義妹に『醜悪な野獣』と言われる『辺境伯様』への嫁入りを押し付けられました。真実の姿を知ってから代わってくれと言われても、もう遅いです！

【義妹ＳＩＤＥ】魔女の家を訪れる

「はぁ……はぁ……はぁ……つ、疲れましたわ！　お母さま！」

「そ、そうね。疲れたわね！　けどもうすぐよ！　もうすぐ魔女の家があるらしいわよ！」

　二人は険しい山道を登っていく。人気のない山道。山は大変危険な場所である。人っ子一人いない。魔女が住んでいるという噂が余計に山から人を遠ざける。

「も、もう限界ですわ！　お母さま！」

　ろくに苦労をしていない。家事も雑事も使用人任せであったガーベラは基礎体力が低い。体を今までろくに使ってこなかったのだ。

　山道を歩くことなど苦行以外の何ものでもない。こんな事で今まで楽してきたツケを払う事になるとはガーベラは思ってもいなかったのだ。

「そ、そうね！　す、少し休憩しましょうか！　ガーベラ」

　それは母ローズも同じであった。彼女も使用人任せでろくな労働をしてこなかった。親子ともども、運動や労働が大の苦手なのだ。

　二人は木陰で休み始める。

　その時であった。

「「「「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ！」」」」

「ひ、ひいっ！　お母さま！　なんですかこの音は！」

　ガーベラは飛び上がった。低い唸り声が聞こえてきた。

　見ると周囲には多くの狼がいた。ここは整備された街中ではない。山の中である。

そのため多くの野生動物が生息しているのである。人の匂いに引き付けられ、狼たちが寄ってきたのだ。

「に、逃げるわよガーベラ！　狼！　狼よ！」

「は、はい！　お母さま！」

　二人は脱兎のごとく逃げ出した。もう疲れたとか色々文句を言ってられる状況ではなかったのだ。

　◇

「はぁ……はぁ……はぁ、えらい目に合いましたわ」

「そ、そうね。ガーベラ」

「くっ！　これもあのシャーロットのせいですわ！　あの獣臭い家畜係め！」

　酷い言いようであった。何でもシャーロットに責任転嫁する。自分の非を決して認めようとはしない。ガーベラはそういう性格の持ち主なのであった。

「お、お母様！　あれを見てくださいませ！」

「ん？　あれは！」

　ガーベラとローズの目の前には小奇麗な一軒家が存在していた。庭木も手入れされており、明らかに人が住んでいる様子であった。実際、そこに住んでいるのは人ではなく、人ならざる者ではあるのだが。

「お母さま！　あれですわ！　あれが魔女の館ですわよ！」

「そ、そうね！　きっとそうよ！　あそこに魔女が住んでるのよ！」

「呪いをかけてもらいましょうよ！　ウィリアム様が私の虜にしてもらえるような！　それであのシャーロットを醜い豚にかえてもらいましょう！」

「ええ！」

　二人は魔女の家を訪れた。

「魔女さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん！　魔女さーーーーーーーーーーーーーーーーーん！　いらっしゃいませんか！」

「出てきなさい！　魔女！　こっちはあなたに用があるのよ！　その為にわざわざここまできたのよ！」

　しかし反応がなかった。頼んでもいない来客なのに物凄い態度が出かかった。やはいろくでもない親子であった。

「いないようですわね。どうしましょうか？」

「仕方ないわね。勝手にお邪魔しときましょうか」

「ええ。そうしましょう」

　止めるものはいなかった。親子そろって倫理観がおかしいのである。しかし当然のように鍵がかかっていて中にはいれなかった。

「くっ……どこにいるんですの！　魔女は！　もう！」

　その時であった。

「何をやっているのですか？」

　声が聞こえてきた。若い女の声だ。

「ひ、ひいっ！」

　そして二人は振り返るのであった。そこに魔女と謡われる人物の姿があったのだ。