『辺境伯様』の呪いが解けるのでした

 それが私達が結婚式で永遠の愛を誓い、キスをした後の事でした。 


 その時でした。突如眩い光が世界を覆ったのです。


 これはなんでしょうか? 理解が追い付きませんでした。『醜悪な野獣』と言われた『辺境伯様』こと、ウィリアム様の姿が瞬く間に人間の姿になっていくではありませんか。


 それだけではありません。他の使用人達の姿も野獣のような姿から、まともな人間の姿に変わっていくのです。皆、美男美女ばかりでした。


 そしてウィリアム様のお姿です。ウィリアム様のお姿は金髪をした、雪のような白い肌をした美丈夫になっておりました。あまりに整った顔立ち故に作り物か何かと思ってしまう程です。


 まるでどこぞの王子様のようでした。物語に出てくるような王子様そのものです。そんな素敵な王子様が私の目の前に突然姿を現したのです。


「……こ、これは一体。私は夢でも見ているのでしょうか」


「これは夢ではないよ、シャーロット」


 目の前の美丈夫が優しい笑みを浮かべて私に語り掛けてくるのです。


「どういう事なのですか? あなた様はウィリアム様ではなかったのですか?」


「いいや。私は間違いなくウィリアムだよ」


「ですが、お姿が全く変わってしまいました。そして使用人の方々も。これは一体どういう事ですか? どんな魔法を使ったのですか?」


 私はあまりの出来事に驚いてしまいました。それはもう、言葉を失う程に衝撃的な出来事です。そんな時、ウィリアム様の口から事情が語られ始めるのです。


「今まで私達は魔法にかかっていたんだよ。それは今より何年も前の事だ。もう忘れてしまう程昔の事」


 辺境伯様、事ウィリアム様はその時から伯爵をしていたらしいです。そして、そのウィリアム様を気に入った魔女がいました。


 魔女はウィリアム様をいたく気に入りました。ですがウィリアム様はその魔女のアプローチに対して、全く靡かなかったのです。


 嫉妬にかられた魔女はウィリアム様に魔法をかけるのです。それでしたら相手を魅了するような魔法をかければいいと思ったのですが、どうやら魔女にはそのような魔法が使えなかった様子。


 魔女は魔法でウィリアム様と使用人たちに魔法をかけました。その魔法とは『獣のような醜い姿になる事』そしてその魔法が解ける唯一の条件が『彼が心より愛する女性が現れる事』というものだったのです。


そして魔法にはもうひとつ条件がありました。それはこの屋敷から一歩も外に出られないという条件です。


魔法が解ける条件を唯一と先ほど説明したそうですが、もうひとつだけ方法がありました。


それはその魔法をかけた魔女が魔法を解く事でした。その魔女の狙いとは勿論、ウィリアム様の心を篭絡する事でした。


でしたが、ウィリアム様はその卑劣な方法には屈しず、何年もの長い間、屋敷から自分を愛してくれる人を探し続けていたのです。


何年もの間、何通もの手紙をこの屋敷から出してきたのです。自分にかけられた呪いの魔法を解ける女性を。魔女の誘惑には決して屈しずに。


 魔法には『魔法がかけられている事を伝える事』も禁じられていました。その為、誰にも真実を伝える事もできなかったそうです。


 だから彼は私にその事を伝えられなかったのです。


「そして巡り合えた運命の女性がシャーロット、君だったというわけだよ」


「そんな事があったのですか。私は今まで何も知らなかったのですね」


「君が私の魔法を解いてくれた。私に自由を与えてくれた。今ではどこに行くこともできる。どこへ行っても誰にも不気味がられる事はないだろう」


 私はあまりに美しいその顔立ちを直視できずにいました。こんな美しい容姿の殿方が自分の夫とは俄かに信じることができなかったのです。


 私は顔を赤くし、思わず目を背けてしまうのです。


「どうしたんだい? シャーロット、私の本当の顔は嫌いかい?」


「そうではありません。ウィリアム様の本当のお姿が素敵すぎて、恥ずかしくなってしまったのです」


「ふふっ……そうか。私の顔をよく見てくれ、シャーロット。本当の事を知った時、君の気持ちが変わってしまうのではないかと私は不安だったよ。君はあの毛むくじゃらの野獣のような顔だからこそ私を好きになったんじゃないかと」


「そんな事はありませんわ。だって私はウィリアム様のその心にこそ深い愛を抱いたのです。姿形など関係ありません。永遠にあなたの妻として愛し、お慕い申し上げます」


「シャーロット」


「ウィリアム様」


 私達は見つめあい、再び熱いキスを交わすのです。


 パチパチパチ。人間の姿に戻った使用人たち。


 割れんばかりの拍手が鳴らされます。こうして最高に幸せな気分のまま。


 私とウィリアム様の結婚式は終わりを迎えるのでした。

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