ヒトガミ編
第22話 裏切りの末路
アスラ帝国の首都は、昨夜あったサタンヴァルデットの事件によって大混乱していたが…それも直ぐに収まる。
なぜなら、死者は罪人だけ、後は無事だった。
確かに人は死んだ。
だが、凶悪な罪を犯した罪人が、首都から消えただけ。
これを神罰という者達もいるが…それでも…。
罪人だって家族はいる。
遺恨は残るも、残酷だが時間は前に進むだけ。
ディーオが一人、宿泊所で頭を抱えていた。
ラプターから説明された双極の指輪の作用だ。
双極の指輪を二人以上、尚且つ男女で、男性一に対して女性が多数で使った場合、その精神の深淵まで繋がる作用で、一種の高次元、神格域までの力を引き出すらしい。
そのお陰で、サタンヴァルデットを退治できた。
だが、その副産物として、双極の指輪を装備した男女は、永遠にお互いの魂を結び続ける。
それは…。
ディーオは悩んでしまった。
リリアとダリスにエレナの妻達を自分だけに縛り付けてしまった。
確かに仕方ない事だった。
そうしなければ、ならない事態だった。
でも…。
そんな悩めるディーオにペチンとリリアが頭を叩く
「リリア…」
と、ディーオが叩かれた頭を摩る。
リリアが腰に手を当て胸を張り
「悩む必要なんてないわよ」
ディーオが
「でも、オレは…君達を永遠に縛って」
その隣にリリアが座ってディーオの頬にキスして
「良いじゃない。私は、ずっとディーオのそばにいたいもの。ダリスとエレナだって、そうよ。私達の事を思って悩んでいるのが分かる」
と、自分の左手にある双極の指輪をなぞる。
「そして、分かるのよ。ディーオと私達は違う。男女は違う。だから…繋がりたいと思う。体だろうと心だろうと…ね。私達は得なのよ。体と心の両方で繋がっているわ」
ディーオがリリアの頬にキスして
「ありがとう。なんか、悩んでいたのが馬鹿らしいや」
リリアは微笑み
「じゃあ、次へ四人で行きましょう」
ディーオが頷き
「ああ…ルーデウスさんから聞いたけど、ヒトガミが…シーローン王国で何かをやろうとしているって…」
リリアも
「ラプターさん達もシーローン王国で、何かの力を感じて調査しようとした矢先に、あの事件だから戻って来て…」
ディーオが
「シーローン王国との調節は、まだ…だよね」
リリアが頷き
「ちょっと難航しているみたい」
ディーオは渋い顔で
「まあ、仕方ない。国規模の軍団、グレイラート騎士団の介入があるんだからな」
別の宿泊所で、ルーデウスとオールステッドが話し合っていた。
ルーデウスが
「しかし、難航していますね。交渉…」
オールステッドが渋い顔だ。
こんな強面にも慣れたルーデウスが
「どうします? もし…何かあった場合は、直ぐに突撃できるようにグレイラート騎士団の戦艦飛空艇の艦隊を国境沿いに待機させますか?」
オールステッドが
「もしもの場合、ラプター達、ホーリートライアングル達の船で瞬間移動して、精鋭を送るだけだ。ララの方だが…」
ルーデウスが
「順調ですよ。六つエレメンタルタワーの一つに触れただけで、全部、ララの手下になりましたし。後は…神の庭、エルザルガドに。その当たりは、ペテルギウス様達とナナホシに…」
オールステッドが腕を組み
「ヒトガミのヤツの力が未知数だ。それを見極めたいが…」
ルーデウスが
「事態は、予想より混迷しています。その場に合わせて最善をするしかないでしょう。まあ、オールステッドのループの記憶でも今回の事は…」
オールステッドが首を横に振り
「全く、分からん。分からん事がこれ程、不安とは…」
ルーデウスが
「人生なんてそんなモンですよ」
ーーー
シーローン王国には、ルーデウスの息子の一人ジークがいる。
ハーフエルフである母シルフィエットの特徴を持ちつつ、顔つきはルーデウスの美形という息子だ。
ジークがシーローン王国の王宮の窓辺から外を見ていると、隣に友人でシーローン王国の王族であるパックス二世が来て
「ジーク、ごめんな」
と、パックス二世は謝る。
ジークは肩をすくめて
「仕方ないよ。グレイラート騎士団は巨大な組織だ。国が入れるのをごねるのも分かるよ」
パックス二世がジークの隣に来て
「でも、本当なのかなぁ…。このシーローン王国の何処かに、魔神ラプラスの脅威に匹敵する何かがあるって…」
ジークは首を傾げて
「分からない。そんな存在がいるなら、強大な魔力や気配を感じるんだけど…一向に…感じない」
パックス二世が
「そう。それがあるから、将軍達も納得していないみたいだよ。勿論、ジークのお父さん、ルーデウスさんを信じていないわけじゃあないけど…」
ジークが背伸びして
「父さんの話だと、一応は直ぐに来られるようにしてあるらしいから…何とか会った場合は大丈夫だけど…」
パックス二世が両手に持っているワインの一つをジークに渡して
「何事もないで終わるのが一番だよ」
ジークもそれを受け取り
「その通りだよ。パックス」
二人は軽く乾杯を交わした。
ーーー
シーローン王国の首都の裏側、そこでは何時ものように人の闇がうごめいている。
殴り合い奪う者達、殺人、強姦、窃盗、詐欺。
そうやって人から奪う事でしか暮らしていけない者達。
その餓鬼、畜生、修羅のような地獄の底で、男は女を抱えて泣いていた。
男は殴られ顔が腫れ、抱える女は、衣服が破かれ無残な姿に胸部を何かで刺されて死んでしまっていた。
男は呪う
「神よ…なぜ、オレ達が、彼女が…こんな酷い目に遭わないといけないのですか?」
男のとって彼女は最愛の人だった。
ずっと幼い頃から共にあって、将来を…と。
だが、世の中は残酷だ。
愚かな権力の獣が、彼女を狙った。
そして、彼女をその毒牙に掛けて、飽きた瞬間…娼館に売り払って捨てた。
男は必死に彼女を探して見つけたが、時は既に遅く…彼女は息絶える瞬間、愛する男の腕に包まれて…。
彼女が取った客の倒錯した行動の結果だ。
世界は残酷だ。
運が悪ければ、人の命は簡単に奪われる。
これが、この世界の掟。
力が無い者は、奪われる。
力ある者が奪っていく。
どこの人の世にもある絶対的な真理だ。
人は高等な生き物ではない。欲深く愚かで稚拙な動物。
その残酷さを男は愛する彼女を奪われた事で眼にして涙する。
そんな男の目の前に、幽霊が現れる。
白き幽霊だ。
男は幽霊を見つめて
「アナタは…神ですか?」
幽霊であるソレは答える。
「否」
男は幽霊を見つめて
「では、何なのですか?」
幽霊は男を指さす。
「我は汝、汝は我、我は魔神ラプラスを復活させる芽胞」
男は魔神ラプラスの芽胞に
「アナタは何ができるのですか?」
魔神ラプラスの芽胞が告げる。
「汝を苗床にして復活果たす。その前に…汝が欲する事は無いか?」
男は腕の中にある愛する彼女の遺体を見つめて
「殺したい」
と、憎悪に染まった顔を向ける。
「彼女を苦しめ、私達の幸せを奪った者達、全員を…殺したい」
魔神ラプラスの芽胞が
「良かろう。その望み…叶えよう。だが…その暁には、汝の魂を、肉体を喰らい。我の復活を果たす。良いか?」
男は頷き「構いません」と覚悟した。
愛する彼女の亡骸を教会の温情によって埋葬すると、男はラプラスの芽胞と融合した。
そして、復讐へ向かった。
まずは、彼女を苦しめた客達や店、その関係者全員を焼き殺した。
悲鳴が響く、娼館が激しく燃え上がり、魔法で作られた十字架に、彼女を苦しめた男達と女達を貼り付けにして、娼館の焼ける炎で殺した。
そして、次に、彼女を奪った権力者の元へ走る。
彼女を奪った権力者は、ゲスな笑みで窓から町の外を見つめる。
「今度は、どんな女にしようなぁ…」
シーローン王国のとある貴族の男は、町中を歩く女性を品定めするように見つめる。
そして、権力者の男は、胸からとあるペンダントを取り出して
「本当に、これは凄いなぁ…」
と、赤く光るペンダントを見つめる。
それは数ヶ月前、夢に現れた神様がお告げをして、権力者の男に与えた。
そのペンダントの効果は、どんな人間も自在に洗脳できるという力だ。
心では逆らっても、肉体を簡単に洗脳して思いのままにできるアイテム。
まさに、ゲスな男にとって嬉しい限りだった。
だが、それも終わりが来た。
魔神ラプラスの芽胞である男が、権力者の男の屋敷へ特攻する。
幾人もの手練れがやられて、権力者の男の元へ来た。
権力者の男が
「お前は、オレに従え!」
と、例のアイテムをかざす。
これの効果に誰も逆らえない筈だった。
だが…
復讐者の魔神ラプラスの芽胞は、その手を握りつぶした。
「お前が! お前が!」
と、復讐者の魔神ラプラスの芽胞は、握りつぶした手を粉々にする。
権力者の男は痛みにのたうち回る。そして許しを乞うが、それに意味が無い。
権力者の男は、散々に殴り殺され、最後に首を捻り切って終わった。
血まみれになる現場、その砕けたアイテムの中に何かの生命的な物体があった。
それが一気に増殖して魔神ラプラスの芽胞を包み込む。
復讐者の魔神ラプラスの芽胞は、全身に特別な魔方陣の紋様を明滅させていた。
それによってあらゆる攻撃を防いでいたが、その防壁までも浸食して増殖した存在が包み混んでしまった。
魔神ラプラスの芽胞が肉の塊に包まれてしまう。
その中で魔神ラプラスの芽胞が
「やあ…待っていたよ」
巨大なヒトガミの上半身が出現して、魔神ラプラスの芽胞を握る。
魔神ラプラスの芽胞がヒトガミに浸食される。
「これで、ぼくは、ぼくのまま…この世界に降臨できる。感謝するよ。ラプラス君」
魔神ラプラスの芽胞と、ヒトガミが持つ力によってヒトガミが世界に出現する。
ヒトガミによる、世界の再構築の為に、ヒトガミが降り立つ。
シーローン王国の首都が爆発した。
ーーー
「はははははは!」
それは燃えるシーローン王国の首都を下にして嬌笑していた。
燃える首都の上に紅蓮に燃える獣のような装甲と、背中には幾つもの鎧龍の顎門達、顔は深い闇の兜に隠れて笑う目を口元だけの光しか見えない。
「さあ、全てを滅ぼして、再びぼくの世界を始め直そう!」
と、絶大な力を持つそれは、人界に出現したヒトガミだった。
ただのヒトガミではない、アスラ帝国の首都で起こったサタンヴァルデットの力と、エピオンによってもたらされた力を併せ持った。
今までにない程の史上最強のヒトガミだ。
そこへ戦艦飛空艇の艦隊が迫る。
赤き龍鎧のヒトガミが
「ああ…ルーデウスくん達か…残念」
と、ルーデウス達が乗っているであろう戦艦飛空艇の艦隊へ鎧龍達の顎門を向けて、その口から強烈な閃光を放つ。
天地を呑み込む程の光の柱が戦艦飛空艇の艦隊を包むが…拡散した。
ヒトガミが舌打ちして
「あの小娘(ララ)の力か…」
戦艦飛空艇の甲板では、青ざめるルーデウスを隣にオールステッドがいた。
ルーデウスが
「今の攻撃…マジやばかった…」
オールステッドが厳しい顔で神殺しの神刀を握り
「ルーデウス、お前は…ジークの救出へ向かえ。オレは…ヒトガミを相手にする」
ルーデウスが頷き「ララ!」と告げると、ルーデウスの隣に幻のララが出現して
「パパ、オールステッド様のサポートは任せて」
ララは、アスラ帝国の近くにあるエレメンタルタワーにいて、そこから世界を操作する力で、ヒトガミの一撃からルーデウスを守った。
そして、その戦艦飛空艇の艦隊の中には、ホーリートライアングル達の時空戦艦もあり、それに乗るラプターとリュシュオルが赤き龍鎧のヒトガミを凝視して
「マズいなぁ…アレの力を放出されたら…世界が簡単に潰れるぞ」
と、ラプターが告げる。
ラプターの隣にいるリュシュオルが、同じ時空戦艦にいるディーオ達四人を見る。
「被害を拡大させない為に、アンタ達の力が必要だけど…」
それにディーオは厳しい顔をして
「それは、あのサタンヴァルデットを倒した時のような力も…使うって事ですか?」
リュシュオルが頷き
「出し惜しみしている場合でもないでしょう」
乗り気でないディーオ。
あの力、白き王は…自分の意識がなくなる。何より自分が知らない力だ。その恐怖に、リリアが
「大丈夫よ。何があっても私達がディーオを支えるし、助けるから」
ディーオは、妻達リリアとダリスにエレナを見つめる。
リリアとダリス、エレナは微笑んでいる。
ディーオは頷き
「分かった。リリア、ダリス、エレナを信じる」
そこにララの通信幻が現れ
「君達の先生である私も協力しますよ」
赤き龍鎧のヒトガミの前方の戦艦飛空艇の艦隊から、幾つもの光が飛び出す。
オールステッド、ディーオ達、ラプターとリュシュオル、その配下達の流星だ。
ヒトガミが兜の奥にある光る眼と口元を嘲笑いに変え
「この力を手にしたぼくには、絶対に勝てない!」
向かってくる流星達へ幾つもの攻撃の光を放つ。
夜空に太陽の光が幾つも爆発する。
オールステッドを先陣に、ヒトガミへ攻撃を繰り出す。
オールステッドの神刀がヒトガミの暴虐な攻撃を切り裂き、幾つもの流星達がヒトガミへ切り込むも、ヒトガミが背にする龍鎧の顎門達が応戦する。
そして、ヒトガミと戦う流星達のぶつかりは、爆発の雲を生み出し、シーローン王国の首都の天涯を覆い尽くした。
その下で、ルーデウスは息子のジークがいるシーローン王国の崩壊した王宮に来ると、ジークがとある人物を肩に抱えて出てくる。
「ジーク!」
と、ルーデウスが息子の名前を叫ぶ。
そこには涙に暮れるジークと、ジークが運ぶ負傷したパックス二世がいた。
ジークが「父さん!」と叫び近づき、急いでルーデウスがパックス二世へ治癒の魔法を掛ける。
ジークが泣きながら
「どうして、こんな事に…」
ルーデウスは息子の頭を抱えて
「ジークのせいじゃあない。とにかく、生き残る事を考えよう」
爆発の天涯で戦うヒトガミとオールステッドの軍団。
大声で嘲笑うヒトガミ。
オールステッドが怒りで
「ここで、キサマの因縁に決着をつけてやる!」
ヒトガミが
「無理だよ。ぼくは、今…最強なんだから! この力を見ろ!」
と、龍鎧の腕を上げた瞬間、大地が揺れる。
「ははははは! 最強だ! ぼくは、何よりも強くなった。この世界の始まりの時のように神々を始末する策略をする必要も無い。色んな謀略を練って、駒を使って世界を操作する必要もない! 圧倒的で絶対な、ぼくがココにいる!」
ヒトガミから無数の攻撃の光が放たれるも、その全てをオールステッドの軍団が叩き潰す。
オールステッドの隣にラプターが来て
「おい、どうする? このままだとジリ貧だぞ」
オールステッドが
「まさか…八十年周期で復活する魔神ラプラスの芽胞を苗床に利用するとは…」
リュシュオルが
「この世界の盟主ララ殿」
その隣に通信幻のララが出現して
「なんですか?」
リュシュオルが鋭い顔で
「アレを、私達の全力で焼き払う。その被害を防ぐ為に強大な結界を構築して欲しい」
通信幻のララが
「ダメです。まだ、ヒトガミがこの世界を閉じて操作している力の正体が分かりません。ヒトガミを殺せば、それがどんな結果になるか…」
ラプターが
「エルザルガドと繋がっても分からないのか!」
通信幻のララが
「はい。完全に神の庭、エルザルガドより上位の力です」
ラプターとリュシュオルがディーオを見る。
ディーオがその視線を察して
「つまり、自分の力を…使えって事ですか?」
オールステッドが
「お前達は、どうして…それ程までにディーオの力を過信する?」
ラプターが
「過信じゃあねぇ…知っているからだ。ディーオの力の正体を…」
ディーオが不安な顔で
「オレの力の正体を…ですか…」
リュシュオルが
「後で幾らでも説明してあげるから…お願い」
ディーオが戸惑っていると、通信幻のララが
「ごめんなさい。私と繋がるエルザルガドの力も限界が来ています。ヒトガミの力が強大すぎます」
ディーオは頷き
「分かりました」
攻撃を放つヒトガミへ、ディーオ達が向かう。
「無駄だよ!」
と、ヒトガミは巨大な力の攻撃をディーオ達に放つ。
ディーオ、リリアとダリスにエレナの四人は、双極の指輪によって繋がった瞬間、ディーオの深紅のエピオン装甲が真っ白に染まり、あの白き王が出現する。
白き王のディーオが
「やれやれ」
と、告げてヒトガミの攻撃に手を向けた瞬間、全てのヒトガミの攻撃が霧散して消えた。「キサマぁぁぁぁぁぁぁ!」
と、声を荒げるヒトガミだが、次の瞬間には何かに縛られたように体がすくむ。
「え…ああ…どうして…」
と、混乱するヒトガミ。
白き王のディーオは、右手をヒトガミに向けたまま
「終わりだ」
と、告げる背後から何かの極小の光線回路が伸びて空間に消えている。
それと似たような光線回路が赤き龍鎧のヒトガミの全身を覆っている。
「こんなモノ!!!」
と、ヒトガミは全力で体を覆う光線回路を引きちぎって解放したが
「あ、あああ…」
ガクンと力が入らない。
「まさか…お前も…神の眼の使徒なのか…」
と、白き王のディーオを凝視する。
白き王のディーオは「フン」と嘲笑する。
ヒトガミは怒り狂い
「認めない! あの力は! ぼくだけのモノだぁぁぁぁぁぁ!」
と、胸部の鎧を開き燃えるような赤き結晶を露出させる。
そして、その背後に巨大な機械の柱が出現する。
幻から徐々に実体となる機械の巨柱は、世界を天上の果てまで貫いている。
ヒトガミが、その胸部にある赤き結晶の力を解放して
「ぼくは! 人族を救う英雄だぁぁぁぁぁ!」
と、叫んだ次に機械の巨柱の最上部、世界の空の上にある黄金の光を放つ眼を象ったそれが輝き
「神の眼よ! 我は願い乞う!」
と、告げた瞬間
「お疲れ様」
ヒトガミを背後から貫く赤き装甲の腕があった。
ヒトガミの胸部を背後から真っ直ぐに貫き、その胸部にある赤き結晶を握りしめるエピオンの右腕があった。
赤き龍鎧のヒトガミが振り向き
「な…んで…」
エピオンが笑み
「最初からこれが目的さ」
白き王のディーオが、ディーオに戻り
「ええ…」
と、驚愕を向ける。
自分がそこにいる。自分はここにいるのに、自分がそこにいる。
エピオンの腕に貫かれたヒトガミの赤き龍鎧が腐食するように崩れていく。
そこに現れたのは、黒髪の男だ。
ヒトガミだった男がエピオンに
「お前も裏切るのか…?」
エピオンがヒトガミである男から腕を引き抜き、右手に赤き結晶を握ったまま
「裏切る? お前は…自分の為にありとあらゆる者達を利用して悲劇に落とした。自分の被害者意識に乗っ取られて、世界を弄んだクセに、裏切るとは…お門違いだ」
空で崩れ落ちるヒトガミである男が
「ぼくは…ぼくは…英雄で…ありたかった…」
と、空で粉々になって消えた。
そこにフェイス01が飛んできて
「おやすみ、ジャギア…」
唐突にヒトガミが死んだ事で、騒然となる空の戦場。
オールステッドが、フェイス01とエピオンを凝視して
「キサマ等…何のつもりだ」
エピオンがヒトガミから取り出した赤き結晶を熱消毒して、フェイス01に渡すと
「何のつもりだ? 計画通りさ」
フェイス01が頷き
「そういう事さ。良かったのう龍神オルステッド殿。これで貴君の復讐も終わり、何百にも及ぶループから解放される」
オールステッドの全身から淡い光が放たれる。
オールステッドは感じている。あのヒトガミを殺すまで続く無限ループの力が消失していくのを…。
ディーオがエピオンを見つめて
「どうして…自分がそこに…」
オリジナルであるエピオンが、複製であるディーオを見つめ
「お前は、私のこの世界での複製だ。気付かなかったのか? いや、その前に…気付かせないように精神に介入してある程度の操作はしていたが…」
ディーオが自分の両手を見つめて
「ぼくが、アナタの複製品?」
エピオンが頷き
「よくぞ、ここまで任務を果たしてくれた。これで君は私の干渉から解放され、自由だ。好きに生きるといい」
全体の上に稲光のような轟音が響く。
フェイス01がその音がした空を見上げると
「ああ…彼女か…」
巨大な渦が発生していた。
それは、シーローン王国の首都を覆い尽くす程に巨大で、その渦の中心には赤き球体があった。
その渦から強大な引力が発生する。
その引力によって何かも…引きずり込まれて。
呆然とするディーオにリリアとダリスにエレナが来て
「ディーオ! 逃げよう」
と、ダリスが呼びかける。
だが、ディーオが
「ぼくは、複製…。複製。コピー、ぼくは…オレは…」
エレナが
「しっかりして、今は」
巨大渦の引力にディーオが引っ張られる。
それは、ディーオだけに働き、それ以外は、弾かれるように作用する。
赤い球体をコアとする巨大渦が、フェイス01と機械の巨柱を呑み込む。
それにディーオが呑み込まれる。
リリアとダリスにエレナの三人は、ディーオに抱き付き離れまいとして、一緒に巨大渦に呑み込まれた。
落ちるように巨大渦を通る四人、そこで…再びあの存在を見る。
赤き結晶の体と、その頭頂部に少女を閉じ込めた結晶が…。
ーーー
ディーオが眼を覚ますとそこは、何処かの家の天井だった。
「ここは…」
と、横になっていたベッドから起き上がり窓の外を見ると、屋敷の庭園が見えた。
ドアが開き
「ああ…目が覚めたのね」
と、リリアがいた。
ディーオがリリアを見つめ
「リリア、ここは?」
リリアは難しい顔をして
「その…私にも分からない。ディーオの知恵が必要かもしれないわ」
と、ディーオを屋敷の食堂へ導くと、そこにはアルスとオールステッドがいた。
「オールステッドさん、アルスさん」
と、ディーオが二人に呼びかける。
オールステッドとアルスは顔を見合わせて訝しい顔でディーオを見つめる。
その反応にディーオが
「どうしたんですか? ディーオ・アマルガムですよ。グレイラート騎士団の…」
オールステッドとアルスは、ディーオを外に連れ出すと、屋敷の玄関前にダリスにエレナがいて、空を見上げている。
ダリスとエレナがディーオに気付いて
「良かったディーオ」とエレナが
「心配したよ」とダリスが
ディーオが二人に微笑み
「ああ…心配をかけた」
エレナが
「ねぇ…ディーオ、空を見てみて」
「え?」とディーオは空を見上げた瞬間「え!」と驚きを漏らした。
そこには巨大な結晶を中心に町が円形に並ぶ浮遊島が幾つも空に浮かんでいた。
それはディーオ達の世界になかった存在だ。
驚くディーオにオールステッドが近づき
「私の名前はオルステッド、龍神だ。そして、どうやら…君達は異世界から来た異邦人であるらしい」
ディーオがオルステッドを見つめ
「どういう事ですか?」
それにオルステッドの隣にいるアルスが
「これを…手がかりになるかもしれない」
と、分厚い日記をディーオに渡す。
ディーオは受け取り
「これは…」
アルスが
「ぼくの父、ルーデウス・グレイラットの日記だ」
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