第18話 一年……
あれから、シレンは冬樹の家で少しずつ人間の世界、暮らしと文化を知り始めた。シレンの方から学ぼうと試みたのだ。テレビやラジオという情報伝達技術、エアコンや扇風機という環境管理技術、その他にも多くの『機械』による『科学技術』を知り驚かされる日々だった。おかげでシレンは、人間社会・文明技術において多くの知識を身に付けられた。神々の中で今のシレンほど人間の知識を身につけた者は他にいないといってもいいだろう。
「……それでも私は自惚れることはできない」
だが、シレンはこれで満足してはいなかった。
「たったの一年で多くのことを知ったが、まだ家庭の中でしかないからな」
一年たったが、シレンはこの家から外に出てはいないのだ。洗濯物を干したり、庭の草むしりをする時にしか外にでなかった。だから、シレンには家の外の世界の情報が入ってこないのだ。
「………すっかりトラウマになったな。力もまだ半分もないし」
シレンが外にでないのは『恐怖』からだ。かつてのシレンは、女神の力を持ってしても反旗を翻した人間たちに敗れてしまった。その時の恐怖から、外に出ることが恐ろしくて仕方がないのだ。
たとえ、幾らかの力を取り戻せていても、だ。すでにシレンには人間たちに向かって戦いを挑もうという気はなかった。
「今の生活の方が幸せというものを実感できるし……」
「ただいまー! 姉ちゃん!」
「! 冬樹、もう帰ったのか」
玄関から、子供の声が聞こえてくる。小学生一年生になった冬樹の声だ。シレンは笑顔で彼を迎えにいく。
「おかえりなさい。早かったわね」
「え? いつも通りだよー?」
シレンは冬樹に言われて時計を見てみる。
「え? あ、本当だ! もうこんな時間だったのね。時が過ぎるのって本当に早いわ………」
冬樹が帰ってくる前とは明らかに口調が違うシレン。これは半年前から、シレンと冬樹が本格的に『姉弟』として共に暮らしていこうと誓った時から、シレンは口調を変えることにしたのだ。
シレンのような女神が人間の少年に対して、本当にの姉のように振る舞うなどあり得なかったのだが、半年前のとある出来事が、シレンの心を大きく変えた。
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