第20話 ダンボール?

 シレンが『コレクター』という言葉を知っていたのは、美男子を集める神の友人がいたからだ。その神から『私は人間で言うコレクターなの』と聞かされていたのだ。


(懐かしい。今は亡き友だの言葉だがな)


 その神も今はいない。シレンが人間に破れる少し前に、人間に滅ぼされたのだ。男神なのに女性のような口調が特徴的な変わり者の神であった。


「この中に私を癒した魔法薬があったのだな? それはどの箱に入っていたのだ?」


「これ!」

 

 冬樹が指差した箱は、真ん中の棚の真ん中にある大きな白い紙の箱だった。シレンはそれを手に持ってみる。


「これか………」


「うん! そのダンボールに入ってたの」


「ダンボール?」


「あ、ダンボールっていうのは紙の箱の方だよ」


「ああ、箱の方の名前か。紙なのに少し丈夫だな」


 紙の箱の構造に興味を持ったシレンだが、重要なのは中身の方だ。箱を調べるのは後にすると決めて、箱を開ける。すると木の箱が入っていた。


「これも二重構造、面白いな」


「?」


 冬樹は首をかしげる。シレンの言っている意味が分からない。何が面白いのか思いつかないのだ。


 もっとも、シレンは神として人間に関する知識が自分に蓄積されていくことに楽しさを覚えているだけなのだが、それを面白いと口にしたのは今日が初めてだった。


 シレンは木箱も開けてみた。中に入っていたのは予想通り大きな瓶に入った魔法薬だった。ただ、感じ取れる魔力が他の物よりも質が違う。何か違和感がある。


(何だこれは? 臭いからしてあの時飲んだものと同じなのは分かるが………?)


 違和感が気になったシレンは冬樹に聞いてみることにした。元の持ち主の孫なのだ。何か知ってるかもしれない。


「冬樹、この薬について何か知らないか?」


「おじいちゃんがね。大好きな女ができたら水で薄めて飲ませてあげなさいって言ってた」


「ほう。愛する女性に飲ませよと。興味深いな」


 シレンは魔法薬の瓶の蓋を開けて臭いを嗅いでみた。何だか甘く感じるが、それでいて意識が曖昧になりそうでならないような奇妙な気分になりそうだった。


(な、何だこれは………? 感じたことのない奇妙な感じだ。数千年生きてきたが、これは、一体………?)


 シレンは少しなめてみることにした。本当に少しだけと思ったのは、人間を甘く見て敗北した痛い思い出から警戒するに越したことはないと考えているからだ。

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