第16話 洗濯機!
「冬樹、私の服を洗ってほしいができるか?」
「昨日の服だね。分かった、洗濯機に入れてくるね」
「洗濯機だと? あっ、おいっ、待て………!」
シレンはタオルを巻き直す間に冬樹は寝室から出ていってしまった。『洗濯機』という気になる単語を残して。また興味を持ったシレンは、慌てて後に続く。
◇
冬樹の後についていってシレンが見たものは、冷蔵庫と同じような素材で作られた大きな箱(?)だった。
「何だ、この大きな物は? 冷蔵庫とは違うようだが………?」
「これが洗濯機だよ。中に服を入れるの」
「この中にか? ……ほお、これは複雑な造りになっているな」
シレンは中を覗き込む。しまいには頭を突っ込みそうな勢いになった。冬樹が心配し始める。
「お、おねえさん。ちょっと、服を洗いたいんだけど……」
「ああ、そうだな。どのようにするのか見てみたい。やって見せてくれ」
シレンに実践を求められた冬樹は、服を入れて、洗剤を入れて、ボタンを押して、洗濯機を動かす、という手順を見せて教えた。シレンは興味津々で稼働する洗濯機を眺めた。
「素晴らしい! では、これが止まったら奇麗になった私の服を取り出せるのだな! その後で乾かせば……」
「もう一度着れるんだね」
シレンは目に光がキラキラ輝くほど喜んだ。慣れ親しんだ服が雨風や泥で汚れてしまったことに悲しんでいたために、それが奇麗になって戻ってくることが嬉しくて仕方がないのだ。
「よくやった! 誉めてやろう! それで、どうやって乾かすんだ?」
「お日様が出てる晴れの日に外に干すの」
「なるほど! って、何だそれは!? そういうのも何かの『機械』というのでできんのか!?」
「うちの家にはそんなのないよ」
シレンの目から光が消えた。冬樹の言葉一つで希望から絶望に変えられた気分になったのだ。
(な、何ということだ。こんな絶望は、『あの時』以来か……)
『あの時』とは、シレンが初めて人間に敗北した日のことを指す。第三者が見れば、極端な話にしか聞こえないが、シレンにとってはそういうものだった。
「洗濯機が止まるまで時間があるから朝御飯食べようよ」
「………あ、ああ、そうだな」
冬樹に促されて一緒に台所に向かうシレン。この後、彼女の落ち込んだテンションはすぐに持ち直すことになる。
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