第24話 老デウス 再会編

 ぼくは、あの光に呑み込まれた。

 エリスを守る為に、必死で光の中でエリスを抱きしめて…。

 そして、見た。

 アレだった。

 二度目の時に過去に戻る際に見た、あの赤き結晶の化け物。

 少女を頭部のコアに入れている赤き結晶の魔物を。


 あの赤き結晶の魔物を通り過ぎる時に

”アナタは…また、変えてしまうの?”

と、少女の声が頭に響いた。


 過去に戻った二度目には無かった事だ。

 そして、同時に飛んでいく周囲に同じく飛ばされたモノを見た。


 一隻の小型飛空艇に乗る女三人と男一人。

 そして、同じく四人の男一人に女三人が互いに離れまいとしている姿。


 次に見た光景は、巨大な空まで貫く機械の塔。

 そして、その中にある目の形をした結晶。

 その輝きに照らされた時に声が聞こえた。

「神の眼よ! 我は願い乞う!」

と…。


 強い力の奔流に弄ばれた後、何処かの空に出た。

 落ちていくルーデウスとエリス。

 エリスは気絶している。それをルーデウスは抱えて

「重力魔法! アンチグラビィティ!」


 反重力の魔法を発動させて軟着陸する。

 何処かの森の中だが…周囲にいる生物がまるで違う。

 大きな蜘蛛、多頭の大蛇、巨大な地龍が跋扈する。

 明らかに人族とは違う世界。

「まさか…魔族の世界?」


 そう、ロキシーから聞いている魔族の世界の情景と一致する。

 ルーデウスは焦る。

 魔族世界の動物、魔物は強大だ。

 大きな躯体のモノが大きく、人族が魔族世界で生きるのは、それなりの訓練期間と装備が必要だ。

 今の自分には、魔法と、魔力を高めて一応の先端に槍の刃先だけがある魔導杖だけ。

 エリスは、人族世界の標準的なロングソードのみ。


 ルーデウス達を見つけた巨大な魔物が襲いかかる。


 ルーデウスは必死に戦う。気絶したエリスを抱えて稲妻魔法を乱舞、更に凍結魔法、大地を変貌させる魔法、爆炎魔法と襲いかかる巨大な魔物を退治するが…次々と現れる。

 現れる魔物のサイズは軽く象を越える程に巨大だ。

 大きな魔物達に襲われている危機的状況で、襲いかかる魔物達が次々と鏖殺される。

 巨大な魔物の亡骸の上に立つ者達。

 それは、額に宝石と緑の髪のスペルド族の者達と、緑の髪をした龍族の男、そして、筋肉隆々の人族の男だ。

 人族の男がルーデウスに近づき

「大丈夫か? 坊主…」


 ルーデウスは安心してエリスを抱えたままその場に座ってしまった。

 スペルド族の長であるルイジェルドが来て

「大丈夫か?」


 その隣に緑の髪の龍族の男が来て

「なぜ、人族の子供達が危険な魔獣の大森林に?」


 人族の男がルーデウス達を凝視して

「その格好…アスラ帝国の…」


 ルーデウスが男に

「助けてください! 多分、大規模な転移災害が発生したんです!」


 人族の男がルーデウスを凝視して

「お前、なんかどっかで…?」


 ルーデウスは自分を示し

「ルーデウス・グレイラットと申します。この子は…」

と、抱えるエリスを見て

「エリス・ボレアス・グレイラット。ボレアス領主のご令嬢です」


 人族の男と緑の髪の龍族が顔を見合わせて、人族の男が

「もしかして、お前…アスラ帝国にいるロキシーの」


 それを聞いてルーデウスが記憶を探り

「もしかして、パックス王子と…龍族のエメラルド様?」

 人族の男と緑の髪の龍族は頷いた。


 幸運だった。

 直ぐにルーデウスとエリスは、スペルド族の村に保護されて事情を聞く。

 パックスは槍の修行の為にエメラルドと共に槍の名手が多いスペルド族の元へ来て修行していた。

 スペルド族は直ぐに隣町、ロキシーの故郷であるミグルド族が情報を集めてくれた。


 スペルド族の族長ルイジェルドの家でルーデウスが話を聞いた。

 ルイジェルドが

「残念だが、ルーデウスの言う通り、人族のアスラ帝国で大規模な人々が消失した災害が発生して、同じくして各世界を往来するゲートが不安定になって渡れる世界が限定されているようだ」


 それをエリスも聞いて不安な顔になるが、ルイジェルドが

「ボレアス領主城の周辺は、四分の一程度が消失しただけで、領主城は無事だ。ボレアス領主達は、消えた娘と一緒にいた少年の探索届を出している。エリスの家族達は無事だぞ」


 それを聞いてエリスは安心したが

「ルーデウスの家族の方は?」


 ルイジェルドが苦しい顔で

「ボレアスの近くにある村落は、ほとんどが壊滅、多くの家々と人々が消失している」


 それを聞いてルーデウスは俯く。

 なってしまった。お父様お母様、リーリャ、ノルン、アイシャが行方不明という事だ。

 ルーデウスが手を震わせ

「直ぐに人族の世界に帰りたいです」


 ルイジェルドが

「すまない。世界を繋げるゲートが不安定で、直ぐにはムリだ」


 エメラルドが

「君達がここにいるという事は…他に飛ばされた人々も、この魔族の世界にいるのでは?」


 ルーデウスはハッとして

「確かに…」


 エメラルドとルイジェルドが視線を合わせて、ルイジェルドが

「もしかしたら…家族もこの魔族世界に転移しているかもしれない。急いで帰れないなら、捜索してみる価値はあるかもしれない」


 同席しているパックスが手を上げて

「オレも手伝うぜ。ルーデウスはオレにとっても同じ魔法の師匠で習った子弟だ。助けるのは当然さ」


 エメラルドも

「私も協力しよう」


 ルイジェルドも

「私も手伝おう」


 それを離れて聞いていたルイジェルドの息子夫妻が呆れ気味に

「やっぱりそうなるよね父さんなら」と息子が告げる。


 ルイジェルドが息子に

「すまない。家を空けるが…」


 息子の嫁が

「良いですよお義父さん。行く前は…お義母様のお墓に手を合わせてからにしてください」


 そして、エメラルドが指先に傷を付けて

「ルーデウスくん、エリスくん、君達にとある秘術を施す。龍族の力の一端を分け与える血盟秘術だ。君達を守る為に、私の龍族の力の一端を与える。良いかね?」


 ルーデウスは頷き

「エリス、ありがたく受け取りましょう」


 エリスが目を輝かせ

「まって、龍族の力が貰えるの! じゃあ、ドラゴンに変身とか出来るの?」

 

 エメラルドが困惑気味に

「まあ、訓練すれば…」


 エリスは跳ねて「やったぁぁぁぁぁぁ!」と大喜びした。


 それが深刻な空気を変えてくれたので、安心感を広げた。


 ルーデウスとエリスの二人は、エメラルドから龍族の力を少しだけ譲渡される血盟秘術、一滴だけ龍族の血を貰い、それによって龍族の能力の一端を貰う。


 パックスがニヤリ笑みで

「羨ましいなぁ…オレには、やってくれなかったのに」


 エメラルドが呆れ気味に

「君は、元から人神ルナティア様に繋がる系譜の神子だ。必要ないだろう」



 こうして、龍族の力を貰ったエリスとルーデウスは、直ぐに効果が現れた。

 エリスの身体能力が十二歳とは思えない程に向上し、魔獣の大森林の魔獣達では敵わない程になった。

 ルーデウスの体にも変化が訪れる。

 今までは強大すぎる魔力に体が追いつかないでダメージを受けたが…強度が上がり、更に強大な魔法を使えるようになった。

 エメラルドからも龍族の強大な魔術を習い、更なる進化を遂げた。


 そして、エリスは望み通り龍に変身できる力も得て大喜びだった。

 どデカい赤龍になって、魔獣の大森林に爆炎の大穴を開けた時には勘弁してくれとルーデウスは思った。


 こうして、ルーデウス、エリス、ルイジェルド、エメラルド、パックスの五人による魔族世界の探索が始まった。

 まずは、魔族世界を統治している魔神、女神キシリカへ謁見を求めに行く。

 魔神キシリカは遠くまで見通せる千里眼を持っている。


 魔神キシリカの城は巨大で、キロ単位の都市のそれが全て城だ。

 その中心の王座に座る女王の魔神キシリカ。

 長身で、巨大な二本角を頭部に持つ、大人な女性のキシリカがルーデウス達と謁見して

「話は、龍族の龍神オルステッドから聞いている」


 魔神キシリカに跪くルーデウス達、ルーデウスが

「では…」


 魔神キシリカも頷き

「捜索に協力して欲しいと要請されて動いてはいるが…我が千里眼では、確実に捉える為に、その繋がりがなければ…探し人を捉えられない」

 魔神キシリカは続ける。

「今回の災害、どうやら神の眼の暴走が原因らしい。我ら各世界の叡智を集結させた研究者達が神の眼の操作を実験していた結果、起こった為に各世界が解決に尽力しているが…世界を繋ぐゲートが不安定なのだ。連携が取りにくい」


 ルーデウスが

「先程、キシリカ様は、繋がりがあれば…捉えられると…」


 キシリカは笑み

「坊主、頭が良いな。ルーデウスと申したか…お前の肉親がここにいるのか…と知りたいのだろう」

と、ルーデウスを手招きして

「お前に触れれば、その繋がりを使って正確に家族の位置は分かるぞ」


 ルーデウスは、魔神キシリカに近づき跪くとキシリカがルーデウスの頭に触れて千里眼を使うと…

「やはり、ゲートが不安定ゆえに、我が世界しか分からないか…。ルーデウスよ。母親がこの世界にいる。急げ! 母親はクリスタルヒュドラに呑み込まれて核と成ってしまうぞ」


 


 ルーデウス達は急いで、母ゼニスがいるクリスタルヒュドラのダンジョンに潜る。

 前に

「ルーデウス!」

 またしても幸運だった。

 ロキシーと合流した。


 ロキシーは、エメラルドがパックスを連れて魔族世界へ渡った時に、一緒に魔族世界へ帰り旅をしていた。

 ロキシーはルーデウスから事情を聞いて、一緒に行動を共にする事にした。


 ルーデウス達は、迷い無く一目散にそのクリスタルヒュドラがいる最下層まで進む。

 ルーデウス達に敵うダンジョンの魔物はいない。

 強大な魔法の援護をルーデウスとエメラルドが行い、先陣をルイジェルドとエリスが切り開き、その中間を槍の名手パックスとロキシーが埋める。

 疾風のようにダンジョンを駆け巡るパーティー。

 そして、クリスタルヒュドラがいる最下層へ到着する。

 そこはクリスタルが幾つもの伸びるドームで、その中心の巨大な結晶にゼニスが閉じ込められていて、そこから伸びるクリスタルヒュドラが応戦する。


 エメラルドが

「マズい、あのまま倒せば…ルーデウスくんの母親に影響するかもしれん」


 パックスが

「だが、早くしないと…吸収されるんだろう!」


 ルーデウスが「お母様!」と声を放つと、クリスタルヒュドラのコアクリスタルにいるゼニスの目が動いた。


 エメラルドが鋭い目をして

「まだ、間に合う! ルーデウスくん。君を触媒にして、母君とクリスタルヒュドラを融合させる。クリスタルヒュドラは、攻撃するだけの意志薄弱な存在だ。だが…人とクリスタルヒュドラの融合体という」


 ルーデウスが

「構いません! 助けられるなら」


 エメラルドが頷き

「では行くぞ! 各人! クリスタルヒュドラの頭を押さえてくれ」


 おおおおお!

と、全員がここ一番だ!と、幾つもあるクリスタルヒュドラの頭を押さえる。

 そして、ルーデウスをエメラルドが連れて術式の構築をして、ルーデウスの血とルーデウスとゼニスの繋がりを元に、ゼニスとクリスタルヒュドラの融合を行った。


 クリスタルヒュドラはゼニスの中に吸収され、ゼニスをルーデウスは抱える。

「お母様! お母様!」


 ゼニスは救出されたが…前世では、ゼニスは言葉を…失って廃人のようになってしまった。


 ダンジョン近くの町のベッドでゼニスが眠り、目覚めたのは…三日後だった。


 ルーデウスがこの魔族世界に来て半年、おそらく、その間にもゼニスへのクリスタルヒュドラの浸食が進んでいるはずだ。

 ルーデウスは、またしても母親は…と泣きそうになるが。

 ゆっくりとゼニスの視線がルーデウスに合わさって

「る…ルーデウス?」

 喋った。


 ルーデウスはゼニスに抱き付き

「はい、そうですよ! お母様ぁぁぁぁぁぁ!」


 ゼニスはゆっくりと意識を取り戻して喋るようになった。

 前世とは違っている。ルーデウスに希望が満ちる。


 ルーデウスによって救出されたゼニスは、融合したクリスタルヒュドラの扱い方を学びつつ、魔族世界に転移しているだろう人々を探した。

 そして、この魔族世界に来て一年が経過した。

 助けられなかった命も多かったが、助かった命もあった。

 死者は二百人、生き残った生存者は百名前後。

 死者の数が多いも、それでも生きている者達を連れて人族世界への帰還を向かう。

 巨大な飛空艇を魔神キシリカは用意してくれ、救出者と共に人族世界へ向かうも、直ぐには行けない。


 各世界にある世界同士を繋げる6つのゲートの内、魔族世界では獣人世界のゲートしか使えない。

 その他のゲートは不調で、膨大な魔力が噴出しているので、高濃度の魔力を浴びると魔石化して死んでしまう。

 更に厄介な事に暴走しているゲート周辺では、その影響で強大な魔獣が発生して、その退治で大変な状態だ。

 唯一問題のない獣人世界のゲートから人族世界へのゲートへの繋がりを託すしかない。


 巨大な光の柱、ゲートをくぐってルーデウス達を乗せた飛空艇は、獣人世界へ入った。

 その飛空艇にはルイジェルドもいた。

 ルーデウスがルイジェルドに

「良いんですか? 一緒でも」


 ルイジェルドが微笑み

「ああ…見捨ててはおけない。最後まで付き合うさ。それに魔族は人族と比べて千年単位の長寿だ。このくらい問題ない」





 ーーー


 パウロは、やつれていた。

 あの日、息子を早めに迎えに行こうと準備していていた。

 騎士の正装をして、早めに来た事を驚かせようと…。

 だが、あの転移事件が起こった。

 ノルンと一緒に転移した場所は、すぐ近くのミルボッツ領だった。

 そして、現状を知り愕然とした。

 数千人に及ぶ行方不明者を起こした転移災害。

 直ぐにパウロは、捜索隊に加わった。

 だが、ノルンを預ける場所が無かった。

 ゼニスの実家は神聖王国の大貴族だが、縁切りされて援助が受けられるか微妙だった。

 だが、龍族が援助してくれた。

 龍神オルステッドを筆頭に、龍神の配下である五竜将の聖龍帝シラードの娘であり将来の聖龍帝のティリア、甲龍王ペテルギルスといった名だたる龍族達の支援の元で大規模な捜索が始まったが…結果は無残だった。


 大半の者達は死亡していて、遺体確認の作業。

 生き残っている者達もいるが、雀の涙だ。

 報告は、毎日毎日、死者の確認。

 まだ家族の報告はないが…あれから一年だ。

 もしかしたら…

 そんな絶望に押しつぶされそうになって、お酒を飲んでしまう。

 娘のノルンを連れての捜索。唯一、娘ノルンがそばにいてくれるのが救いだった。

「ルーデウス、ゼニス、リーリャ、アイシャ」

と、家族の名前を告げて涙する。

 そこにノルンが来て

「パパ、痛いの?」


 パウロは娘ノルンを抱きしめて

「ありがとうなノルン…」



 ーーー

 

 その日、獣人世界のゲートから来た飛空艇に獣人達が群がる。

 あの人族世界の転移災害の生き残りが乗っているという噂で持ちきりだ。


 飛空艇が港に到着して、桟橋が架かる。


 その出口には、パウロと共に捜索に参加した元パーティーメンバーのエリナリーゼとタルハンドがいた。

 二人は、生き残りにもしかして、ゼニス達がいるのでは?と希望を持って来ていた。

 その希望は果たされた。


 エリナリーゼが飛び出して

「ゼニス! ルーデウス」

 最初に出てきたルーデウスとゼニスに抱き付いた。



 そして、二人をパウロがいる捜索隊拠点の宿屋へ連れてくる。


 ドアを開けたそこに、ノルンを抱きしめているパウロが座っていた。


「お父様!」

と、ルーデウスが声を張る。


「え?」とパウロが聞き覚えがある声に気づき、ノルンがそこを見ると

「ママーーーー」

と、ゼニスに走って行く。

 ルーデウスは一目散にパウロへ走り抱き付き

「良かった…お父様…生きていた…」

と、涙した。


 硬直するパウロ、そこへノルンを抱えたゼニスが来て

「アナタ…ただいま」


 パウロは、嗚咽を上げて涙する。

「ルーデウス! ゼニス、オレは…オレは…」


 家族の再会を見ていた他の者達は涙して、ルイジェルドは泣いているエリスの頭を撫でた。


 その後、家族は離れていた時間を埋めるように共に過ごした。

 ルーデウスは苦笑いで

「正直…何度、死にそうになったか…」

 何でも出来た息子が苦労していた話を聞いて花を咲かせる家族達、そこへパックスが

「更なる朗報だ」

と、とある手紙をルーデウス達家族に渡す。

 そこには、リーリャとアイシャが無事であるという知らせだ。

 リーリャとアイシャは、パックスの国で保護されている。


 パウロが涙して喜び

「ちきしょう! 今日はきっと一生分の幸運を使い果たした日だな!」


 水入らずで過ごすルーデウスの家族達をエリスは遠巻きに見て、イライラしていた。

 寂しいのだ。ずっとルーデウスはエリスを気にしてくれていた。

 今日だけは…と思っているが、嫉妬が疼く。

 自分は両親共に最初から無事なのは、知らせで分かっているし、手紙もやりとりしているから分かっている。

 ルーデウスは、最初から分からなかった。それも分かっているけど…。

エリスは、それで自分の気持ちを知った。ルーデウスが好きなのだ…と。



 その後、ルーデウスはエリスをボレアスまで送り届けたいとして、パウロ達と別れて、その道中まで、ルイジェルド、エメラルド、パックスが同行する事になった。

 ロキシーは、パウロと共に他の世界にいる人達を捜索する手伝いに回った。


 獣人世界から人族世界のゲートを通ってリーリャとアイシャいるパックスの国に来て呆れた。


 確かにリーリャとアイシャは、保護されている。

 そこはとある城の一角に軟禁されていると言って良い程だ。


 その理由は。

「パックスよ。この者達を解放したければ、お前が我が国の王になれ」

と、この国の王であるパックスの父親が、王座からルーデウス達に告げる。


 パックスの国、シーローン連合王国は今、とある問題で危機的状況だった。

 それは国王の跡取り問題だ。

 シーローン王には、多くの妾達がいる。

 それによって多くの子供達もいた。

 それに対して、養育の費用もチャンと出していた。

 無論、それによって王位を巡る争いが起こって、それに勝ち残った者が王になるだろう。

 今のシーローン王もそう思っていた。

 かつての自分もそうだった。

 だが、違った。

 その理由は、最強の龍族アレキサンドライトが原因だ。

 アレキサンドライトは、龍族で絶対な王として育てられて、次期龍族の、いや…この六つの世界の頂天になる男だった。その男が龍族で最強の五竜将や父親の龍神を粉砕して、更に、六つの世界を各々に治める神さえも倒した後、故郷である龍族を捨てた。

 その理由が…。

「全ての生けるモノは自由である。自ら考え自ら選択し自らの責任を果たす。それがない生など、道具と同じ無意味」


 それは、今まで王座こそ絶対である者達にとってショックな事でもあり、それを否定する為に、かつてパウロとリーリャが参加した龍族と人族の大編成部隊でアレキサンドライトを捉えようとしたが…結局は大敗した。


 その日から王族の子供達は、王位が全てでは無いと悟る者達が出て、人族の王座から後継者が去って行った。

 ルーデウスの産まれたアスラ帝国の帝位も今や、誰も継ぎたいと思う者がいないので、必死に王族の血を引く者達を説得している状態だ。

 それは、このシーローン連合王国も、ゼニスの故郷である神聖王国も同じだ。

 次がいない空席の王座。

 そして、王族の子息達は、人神ルナティアの系譜に連なる為に神子として能力が高い。

 王族の地位を捨てて暮らしていける。

 この衝撃はデカい。

 王族という貴族的な社会にとって、その象徴が喪失するという事は、貴族社会の存続が危ぶまれるどこか…貴族社会の子息さえも、家を捨てて自らの道を歩む事態となっている。


 王位の軽視は、貴族が今まで持っていた権威の軽視へ繋がり、最悪…王位は民の投票で選ばれた代表で十分という論理さえ生まれてしまった。


 シーローン王は息子パックスに告げる。

「我が国の王になれ」


 パックスが苛立った顔で

「モウロクしたなぁ…親父。暗君と成り果てて、もう…この国は終わりだ。だから、オレは…いや、ザノバも他の兄弟姉妹達も出て行った。それが分からねぇのか?」


 ルーデウス達を取り囲む騎士達に女性がいた。

 その女性騎士が

「王子も他の王子達や王女達と同じく。私達を捨てるのですか」


 パックスは自身の武器である激震の神槍で床を叩きつけ

「おうよ! お前等、立派に立つ足があるだろうが! それで自分で立って自分でやっていけぇぇぇぇぇぇ!」

 

 それが合図だった。

 一斉にルーデウス達は、周囲を押さえる騎士達を峰打ちで吹き飛ばし、急いでリーリャとアイシャが軟禁されている区画へ向かう。


 それを見てシーローン王が

「これで、この国は終わった」


 パックスだけがそこに残っていて

「国は、民がいれば何とかなる。うぬぼれんじゃねぇ」

と、言葉を残して背中を向けて去って行く。

 ルーデウス達を追うのだ。


 シーローン王が

「パックスよ。お前が他の子達と同じく王位を継がないとしても、ワシはお前の、お前達の父だ。何時でも帰ってこい」


 パックスが背を向けたまま

「お前は、父親なんかじゃあねぇ。王位を維持する為の道具だろうが! 道具なんて家族じゃあねぇ」

と、告げて去っていた。


 シーローン王は王座で項垂れる。

 力の無い正義は無力だ。だが、力だけの正義は愚かだ。

 権威や力ばかりに囚われた結果、何もかもダメにして、思わぬ事で足をすくわれて終わる。

 力の信奉者は、別の力によって何時も駆逐されて消える。

 力だけでは何も解決しない。

 故に、龍族で最強の王を得る筈だった龍族は、人族と交わろうとしている。

 力だけの種族だった龍族は、力以外の人族が持つ心という力によって瓦解を迎えてしまったのだ。


 ルーデウスは、リーリャとアイシャを助け出した。

 別れ際にリーリャが

「ルーデウス様、これが私達を助けてくれました」

と、魔導具の結晶を見せる。

 その結晶は、ルーデウスが作った様々な魔法を簡易的に発動する魔導具だ。


 リーリャとアイシャは、転移した時に海に放り出されたが、このルーデウスが作ってくれた魔導具によって助けられた。


 アイシャが

「ありがとう。お兄ちゃん」

と、微笑み、その頭をルーデウスが撫でて

「アイシャも無事で良かった。ぼくは、エリス様を両親の元へ届けたら、直ぐに合流するから」


 リーリャが

「それとシルフィ様の事ですが…」


 ルーデウスは首を振り

「シルフィには、様々な術式を教えています。大丈夫です。何処かで生きています」


 こうして、リーリャとアイシャはパウロの元へ向かった。

その付き添いにパックスが同行してくれた。

 また、親父の横槍が入るかもしれない…として

 その事を言うパックスの顔は、どこか…悲しそうだった。



 ルーデウスは、エリスをボレアスまで送り届ける為にルイジェルドとエメラルドと共にアスラ帝国へ向かう。


 その最中、またしても世界を繋ぐゲートが暴走して、異常気象が発生して飛空艇の空路が使えないので、陸路で進む事になった。


 その最中、移動する魔導具馬車の車内でルーデウスが

「あの…エメラルドさん。アレキサンドライトって人の事を教えて貰っても…」


 エメラルドが少し俯き

「そうだな。聞いておくか?」


 ルーデウスは頷いた。


 エメラルドの話が始まった。

 龍族で最強とされるアレキサンドライトという人物の話を…。  

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