無敵の勇者が死んじゃいました。

井織ナス

第1話 おお ゆうしゃよ! しんでしまうとはなさけない。

 その日、王国にとある訃報が轟いた。

 城の地下にある『水晶の間』で、勇者一行の旅を見守っていたババ様からの報告。

 血相を変えたババ様が謁見の間に足をもつれさせながら現れ、その老婆が放った一言に、城内は騒然となった。


「勇者が死んだ!」


 髭まで白髪まみれの国王は、その伸ばした髭を落ち着きなく触っている。


「どうしたものか、どうしたものか」


 この世界には長きに渡り、人間を苦しめている凶悪な魔王がいた。

 その魔王に対抗できる光の勇者を見出したのは、一年ほど前。

 人間離れした戦闘力から無敵の勇者と安直な呼び名で呼ばれていたが、その名前の通り彼は無敵だった。


 王国が手をこまねいていた魔将軍を屠り、港町を襲撃していた触手まみれの怪物を雷で焼き払った。人知を超えた存在。


 間違いなく魔王を倒せる実力があったはずの彼。

 そんな彼は拾い食いで腹を壊し、そのまま帰らぬ人となってしまった。


「よりにもよってそのようなことで……!」


 国王は額に手を当てる。頭痛で顔が険しく歪んでいた。

 国民には勇者の死を言うべきはない。

 希望を失った民たちは、あっという間に闇の勢力の手に落ちてしまうだろう。


 民衆が命を脅かされながらも今日までなんとか生き残れたのは、勇者が居てからこそ。知られるわけにはいかない。


 勇者が人類にとっての希望なのは、その仲間たちも同じだった。

 最悪なことに勇者が死んだことで、彼の仲間たちは戦意を喪失していた。

 勇者に及ばないまでも魔王に対抗できる力持ったパーティーメンバー。

 

 無敵の勇者が死んだ以上、なんとかして彼らに魔王を討ってもらうしか手はない。

 世界が魔王の攻勢に屈するのも、もはや時間の問題になっている。

 次の勇者を待つ余裕はない。


「誰か! 伝令を……、伝令のハスクをここへ連れてきなさい!」

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