『辺境伯様』との結婚式

私はこうして辺境伯ウィリアム様と結婚し、妻となる事になったのです。


法律や行政的な手続きなど必要ありません。当人同士が愛し合えば、それだけで十分な契約となりうるのです。二人が永遠の愛を誓えばそれだけで十分です。


私達は獣人の使用人達と多くの動物達の目の前で結婚式をあげる事になるのです。


私は使用人たちにウェディングドレスを着る手伝いをしてもらいます。


「まあ、これが私ですか」


 お化粧をして、それから白いウェディングドレスを着た私。その私が鏡に映し出されているのです。


 夢にまで見た花嫁衣裳です。カーディガン家にいる間はこんな綺麗な花嫁衣裳を着れるとは思ってもいませんでした。


 鏡に映し出された私は、とても本当の私とは思えない程綺麗に映っていました。


「お綺麗ですよ。シャーロット様」


 使用人がそう言ってきます。


「これは何か魔法の鏡でもつかっているのではないでしょうか? とても私とは思えません」


 使用人は笑い始めました。


「なんてことのない、ただの普通の鏡ですよ」


「そうですか……あまりに自分とは思えないくらい変わってしまって驚いてしまいました」


「それだけシャーロット様がお綺麗だという事ですよ。さあ、ウィリアム様のところへ参りましょうか」


 私はこれから旦那様となるウィリアム様のところへ向かうのです。


 ◇


 パチパチパチ。私が式場――とは言っても屋敷の中のホールです――に向かうと多くの使用人たちが拍手をしてくれています。


 皆確かに見た目は恐ろしいですが、心がとても綺麗な人達なのを私は知っていました。


 もうこの屋敷に来てから随分と時間が経っているのです。ここにいる人達は誰一人として義母や義妹のような扱いを私にしてきません。丁重にもてなしてくれるのです。

 それだけで十分に幸せな事でした。


そして神父役の使用人の前には『辺境伯』であるウィリアム様がいたのです。これから私の旦那様。生涯の伴侶となるお人です。


恐ろしい見た目をしたお方ですが、とても心の綺麗で優しい方である事はもう十二分に私は知っておりました。


私はタキシードを着たウィリアム様と向き合います。


「良いのか? シャーロット……本当に私で」


 ウィリアム様は不安げに聞いてきます。


「どういう事ですか? ウィリアム様。私で? とは」


 私は首を傾げます。


「私は御覧の通り化け物のような見た目をしている。今まで何人もの令嬢が私の顔を見るなり逃げ出していったんだ。今では人っ子一人寄り付かなくなった。そんな化け物のような見た目をした私が夫で、シャーロット、君は本当にいいのか?」


「何をおっしゃいますか。ウィリアム様。見た目など関係ありません。私はウィリアム様の心の美しさにこそ惹かれたのです。ウィリアム様こそ、私でよろしいのですか?」


「勿論だ。君もまた素直で心の綺麗な女性だ。それに今日の君は特に見た目も美しい。とても魅力的な女性だと私は感じているよ」


「まあ……お上手です事。だったら私達は相思相愛ではありませんか。何も問題ありません」


「そうだな……だったら問題ないな」


「ええ。問題ありませんわ」


 私達は神父に向かい合います。そして私達は周囲に対して永遠の愛を誓いあうのです。


「汝、シャーロット、病める時も健やかなる時も夫ウィリアムを愛する事を誓いますか?」


「誓います」


 私は即答しました。もはやその心に一遍の迷いもありません。


「汝、ウィリアム、病める時も健やかなる時も妻シャーロットを愛する事を誓いますか?」


「誓います」


 ウィリアム様も迷うことなく答えます。


「それでは誓いのキスを」


 私達は使用人たちに見守られて、誓いのキスをします。長い、長い誓いのキスです。


「ウィリアム様……永遠に愛しております」


「私もだよ。シャーロット。僕は君を永遠に愛している」


 私は彼の唇から、慈しむように唇を離し、その長いキスを終えるのです。


 こうして私達は使用人たちの前で永遠の愛を誓ったのです。しかし、その次の瞬間、思っても見ない出来事が私の目の前で起こり始めたのです。





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