あまり怖くないホラー

夕日ゆうや

写真の彼はどこへ……?

 写真から戌亥いぬいくんが消えた。

「戌亥? 誰だよそいつ」

 神田かんだくんは冷たく言い放つ。

「いや、あのドジで真面目なメガネの奴だよ」

「……そんな奴、このクラスにいたか?」

「さあ? おれは知らないな」

「ぼくは知っているよ。戌亥光太郎くんだよね」

「おお。知っている奴がいたか!」

 佐藤くんが覚えてくれて、俺はひと安心した。

「そうだよ。あいつは今日学校休みか?」

「みたいだね。サボるタイプではないし、な……」

「お前ら誰の話をしているんだよ?」

 さっきから見守っていた菊池きくちくんが、疑問符を浮かべる。

「戌亥くんの話だよ。写真から消えたけど、学校も来ていないし……」

「そんなことよりゲームしようぜ?」

「菊池くんは心配じゃないの?」

「ああ。明日のテストの方が心配だな。な? 神田」

「そうだな。明日のテストに向けて、勉強でもしようぜ?」

「それもそうだな。でも暇つぶしに勉強かよ……」

 勉強を始める一同。なんだかかんだ言って、テストが怖いのだ。

「しかし、戌亥はどこへいったのか。写真からも消えているし……」

「それな! オレも疑問に思っていたよ」

「ボクも」

 相坂あいさかくんと佐藤くんが同意してくれる。一方で……

「戌亥、戌亥ってうっさ」

「そうだな。おれたちには関係ないだろ」

「昨日まで一緒に遊んでいたのに……」

 神田くんと渡利わたりくんの冷たい態度にこめかみを押さえる佐藤くん。

「なあ」

 俺は助け船を出すようにうなずく。


 学校が終わると、帰宅する。

 家に帰ってまた写真を見つめると、佐藤の姿が徐々に消えていっている。

 不安にかられスマホで連絡してみるが、明るい声が返ってくる。

『ぼくは平気だよ。でも写真から消えていっている……』

「このままで大丈夫なのかよ?」

『分からないけど、今日は疲れた。戌亥くん、どうしたんだろ……』

「優しいな。お前は」

『そう言ってくれるのはありがたいけど、なんだか怖いよ』

「そうだな。俺はお前のこと覚えておくから安心しろ」

『うん。ありがと』

 電話を終えると、ちょうど帰ってきた母を出迎える。

「母さん。お帰り」

「ただいま。今日は一段と忙しくて。ごめんね。簡単なものを作るから」

「それなら俺も手伝うよ。母さんは先に着替えてて」

「了解」

 母が着替えている間に、野菜や肉を用意する。

 今日はカレーだ。


 食べ終える頃に父が帰ってくる。

「最近、どうだ?」

「ぼちぼちかな。テストがあって大変だけど」

「そうか。頑張っているな。いいぞ」

 父にそう言われ、なんだかむず痒い気持ちになった。


 次の日、学校へ向かう。

 学校では、佐藤が来ていなかった。

「あいつも休みか?」

「あいつ?」

「いや佐藤。戌亥もだけど」

「誰だよ、そいつ」

「なぁ?」

 相変わらず気にもとめない神田くんと渡利くん。

「オレは大丈夫。オレは大丈夫……」

 ぶつぶつと呟いているのは相坂くんだ。

「おい。どうした? 相坂」

「だって、オレとお前、佐藤だけが戌亥を認識していた。でも消えたのは佐藤だ」

「つまり?」

「つまり、戌亥と佐藤を認識できている奴が消えていっている」

 ゴクリと喉を鳴らす。

「オレとお前だ。次に消えるのは」

「そんなわけないだろ。偶然だ」

「偶然? 偶然でこんなことがあるもんか! 絶対にそうだ。そうに違いない」

 カタカタと震える相坂くん。


 写真をとりだすと、俺の姿が消えていた。

「ははは。まさかな」

 俺は母と料理を作り、父を迎え入れた。

 ここまで何も起きていない。問題ない。

 何を怖がっていたのか。消えていくわけなどない。


 チュンチュンと鳥のさえずりを聞き、目をさます。

「やべ! 遅刻だ!」

 色々と考えて寝る時間が遅れたのが原因だ。がらにもなく消えているんじゃないか、と心配したが問題ないらしい。

 でも遅刻は遅刻だ。

「母ちゃん、ごめん! 朝食はなしだ!」

 急いで身支度を調えると、玄関に向かう。

「父ちゃん、ネクタイ曲がっているぞ」

 俺はふたりに話しかけると、急いで学校へ向かう。

 ふたりの反応がないのを気にせずに……。


「おはよ」

「……」

「いやー、久々に遅刻しそうになったよ」

 自席に戻りつつ、神田くんに言う俺。

「どうして黙っているんだよ? な? 渡利くん」

「……」

 渡利くんに投げかけるが、返事はない。


「あ。俺、消えたんだ……」


 誰からも認知されない存在となってしまったのだ。

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あまり怖くないホラー 夕日ゆうや @PT03wing

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