女の子たちの肝試し

みこ

女の子たちの肝試し

 3年生がこの中学を卒業する。そんな春もうららかな日の夜。

 ありきたりなんだけど、この学校とのお別れ記念に、3年生達が大勢で学校の中で肝試しをすることになった。

 暗く、静かな校舎内で、女子が4人、手を取り合いながらこそこそと歩いていく。

 みんな、顔はよく見えないけれど、怖がっているのがわかる。

 あたしだって、怖いのは苦手だ。わざわざ怖がらせるためにこんなイベントをやる気がしれない。特にわーってできるやつ。急に!わーって!


「マ、マ、マキちゃぁん……」

「うわぁっ……、急に話しかけたらびっくりするでしょ」

「そうだよぉ。マキはナナちゃんと違って本当に怖がってるんだから」

「ミヤコ!」

 マキが、ミヤコを睨む。

「私が作ってるみたいに言わないでよぅ」

 ナナもなんだか不満そうだ。

「う〜ん、そうだなぁ。それは作ってる、かなぁ」

「ねえ、トモコちゃんと着いてきてる?全然声聞こえないんだけど」

「いるよ……」

 後ろの方から、こそっとしたトモコの声が聞こえた。

「あっはは。何その声〜。超びびってんじゃん」

「怖いとかじゃなくて!」

 と、トモコは精一杯虚勢を張ったが、それが怖がっていると言わないでなんなのか。ポニーテールの毛先まで、ふるふる震えているじゃないの。

 あたしも、トモコの背中にぴったりとくっついた。べ、別に怖いとかじゃないんだからね?


 工作室を過ぎたあたりで、先頭をきって歩いていたマキがふいに止まった。

 マキにくっつくように歩いていたナナが、トン、とマキの肩にぶつかる。

「音楽室?」

 音楽室って何があったっけ?

 ぼんやりと考えているところで、ナナが口を開いた。

「ここが、目的地?」

「みたいだね」

 二人にくっつくようにしていたミヤコが、雰囲気を作ろうとするように小さな声で囁く。

 トモコがみんなの腕にすがるように、ミヤコに近づく。

 あたしも、何が起こるのかと思うと怖くて、トモコにひっつきっぱなし。あたしがひっついているのが気になるのか、少しだけ眉根を寄せた。

 皆おずおずと音楽室のドアに向かって行ったんだけど、あと1メートル、といったところで皆の足が止まってしまった。もちろんあたしも。

「は、はいら……ないの?」

 皆に声をかけたけど、怖さでどうしても声が震える。

 言うと、ミヤコが一歩、足を踏み出した。

「あ……開ける?」

 マキは、もう帰りたいという顔を隠しもしない。マキのその声を聞いて、ミヤコもドアを開けるのを躊躇してしまう。

「や、やだ。こわい」

 作り声なのか本当なのか、ナナはかわいく怖がっている。

「じゃ、じゃああたしが行こうか……?」

 とあたしが勇ましく足を踏み出そうとしたところで。

 トモコがふいっと後ろの、あたしの方を向いた。

「うあっ……」

 声にならない叫び声っていうのはこういうことを言うのだろうか。

「え?」

 トモコの声に反応して、ミヤコが振り向く。それと同時に、前にいたマキとナナが「どうしたの?」とこちらを向いた。

「ぎゃああああああああ」

 ふいに、4人の叫び声が、夜の校舎に響いた。その声にびっくりしたあたしも「いやあああああああ」と叫ぶ。

 その声にびっくりしたのか、音楽室に待機していた幽霊役の学生が、ドアをガラッと開けて出てきた。

 その音にあたしは腰を抜かし、立ち上がれなくなると、そのまま床を通り抜けて、下の階の廊下まで落ちてしまった。

 上の階では、と、叫ぶ声がここまで聞こえる。

 あたしはというと、その声に驚いてぎゃあぎゃあと泣きわめいてしまった。けどあたしの家はここだし、家族なんていないし、落ち着ける自室なんてものもない。

 だからこんなイベント時に人間を驚かさないといけない地縛霊なんて、やってられないのだ。

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女の子たちの肝試し みこ @mikoto_chan

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