インフレの彼方

水色の山葵/ズイ

第1話


 草一つ生えていない灰色の大地。

 綺麗な円を描く島の中心。

 そこで男と男は対峙する。


 一方はジャージ姿の気だるげな男。

 方や白銀に輝く立派な鎧を身に纏う騎士。

 魔王と勇者。善と悪。表と裏。

 見事に正反対な彼らの前に、もはや議論の余地はなく、そんな時間はとうの昔に過ぎていた。


 走りだす二つの影。

 100m以上あったはずの間合は1秒と掛からずに詰められた。

 勇者の光速への加速

 魔王の時間の支配

 この二つの能力は、偶然にも全く同じ結果を生み出していた。


 次に目に映った光景は、2人の男が鍔ぜり合う姿。

 鞘から抜かれ、鏡の様に研ぎ澄まされた勇者の剣。

 異界より呼び出され、漆黒に染め上げられた剣。

 魔の剣には、腐敗

 支配

 混沌

 消滅

 漆黒

 忘却、と言った即死級の付与効果があるが。

 聖なる剣に宿る、

 不浄

 の効果によって全て無効化されている。


 鍔迫り合いを制したのは腕力でも魔力でも無かった。

 魔王が魔王と呼ばれる所以を見せた。

 古典的攻撃法奥義__頭突き

 弱み泣き処欠点足下難点傷跡弱点搦手短所鬼門、その全てを見逃さない男。

 それこそ魔王である。

 騎士の頂点である聖騎士(パラディン)のまとめ役である勇者(ブレイバー)はもろにそれを受けた。

 勇者とて盗賊や犯罪者に同じように頭突きを受けた事はあっただろう。

 だが、それを勇者が身に宿す圧倒的な反射神経と速度(アジリティ)で躱してきた。

 時間の支配によって同等の速度を有する存在にそんな攻撃を使われた事は一度として無い。

 それを知っていたかは関係なく、今残る事実は勇者に圧倒的な隙が出来たという事実だけ。

 そこを見逃す魔王ではない。


 笑みを浮かべた魔王はそのまま勇者の足を踏みつける。

 それによって倒れる事すらも敵わなくなった。

 勇者に魔王の一刀が放たれる。


 黒衣 アンチバリア アンチマジックバリア 邪神の加護 超加速 限界突破(リミットアウト) __|絶剣技(アブソリュート・ソードスキル)・一刀破壊


 限界を超えた絶対の剣技。

 それは惑星上に現存する全ての法則を外れ、唯勇者を滅ぼす為だけに放たれた。

 この剣技には、この剣技以外の全てから干渉されないという特殊能力が備わっている。


 だが、先に述べた通り今現在の勇者と魔王の力量は拮抗している。

 当然それは速度に関してだけの話ではない。

 つまるところ勇者も使用出来たのだ。


 龍気 マジックディストラクション 惑星の加護 光速 限界破壊(リミットブレイク) __|絶剣技(アブソリュート・ソードスキル)・一刀破滅


 バランスを崩し、視界も奪われていた勇者は直感と経験だけで相手の攻撃が何処にあり、それがどんな攻撃なのかを把握する。

 踏み潰されていない方の足で地面を踏みしめる。

 右手に持った聖なる剣で魔王の攻撃を受け止める。

 それは込められた速度が、魔王の超加速よりも勇者の光速の方が早いかったから出来たと言える。

 もしも超加速では無く、時間の支配だったなら受け止める事は出来なかったかもしれない。

 だがそれは、かもしれない話でしかなく、戦闘の最中にそんな無駄な思考をしている余裕はない。


 二つの強力な剣技がぶつかり合う。

 才能(アビリティ)と技術(スキル)と感覚(センス)によって作られた強力無比な剣技は小島に破壊の衝撃をまき散らす。

 内包されたエネルギーは一方だけでも原子炉を優に超える。

 そんなエネルギー同しがぶつかり合えば、果ての無い大爆発が起こるのは自然だった。

 島は跡形も残さずに消滅したのである。

 衝撃によって吹き飛ばされた2人だが、自らの放った技の余波で滅びる訳もない。


 世界中を文字通り激震させた今の一撃も、双方にとって戦闘場所を地上から空中に変える程度の意味しかない。


 煙が収まる頃、上空300m付近に二つの影はあった。

 小手調べは終わり、そんな空気が漂ってくる。

 コツッ。爆発によって上空に弾き飛ばされ粉々になった石の一つが、運よく海面から顔をだせている爆発の中心点の地面にぶつかった。


 その音を開戦の合図としたように2人は動き始める。


 先ほどのような突進はもうない。

 足場がない空中では、踏ん張りがきかず剣技の威力が大幅に減少するためだ。

 その上で二人が選んだ戦闘方法は__魔法である。


 勇者が剣先を真上に向けると、そこには超巨大な赤色の魔法陣が出現していた。

 戦略級魔導士が100人いてもこんな大きさの魔法陣は描けないだろう。

 勇者渾身の極大魔法であり、更に恐ろしいのはそれを無詠唱(ノータイム)で発動できるスピードである。


 だが魔王の魔の字も飾りではない。

 魔法の王とも呼ばれる所以を見せつけるべく魔法陣を展開する。

 勇者に向けて出現した赤色の魔法陣。その数1000。

 サイズは勇者に及ばないも、一つ一つがフル装備の聖騎士を殺せるだけの威力を誇っている。


 魔法発動は同じタイミングだった。


 極大魔法__

 極多魔法__


 __ファイヤーボール!!



 極大の火球と千の火球がぶつかり合う。

 魔法を唱える者が最初に学ぶ魔法であり、その性能は魔導士としての力量に直結するとさえ言われている。

 奇しくも全く別の変化を遂げた最下級魔法。

 けれど、世界を壊せる実力を持つ二人が発動した魔法が単に大きい訳もなく、単に数が多い訳もない。


 超貫通 超加速 不滅 太陽神の加護 暴走 完全制御 聖なる光 浄化 


 超貫通 超加速 不滅 不死鳥の付与 支配 精密回路 魔なる闇 消滅


 威力 5000%上昇 780%上昇

 速度 1200%上昇 2500%上昇

 操作 300%上昇  700%上昇

 貫通 1500%上昇 500%上昇 

 耐久 インフィニティ インフィニティ

 温度 100万度   10万度

 個数 1       1000

 範囲 5000%上昇 200%上昇

 属性 炎+神聖    炎+暗黒


 数値(データ)化するとこのような魔法だろうか。

 因みに、国家の抱える最高の魔導士が放つ魔法と比較していると言えば異常さが解るだろうか。

 もはやこの2人に生物としての通常を理解させる事は不可能だろう。


 速度で優る魔王の火球は勇者の巨大な火球を避け、勇者に突撃する。

 聖騎士を軽く焼き殺す威力が込められた攻撃。

 だが、2人にとっては所詮その程度でしかない。

 勇者は被弾しても大してダメージを受けないだろう。

 脅威となるのはその数だけだ。


 音速と同等の速度の火球だが、勇者は見切りで捌く。 

 固有スキル・究極感覚(アルティメットセンス)


 しかし、魔王もそんな事は百も承知だった。

 狙いは別だ。

 見切りに集中したせいで疎かになった火球のコントロール。

 魔王はそれを奪い取った。

 魔王の異能・絶対支配(パーフェクトスティール)


 炎属性に加えて神聖属性を宿していた極大魔法・火球は暗黒属性をそれに加え進行方向を勇者に変更した。








 勇者は不敵に笑った。

 それは敗北を認めた笑み等ではない。

 ここに来てようやく両者は口を開いたのだ。


「遊びは終わりだ魔王」

「いいぜ。来いよ勇者」



「「ラグナロク!!」」


 その言葉を2人が発した瞬間、火球が空中で爆発した。

 何のことはない。ただ2人の魔力(エネルギー)によって火球の存在が否定されただけの話。

 神々の遊戯、代理戦争とでも言えようか。

 これから行使するのは神の札である。


「|雷と天空の剣(ゼウス)」

「|雷と神速の剣(タケミカズチ)」


「|月光の鎧(セレネ)」

「|月光の鎧(ツクヨミ)」


 勇者は|雷と天空の剣(ゼウス)を縦に振るう。

 魔王は|雷と神速の剣(タケミカズチ)を横に振るう。


 神速の斬撃は同等の斬撃により消滅する。

 けれどその余波は海面に直撃した。

 圧倒的な電磁波によって水は蒸発していく。

 海底が顔を出すほどに干上がった。

 世界中の海のかさが一センチほど減ってしまったが、そんな事を考える余裕は2人にはない。

 過剰な攻撃力をもった敵に対して1つのミスが死に直結する状況だ。

 余裕など有るはずがない。


 神の一撃は単発スキルは一回の戦闘では一度しか使用できない。

 その法則(ルール)にのっとり二つの剣は消滅した。


「生命反転(タナトス)」

「生命交替(マガツヒ)」


 霧の様に勇者から這い出て来た物は、1粒吸い込むだけで即死する呪いの霧。

 底が見えないような暗黒の流動体は、接触した瞬間に死を迎えるデットスライムだ。

 これは最上位の法則であり、神の能力を宿さないあらゆる能力や武具は無効化される。


 正面からぶつかり合う霧と流動物だったが、どちらもどちらもを即死消滅させるため決着はまるでつかない。

 ぶつかった傍から消えていくのだ。


「クソが。お前幾つ神を宿してやがる」

「お前こそ。魔王の癖に光る剣とか使ってんじゃねえ」

「お前だって生命反転(タナトス)とか言うどう考えても悪役スキル使ってんじゃねーか」

「うっせえ馬鹿野郎!!」


 この2人、神々の対戦を再現しておきながら、口は小学生並みである。


「「神格化!!」」


 やけくそ気味に二人は人としての|強さ(グレード)を上昇させる。

 思考加速 光速演算 分裂思考 高速処理 未来予測 反射神経強化 即時回復 不滅 不死身 制限(リミッター)解除 疲労無効

 これが通常の神格化の能力である。

 だが、彼らが通常であるはずも無い。


 それに加え勇者は、

 疾風迅雷(インドラ) 神眼(ホルス) 無限回路(クロノス)

 を得ていた。


 魔王の方も、

 変幻自在(シヴァ) 神速(イザナミ) |太陽の権能(アマテラス)

 を得ている。


 やはり能力の幅は互角と言っていい。

 神速(イザナミ)を得た魔王は走る、それは軽く光速を越えていて、世界が止まっているという錯覚まで覚える程だ。

 勇者はそれに反応した。

 神眼(ホルス)も伊達ではない。

 疾風迅雷(インドラ)によって、魔王の思考速度を上回っている勇者だからこそ反応できたと言えよう。

 思考加速 光速演算 分裂思考 高速処理 未来予測 反射神経強化は疾風迅雷(インドラ)の効果によって数倍の性能となっていた。


 唐突に世界が止まる。

 2人の戦闘速度が光を上回った事によって2人以外の時間は停止した。

 停止した時間の中では、波動系の攻撃は無意味。

 接触して直に能力を叩き込む他無い。

 勇者魔王共にそれを理解した。


「行くぜクソ勇者!」

「黙ってやられてろクソ魔王!」


 音も波動な為、停止空間では機能しない筈なのだが、やはりこの2人には物理法則すらも文句は言えないらしい。


 そこからはスキルによる殴り合いである。

 神の異能が尽きるまでスキルをぶちかまし合う。


「|純潔の矢(アルテミス)!」

「|炎神の怒り(カグツチ)!」


 無限回路(クロノス)によって神力を授かり、肥大化した矢と、|太陽の権能(アマテラス)によって太陽の加護を得た火柱が衝突する。

 結果は対消滅。

 その後も神々の権能をありがたみも無くぶっ放す2人だが、実力も力(エネルギー)量も拮抗している2人ではあと一歩決め手に欠ける。



 地形は変わり、海は割れ、空は隠れた。

 そんな光景を嘆く者達が居た。

 唐突に光の柱が出現し、一組の男女が現れた。


 それを見ても戦闘を継続しようとする勇者と魔王に男女は声を掛けた。


「そのへんにしておけ2人とも」

「そうじゃ。もう少しで妾の世界を壊すところだったのだぞ」


 一時的に停止した時間が元に戻った。

 現れた男女を紹介しておこう。

 この世界の最上位に位置する神である。

 だが、そんな2柱を見て苛立ちすら隠さない表情の男が2人。

 当然勇者と魔王である。


「うっせんだよ、神王(ゼウス)。今いいとこなんだから邪魔すんな」

「そうだぜ、神姫(アマテラス)。邪魔するってんならお前らを先に相手してやる」


 その言葉を聞いてポカンとなったのは神の方だ。

 今までの人間とは確実に違う。

 自分たちの加護を得ている時点で、それは自分たちの配下を意味するのだ。

 その配下にこんな態度を取られては神とて怒りは抑えられない。

 だからこそ、勇者と魔王の言葉を一瞬理解できなかった。


「よかろう勇者。お主がそのつもりなら一度我らの恐怖を知らしめてやる」

「魔王、貴様もだ。妾に楯突いた事、絶対に後悔させてやるからな」


 加護を与えられた人間であるはずの2人は与える側である神に楯突いた。

 それは神界でも許される事ではない。

 ただ、神王と神姫が2人を気にいっているから消滅という言葉が出て来ていないに過ぎない。

 だが、2人の意識は共通していた。

 理由は分からない。

 しかし、目の前の神に負ける気がしなかった。


「四神結界(スザク・ビャッコ・セイリュウ・ゲンブ)!」

「時空結界(ノルン)!」


 二柱の神によって完全に外界から確立された世界が構成される。

 だが、それは世界干渉の部類に入る権能なのだが、どうやらそれをこの神々は勇者と魔王という個人にぶっ放そうとしているようだ。

 神格などではない、永久的な神を相手にしてなす術が有るはずも無く、簡単に二人は捕らわれてしまった。

 指一本動かせない。


 それに神王と神姫は最高の神である前に本物の神である。

 要するに神の名を冠するスキルは一度の戦闘に一回までと言った制限は存在しない。

 マジチトである。


「無様よな勇者。そのまま1000年ほど頭を冷やすがいい」

「妾に楯突くからこうなるじゃ魔王」


 そんな捨て台詞を残してその場を去ろうとした刹那。

 2柱の神は圧倒的なまでの威圧感を覚えた。

 紛れもなくそれは封印され、眉1つ動かせない筈の勇者と魔王から感じた物だった。


「絶対支配(パーフェクトスティール)」

「究極感覚(アルティメットセンス)」


「なっ!! 何故停止した時間の中でスキルを行使できる!?」

「だが所詮、神級(ゴッズ)のスキルでなければ我らのスキルを破る事は不可能じゃ」







 少し昔話をしよう。

 勇者と魔王は同じ村で生まれた。

 2人は所謂天才と呼ばれる部類で、2人とも生まれながらにして異能をその身に宿していた。

 奇跡的としか言いようは無いが、偶然という奴は存在するようで2人の持つ異能は同じ物だった。

 技能混合(スキル・フュージョン)という固有スキルだ。

 そして2人はたゆまぬ努力と見に宿した才能(アビリティ)によって様々なスキルを獲得、進化させていった。

 始まりは同じだった。

 では、終わりはどうか?

 一見すれば魔王と勇者という真逆の道を歩んでいるようにも見えた……

 おっと、筆者が語るのはここまでにしておこう、どうやら2人が動き出したようだ。







 2人は叫ぶ。

 声は出ない。

 けれど、叫ぶことは止めない。

 唯、自分たちの意思を意義を貫くために。

 技能混合(スキル・フュージョン)はあらゆるスキルを合成し、新たなスキルを創造する能力だ。

 だが、神級のスキルはそれ以下のスキルには干渉されないという絶対能力を有している為に合成できなかった。


 実を言うと彼らは生まれた時スキルを二つ保有していた。

 直感と使役。

 絶対支配(パーフェクトスティール)と究極感覚(アルティメットセンス)はその成れの果てなのだ。

 そしてこの二つは神級のスキルでは無い。

 つまり合成可能な訳だが。

 だが、そのスキルを合成して神級スキルが新たに手に入ったとしても神の王者たちには意味は無いだろう。

 だから彼らは原初にして最後のスキルである技能混合(スキル・フュージョン)を素材にする事を決心した。


 勇者・固有神級スキル 原点(アルファ)

 魔王・固有神級スキル 終点(オメガ)


 2人は与えられる側では無く、与える側へと覚醒した。


 結界に亀裂が生じる。

 原点(アルファ)、終点(オメガ)ともに共通している能力、神格合成によって今までの神級のスキルは合成できないという制限が解除されていた。


「|あらゆる悪の根源(アジ・ダハーカ)」

「|滅びの化身(シャー・ナーメ)」


 有翼の龍蛇と闇を纏う人の姿をした化身が現れた。

 |あらゆる悪の根源(アジ・ダハーカ)は蛇の頭を三つ持ち天空を覆いつくすような翼を持つ龍だ。

 |滅びの化身(シャー・ナーメ)は人の姿をしているが方から普通のサイズの蛇が出て動いている。

 二つは同一の存在とされている。

 その違いは敷いてあげれば時代だろうか。

 生まれは龍、死亡時は人なのだ。

 だが、結局は同様の存在である。


「おい神王(ゼウス)。まだやるつもりか?」

「神姫(アマテラス)、謝るんなら許してやってもいいぞ?」


「「貴様ら……」」


 怒り狂う神の王者たち。

 勇者も魔王もそれに怯む事は無く、メンチを切っている。


「来い!|あらゆる悪の根源(アジ・ダハーカ)」

「来い!|滅びの化身(シャー・ナーメ)」


 息ピッタリな2人である。

 そして呼び寄せた龍と化身の頭を2人はガッチリと掴んだ。


「「絶対支配(パーフェクトスティール)」」


 これも原点(アルファ)と終点(オメガ)の能力の一部であるため、当然の様に神という存在にも有効である。

 彼らはオリジナルの神級スキルを創造した事によって神の資格を得ている。

 永久的神格化状態であり、神級スキルの制限も消失している。

 彼らは神を能力によって呼び出し、その能力を支配した。

 絶対支配(パーフェクトスティール)は元々支配下の能力を奪う効果が有るのだが、原点(アルファ)と終点(オメガ)になった事によって、当然その能力も神に有効である。


 原点(アルファ)

 それに含まれる能力は、

 永続神化 神界領域 絶対支配(パーフェクトスティール) 究極感覚(アルティメットセンス) 技能混合(スキル・フュージョン) 時間支配 |原点の権能(ニワトリ・オーソリティ) 鶏召喚

 である。

 

 終点(オメガ)についても殆ど同様と言える。

 永続神化 神界領域 絶対支配(パーフェクトスティール) 究極感覚(アルティメットセンス) 技能混合(スキル・フュージョン) 空間支配 |終点の権能(タマゴ・オーソリティ) 卵召喚



 権能とは、言葉遊びに近い性能と言えるだろう。

 それに関連性があれば結びつけるだけでそれを現象化、能力化する事が出来る。

 つまり、彼らは進化論や因果律、更には世界の創造さえも司っているという事だ。


「神に覚醒したからと調子に乗るのも大概にしろ」

「妾達はそれを纏める王であると知れ」


 神々は自らの権能を発動する。

 勇者を魔王に貸し与えている加護という劣化では無く、神の根源の能力だ。


「|太陽の権能(サン・オーソリティ)」

「|稲妻の権能(ライトニング・オーソリティ)」


 圧倒的な熱量物質が突如として出現する。

 言葉にするとすれば小さな太陽といったところか。

 それによく見れば神王の方も何やら体中から放電している。

 神眼(ホルス)を使っている勇者は理解できているだろう、ゼウスが本気になれば世界を数日で滅ぼせる事を。

 しかし勇者は魔王と共に拍子抜けしていた。

 まさか、神の王が自らの権能を使いこなせても居ないとは。


「「参ったな。この程度なのか?」」


 ぽつりと出た言葉だった。

 意識したわけでは無い。自然と、出てしまったと言うのが正しいだろうか。

 それでも口にした言葉が取り消せるわけもない。


 2柱の神の怒りは頂点に達していた。


 だが、勇者と魔王の感じた喪失感も大概の物だろう。

 太陽と稲妻の権能で、小太陽と雷を召喚する。

 そんな物は2人の能力で卵や鶏を召喚するのと同等な事。

 権能は、理論や伝承を深く理解してこそ意味が有るのだ。

 まあ、当人にそれを理解しろと言うのは酷かもしれないが。

 それは最弱の使い方に他ならない。


「「俺達が力の使い方ってもんを教えてやるよ」」


 そう言ってスキルを発動させた。

 原点(アルファ)__|創造の破壊(ビックバン)

 終点(オメガ)__|破壊の創造(スーパーノヴァ)


 世界の原点と惑星の終点。

 もしかしたらその二つの爆発は同質の物なのかもしれない。

 だが、人類がその答えにたどり着く事は無いだろう。

 信仰を無くせば神は死ぬ。

 だから、二つの爆発は同質という考えが残り続ける限り、それは神にとって現実で真実で存在なのだ。


 二つの巨大な爆発は、一撃で惑星を消滅させる威力を持っている。

 まあ今回は、神界領域という名の超結界に守られているので大した被害にはならないだろう。

 神界領域の効果によって結界の内部で起こったあらゆる現象は外に影響を及ぼさなくなる。


 大爆発をモロに食らった二柱の神だったが、星を破壊できる一撃でも完全消滅までは無理らしい。


「こんかは儂の負けって事にしておいてやるわい!」

「今度会ったら憶えとけよー!」


 そんな言葉を残して神王神姫は去って行った。

 |光に吸い込まれる(キャトルミューティレーション)ように逃げ帰る姿はかなりシュールであったと記載しよう。




 難が去って行った成果、2人の身体から急速に力が抜けていく。

 ボール状の結界内部にあおむけに倒れる2人。

 神に目覚めたばかりで能力の制御も出来ていなかった。

 両者共に気力も魔力も神力も限界であった。


「なあ魔王。俺達ってなんで戦ってたんだっけ?」

「何言ってんだ。テメエが頑固野郎なせいだろ」

「うっせえ。もとはと言えばお前が魔物の王なんかになっちまうから」

「仕方ねえだろ。ほっとけなかったんだから」

「それがなけりゃ今頃俺達億万長者だっただろうに」

「勇者様は今でもそうだろ?」

「いや実際そうでもないぜ? 仕事ばっかだし」

「なら俺の国に来いよ。どうせ俺達二人が組んだらこの世界の誰だって敵じゃねんだから」

「勇者である俺が魔物の国へってか? 無理だよ」

「なんでだよ?」

「大切な物を置いてきた。それに人間を見捨てる訳にもいなねえだろ」

「だったら全部救えよ。大切な物なんてもってくりゃいいだろ。人間が好きなら、お前がそう言うなら誰も冷遇したりしねえ」

「そうだな。これだけやり合ってもどっちが正しいか一欠片も解らねえしな」

「ああ、それに次は世界が滅びるぜ?」

「人間を救いたくて世界を滅ぼすなんて、アホだよな」

「ああ、そりゃアホだ」

「まあでも次は俺が勝つけどな」

「抜かせ。馬鹿野郎」


 勇者は上半身だけ起き上がると、魔王に拳を突き出した。

 その眼はまっすぐと魔王を捕らえている。

 それだけで魔王は勇者の言わんとする事を悟。

 勇者の拳に自分の拳を当てる。


「「今も昔も俺達は友達なんだよな」」


 勇者と魔王の戦いはここに幕を閉じた。

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