輝しき 実来みらいと暮らしている


昔は特別な事に憧れて厨二病を拗らせたものだが、特に力を得る事もなく普通に過ごしてきた

何を持って普通の人と言うのか、あやふやイメージだが天才と凡人がいるなら、僕は凡人という意味では普通の定義に当てはまると思う

そんな人生の中で妻の紫輝しき 実来みらいと出会った

二人とも初恋で行き違いも多かったが、最終的には結婚し子供も授かった

早くに結婚して子供も出来た事で、なかなか大変な事も多い毎日を送っている




ある日近くに住む花乃芽はなのめさんが〝憩いのカフェ〟を開いた

とてもおいしいコーヒーを入れると、周りからの評判で繁盛している店である


僕も気になって実来みらいさんと一緒に訪れた

初めて来た時に感じたのは、雰囲気の和む店にとても心地の良い感じである

出されるコーヒーもとても香り良くおいしかった

特に僕たちは花乃芽はなのめさんが入れてくれるカフェ・ラテが気に入っていた


そんなある日、常連客となってきた僕たちに花乃芽はなのめ 堅太けんたさんが、さくらちゃんの事について話をしてきた

常連客にはいつもしているそうだ


なんでもストーカー被害にあっているのだが、全く証拠がなく捜査打ち切りで落ち込んでいたらしい

そこで〝娘であるさくらの事を気にかけてやってください〟と頭を下げられたのだ


僕はその話を聞いて少し困った顔をしていた実来みらい


実来みらい、見守ってあげようじゃないか

良い店だしさくらちゃんも良い子なんだし」


とだけ言った

それに頷きはするが納得出来ないような、そんな感じが見られた




あれからも〝憩いのカフェ〟には良く足を運んでいる

そんなある日、お手伝いをしていたさくらちゃんがカフェ・ラテを持ってきてくれた

それを飲んだ僕はいつもと違う味に驚いていた

もちろん美味しかったからである

その横で妻の実来みらい


「今日のカフェ・ラテ、凄くおいしい」


と溢すから僕もそれに呼応する形で


「そうだね、僕もこのカフェ・ラテの味は好きだな」


と笑顔で答えた

するとカウンター前にいたさくらちゃんが


「じ、実はこのカフェ・ラテ、私が淹れたんです」


と照れくさそうにお盆で顔を隠しながら言ってきた

妻の実来みらいがそれに対して


「そうだったの?」


とビックリしながらも聞き返すように答える

それに笑顔で一つ頷くさくらちゃんを見て、実来みらいは何か悩んでいた霧が晴れたような顔をしていた




それから僕たちは〝憩いのカフェ〟でさくらちゃんの入れた、カフェ・ラテをもらって飲むのが楽しみになっていた

そんなある日、近くに住むシングルマザーの、花苑はなぞの 火芽ひめさんを誘って〝憩いのカフェ〟を訪れた

火芽ひめさんもシングルマザーという事で疲れていたのか、その雰囲気を凄く気に入ってくれたみたいだった


それからも何度か一緒に訪れることもあった

しかし時間が合わなくなっていき、しばらくして一緒に行く機会は減っていった


そんな中、一度だけ息子の紫耀しきくんにあった事がある

その時はたまたま〝憩いのカフェ〟で一緒になったのだが、その時は何故か一緒に座らず別々で座っていた

その時ちょうど〝堅太けんたさん〟が〝紫耀しきくん〟と話し込んでいた




その日から少ししたある日

いつものようにお店に寄った

もちろんお目当てはさくらちゃんお手製のカフェ・ラテである

しかしその日は何故か開店時間帯になっても開いていなかった


仕方なく時間をずらして来てみたが、それでも〝憩いのカフェ〟は閉まっていた

それを見て


「今日はやってないのかしら?

どうしましょう、、、帰る?」


実来みらいが問いかけた時だった

〝ガチャガチャ〟と音を立てて鍵を開け、〝憩いのカフェ〟からさくらちゃんが出てきた

話を聞くと花乃芽はなのめ夫婦はちょうど買い物にいってるらしい、だから僕たちは


「じゃあ、出直しますよ」


と告げて去ろうとしたが


「少し待ってください、もしよろしければ中でカフェ・ラテ飲んで行かれませんか?」


さくらちゃんに言われる

僕たちはそのお言葉に甘えさせて貰い、さくちゃんからいつものおいしいカフェ・ラテをもらった


その時だった〝ふと〟眠気に襲われて机に突っ伏すように倒れ込む

眠い中で意識が〝フワフワ〟していくのを感じる中、横で同じように倒れ込む実来みらいの姿が見えた


しかし僕はその光景に薄れゆく意識の中、驚きを隠せずにいた

実来みらいの背中に〝ギラリ〟と光る包丁が刺さっているからだ


「み、実来…」


そう呟きながら手を伸ばす僕の手に、冷たい何かを感じる

その背中にはさっきまで実来みらいの背中にあった包丁が突き立てられていた


「っ!」


痛みで言葉に出ない叫びが出る

次の瞬間、包丁を引き抜かれ背中にとても冷たい何かを感じた

それと同時に暖かい何かが背中から全体に広がる

薄れる意識が限界の中、僕は必死に伸ばした手で横にいる実来みらいの手を握ると微笑みを浮かべた

握った手が冷たくなる感覚を胸に〝僕も一緒だからね…ごめんな…ゆ、うき〟と事切れるように呟きながら暖かい何かと共に、その眠気に飲まれるよう意識を無くした

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