第2話 高校入学②
「――予知夢を見ても『命に関る事象以外は干渉しない』でしょ?」
幸太は俺が答えるよりも早く、分かりきっているかのように言い切った。
「前にも言ったけど、透夜のやり方に俺はもちろん何も言わないよ。それが透夜のやり方だからね」
そういう幸太からは本当に不満があるようには見えなかった。
「じゃあ何が言いたかったんだよ。覗き見までして」
「いや、なんで落とした時に声かけてあげなかったのかなって。それに覗いてなんかいないよ。後ろから見てた」
一言多い。
幸太はたまにこういうところがあるんだよな……。
「ほらこれ見ろよ」
俺は拾ったハンカチの刺繍を見せた。
「神楽坂家の人間だぞ? 俺が関わったら地雷踏むだろ……」
「ありゃー……よりによって透夜が関わったらいけない一家だね。てっきりコミュ障が発揮して声かけられなかったのかと思ったよ」
本当に一言多い。
「てか、そうか。神楽坂家はこっちの地域に住んでいるもんね。でも、まさか同じ学校だとは思わなかったね」
――神楽坂……。
一応名家と言われている俺の家名でもある浅影家は古くからこの地域で牛耳っている神楽坂家と対立関係にあり、その風習は今も続き仲が悪い。
神楽坂家は現在この学校もある神乃宮市で一番大きい病院の院長をしており、経営している。
まぁ現在俺は家から縁を切られたからこっちに来た訳だけど、無駄なヘイトを買いたくないなぁ……。
「まぁ俺は親から縁を切られたから、家の人間ではないし大丈夫だろ」
「だめでしょそれ……というか、誤魔化しても意味ないからね? 刺繍を見たときにはもう神楽坂さんはいなかっただろ」
「……」
こいつ、そこまで見てたのか。さすがにここまで詰められるとは思っていなかったけど、幸太は結構鋭いときがあるんだよな……。
俺は深くため息をついた。
「……声掛けようとしたときには、もう廊下曲がって姿が見えなかったんだよ……」
「なるほどね。じゃあコミュ障認定ってことでい?」
いつもより棘のあるような言い方な気がする。
誤魔化すようなことでもないけど、なんとなく声を掛けなかった理由は言いたくなかった。
なんて言い返そうか悩んだまま、黙っているとこちらを見つめていた先に幸太が口を開いた。
「ま、別にそこが特別気になるわけではないけどさ。……俺的にはただのコミュ障であってほしいね」
「どういうことだそれ……」
なんとなく嫌なところを突かれた感覚に陥った気がする。
とりあえずさ、と幸太。
「そのハンカチ、職員室にでも届ければいいのか?」
俺が顔にでていたのか分からないが、さっきまでとは違い笑顔で話しを切り出した。表情に出てたのなら反省だな。以後気を付けよう……。
「そうだな……」
そのまま俺たちは職員室に向かうことにした。
さっきの神楽坂がハンカチを落としたことに気が付くかもしれないし、足早に向かうことにした。
「失礼しまーす」
とんとんと、ドアをノックして軽快に入っていく幸太の後に俺は続いた。
中学とは違い、要件のある先生の机のもとへ向かうらしいけれど、落とし物を届ける場合はどうすればいいのだろうか。
悩んでいるうちに幸太が一番近くの職員用の机でコーヒーを飲んでいた教師に声をかけていた。
胸元に佐伯と書いてあるプレートを付けた教師はこちらに気づくとマグカップを下ろしながら答えた。
「すみません。 落とし物を拾ったんですけどこれどうすればいいんですか?」
言いながら幸太はハンカチを渡した。
「おや? わざわざありがとうね」
50代ぐらいだろうか?中年というべきなのか?
白髪交じりで若干おなかが出ているのが特徴的だ。
眼鏡をかけている奥の瞳が、俺の方にも目線を向けてきたので軽く会釈だけしておこう。
「一応、君たちの名前を聞いといてもいいかい?」
ニコニコと優しそうな眼をする佐伯先生に幸太はすんなりと答えた
「俺は佐上幸太っす。んで、こっちは――」
幸太が俺の紹介を入れようとする前にすかさず名乗り出ることにした。
別にさっき幸太からコミュ障疑惑をかけられたことを気にしているわけでは決してない。 ……決して。
「自分は、浅影透夜と言います」
佐伯先生は机の引き出しからペンを取り出し、メモ帳に二人の名前を書き始めた。
「そうかいそうかい。落とし物を届けるときはリストを提出するのだけど、一緒に届け人の名前も書かないといけないから私が書いておこうか」
「んーそれじゃあお願いします」
「そうかいそうかい」
ニコニコと優しそうな笑顔に見ているこちらも和む。
「じゃあ、このハンカチを渡しておきますね」
幸太はそう言って綺麗に折りたたんだハンカチを両手で渡した。
「ここに一応、神楽坂って名前の刺繍があるんすよねー……」
一瞬佐伯の表情が強張った気がした。
「そうかいそうかい……珍しい苗字だしねぇ来たらすぐに分かるね」
幸太もその一瞬の違和感に気づいたが分からないが、さっきまでとは向けている視線の温度が違う気がする。
「それじゃ、俺らこのまま部活見学行くんでー」
「そうかいそうかい。一応私が顧問をしているミステリー研究部にも顔を出してみたらどうだい? この時間なら部室に誰かいるだろうから第二校舎の四階に行ってみるといい」
「そうっすか! ちょうど第二校舎行こうとしてたんで覗いてみますね」
俺らはそのまま職員室を出ると今度こそ、部活を見学に行くことにした。
「幸太。なんかおかしくなかったか?」
「あの佐伯とか言った先生のことでしょ?それは俺も思った」
やはり幸太も気づいていたのか。
神楽坂という名前を出したときの反応は一瞬だけれど、明らかに違和感があった。
「そうかいそうかい、が明らかに多かったよな? 俺、若干笑いそうになったぜ?」
俺が馬鹿だった。変なときには鋭いくせにこういうときにはその能力は何も生かされないんだった。
「お前、馬鹿だな……」
「え!? なんで!?」
俺だけが馬鹿なのも癪だしな……。
そう言って俺たちは本来の目的地である第二校舎に向かった。
あ、そういえば結局自販機で飲み物買えなかったな……イチゴミルク飲みたかったのに……。
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