犯人は誰だ
新吉
第1話
ひどく眠い、泥のなかにいるようだ。頭がぐるぐると回るような、体は、う、動かない。なにかに縛られている!?どうしたんだ、なにも見えない。なんだ?ん、声が聞こえる。
ヤバい起きそうだぞ!?
うるせーな、黙っていけ
いたっ
「やっとお目覚めかい?プリンセス」
んぐっ!口が!声がでない。熊みたいな俺にプリンセスなんて文句も言いたい。なにも見えないが誰かこっちにきた。ヒヤッとする感触、喉元にナイフを当てている。切られた、のは口にくわえられていた布だった。
「っはあ、お前、妻と子どもは無事だろうな!?」
「はははっ!それは保証しよう、だから今は自分の願いを言ってみろ!死ぬ前にな」
犯人の声に聞き覚えがあって、拍子抜けした。探偵役をやるのも悪くない。
「犯人はお前だって一度言ってみたかったなあ」
「なんとも間抜けな願いだな」
犯人は俺の願いを聞き入れてくれた。俺はある探偵に憧れがある。現場のどんな小さいヒントも見逃さない。
首もとに光っていたナイフを引っ込めた。目隠しと小さいイスに縛り付けられた手足はそのままに、犯人は俺と話をすると言い出した。
「僕が誰かわかるのか?」
「俺の推理が正しければな、」
そうカッコつけてみたらおおいに笑われた。この状態でカッコつけられてもたしかに、笑えるな。
「俺の息子よ、お前がこの誘拐劇の犯人だ」
「ははっ証拠はあるのか?」
証拠か、必要ないだろう。
「声と話し方で君が誰かわかる」
「それは証拠じゃないよね?声変えてるかもしれないじゃない。話し方も演技できる。誰かがあんたの息子になりすましてるかも?」
まあそのとおり、それにさっきまでの声、複数犯人がいる可能性が高い。自分でいうのもなんだが、体格はいい方だし無抵抗で俺がこんなヘマをするはずがない。俺は家族団らんで昼食を食べていたところで記憶が途切れている。
「この埃っぽいにおいと声の反響具合。俺の家のガレージに似ている」
「それが証拠になる?全部君の感覚じゃないか、よその家のガレージ行ったことある?こんなもんだよ」
「ガレージなのはあたりなのか?」
「ざーんねん、そんなヒントになるこというと思う?」
「ふむ、じゃあ何が目的だ?」
「あんたの命、だけだったけどあんたの奥さんも連れてこようか?」
「なに!?」
「キャー!!」
妻のその声で、だいたいの筋書きはみえた。だがしっかり推理しないときっと解決しないんだろう。
「わかった、俺が悪かったよ。俺の息子よ、お前はすごい!だが俺にはすべてわかっている。まず今日はなんの日だ?」
「あんたの誕生日」
「そうだ、お前一人で考えたわけじゃないだろう?この誘拐劇の真犯人は俺の妻、なあそうだろう?」
「あなたバカなこといってないで助けてー!!」
「お前の演技のうまさはわかってる。俺の飲んだ紅茶に何か盛ったな?まだ頭がクラクラするぞ」
「この場所は?」
「学校の倉庫だろ?」
「な、なんでそれが?」
「お前な、このイス学校のだろ?あとは懐かしいマットのにおいがしたからな。あてずっぽうだけど、お前が認めりゃ正解だ」
「くそっ」
「あらあら」
悔しがる息子の声、困る妻の声、そろそろ目隠し外してほしいなと思う。
「残念だなあ、メアリーとリュカから相談されていい場所とメンバーを揃えたつもりなんだがな」
「そ、その声は」
ぐいっと目隠しが外されて、俺の前には恩師のマラッカ先生がニヤニヤと笑っていた。
俺がリュカの年の頃学校の先生をしていた。今は学校の警備をしている。悪ガキだった俺はとにかく怖いマラッカ先生にさんざん怒られながら、二度としないと誓ったもんだ。
「ありがとうございます。マラッカ先生、わたしのわがままを聞いてくれて」
「いーや良いものがみれて、俺も楽しかった」
「台詞はぜんぶマラッカ先生が考えたんだよ、父さん」
「なんて日だ!俺誕生日なんだけど?」
「だから願いを叶えてやるって言ったでしょ?」
「派手なプレゼントだろ?」
「あなたに盛ったのはマラッカ先生からもらった熊用の催眠剤よ」
「はあ?」
「爆発させたかったなあ」
「それは学校の先生からダメだって言われたじゃん、みんなおいで」
ビックリするほどの生徒が体育館にいる。
「「マール先生、お誕生日おめでとう!!」」
なんて日だ。忘れられない誕生日だ。まあ来年の誕生日が心配だけど。
犯人は誰だ 新吉 @bottiti
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