第一章 ~公園の死神~

第一章-1

 僕こと茨扇空夜がまだ小学生だった頃、日本はかなりの勢いで人口減少に悩んでいたらしい。らしい、と言うのは、何せ僕は物を知らない未熟な小学生だったので。人口減少なんか感じた事も無かったし、問題と思った事も無かった。そんな日本のピンチよりも、正義の味方のピンチの方がよっぽど興味があったと思う。

 そんなノンキな僕がアニメや特撮に夢中になっている裏では、ニュースで連日連夜の法律改正が話題になっていた。

 単純に言うと、結婚できる年齢が引き下げられた。

 男女共に十歳まで。

 はっきり言おう。馬鹿じゃないのか、と。愚策以外の何物でもないと。まだまだ未熟で成人を迎える手前の大学生でさえ分かる。ニュースやワイドショーで騒がれるのは当たり前だ。結婚できる年齢を下げたところで、人口が増える訳がない。本当に政治家っていうのは訳の分からない知識と知恵で動いてるんだな、とさえ思える。

 まぁ、実際は二人目以上の子供に対する厚い援助金や養育費の負担、教育面や医療に渡るまで色々な法律や地域の条例が決定したらしいけど。それよりもインパクトがある結婚年齢の十歳まで引き下げをするという言葉が、当時のニュースや新聞に踊り狂っていた。しまいには『ロリコン政府』というレッテルまで貼られて、マスコミがせせら笑っていた気もする。


「ねぇ、お母さん。ろりこんって何?」


 と、母親に聞いた記憶があるのだが、返ってきた言葉を覚えていない。残念な様な、良かった様な、そんな複雑な思いだ。十九歳になった今では十二分に理解している。

 ロリータコンプレックスに、ショウタローコンプレックス。ロリータは有名な映画のヒロインから由来している事は明白だが、ショタコンの『ショタ』がまさか某鉄人の二十八号ロボットの主人公からきている事は知らなかった。インターネットは便利だなぁ。

 まぁ、そういう訳で、いくら法律での問題が無くなったとはいえ、世間の白い目が無くなる訳ではなかった。やはり性的倒錯として捉えられており、変態と変人のレッテルを貼られる事は間違いない。

 そうやってロリコンやショタコンと騒がれる世の中ではあるのだが、実際、若くして結婚する者はいるそうだ。中学生同士の結婚や高校生同士の第一号結婚などはマスコミの格好のネタにされたみたいで、程なくしてこの夫婦は離婚している。世間から奇異の目で見られるという事は、やっぱり厳しいと思う。普通の生き方ではないし、普通の人生とは懸け離れたものになるだろう。

 でも、普通って何だ。と、僕は思う。今まで普通では無かったが、結婚できる年齢が十歳という現実を受け止めれば、これが普通となるはずだ。変化を受け入れられない、対応できない、そんな馬鹿共が騒いでるだけなんじゃないのか。そう思って、大学の友人に話した事がある。


「だからお前は『根源殺し(オルタナティブ・ブレイカー)』なんや」


 二者択一を迫り、そしてゼロとイチを決めてしまう僕の思考経路を、友人はこう評価する。まぁ、中二病がこじれているのは彼本人も自覚しているから、何も言う事はないんだけど。遠くからその名前で呼ぶには、さすがに遠慮して欲しい。


「おーい、オルタナティブ・ブレイカー!」


 大学の食堂に響いたその言葉に、僕が受けた辱めは忘れたくとも忘れられるものでは無い。その時の昼食代を奢らせたのは言うまでもなく、今後一切として人の賑わう所での呼称を禁止させた。ときどき破りやがるけれど。

 まぁ、とにかくそういう訳で、日本という国は十歳から結婚が出来る。周りの批判はあれど、それが当人達の選んだ道であって、決して興味本位ではない事を理解して欲しい。少なくとも、僕には……僕達には、結婚するだけの理由がある。


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