『醜悪な野獣』と言われる『辺境伯様』に嫁入りすることに

義母と義妹から過酷な扱いを受ける私。そんな私の運命を変えたのはカーディガン家に届いた一通の手紙でした。


それは『醜悪な野獣』と言われる『辺境伯様』から花嫁探しの手紙でした。


「なによこれは! この手紙は!」


 それを読んだ義妹――ガーベラは驚愕していた。手紙の内容は前述の通りです。


 辺境に住んでいる辺境拍様である有名なお方がおりました。その方は大変醜い化け物のような見た目をしていると有名なお方でした。


 その手紙は貴族や資産家の令嬢に無差別的に届けられ、有名になっていました。その手紙を元に『辺境伯様』を訪れたのですが、幾人もの令嬢たちはその野獣のような姿を目の前に一目散に逃げて行ったそうです。


『とてもこんな人のところにお嫁にはいけない』


 皆が口を揃えてそう洩らしているそうです。その為、その噂は界隈に広まり、もはやその手紙を受け取っても誰も『辺境伯様』を訪れようとすらしないのです。


 当然、義妹のガーベラもそうです。その手紙が届いた時、まるで呪いの手紙を受け取ったかのように驚愕していました。それは横にいる義母ローズもそうです。


「あの化け物のような見た目をしているっていう『辺境伯』のところになんて誰が嫁に行くものかしら! あんな辺鄙な田舎でしかも醜い化け物の嫁になるなんてまっぴらごめんよ!」


「そうよ! ふざけてるわよ! うちにこんな手紙を送り付けてくなんて! 誰が娘をそんなところに嫁にやるもんかしら!」


 二人は当初は怒っていました。しかしある事に気付いてからはにやり、とそれこそ親子二人揃って同じような。まるで悪魔のような醜悪な笑みを浮かべるのです。


「そうだ。シャーロット。この『辺境伯様』のところ、あなたが嫁げばいいんじゃない?」


「え!? 私がですか!?」


 ガーベラは私の事を義理の姉だとは欠片も思っていません。ただ年齢が上なだけの使用人以下の存在です。私はこの家ではお邪魔虫以外の何物でもないんです。ただ家畜の世話をしている世話係。その程度の問題です。

 いなくなっても別の係を雇えばいいだけなのです。


「獣臭いあなたにはお似合いの相手じゃない! おっほっほっほっほ! これは『辺境伯様』もお喜びになるわよ! ついにはお嫁を貰えるんですから!」


 ガーベラは高笑いをします。心底楽しそうです。


「それは良い考えね! 流石は私の娘ガーベラ。シャーロット、そうなさいな。あなたにはちょうどいい縁談じゃないの!」


「そうよ! 野獣みたいな相手ならきっと獣臭い女でも気にしないわよ! あなたにはちょうどいいわ!」


 二人は大笑いします。心底嬉しそうです。これで厄介者の私を厄介払いできると手を叩いて喜んでいるようです。


「いいわねシャーロット。この『辺境伯様』の所にあなたは嫁入りするのよ。そして絶対に帰ってきてはだめよ」


「間違ってもカーディガン家の敷居は二度と跨がない事ね。くっくっく」


「「おっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!」」


 親子二人の同じような笑い声が屋敷に響きます。最初から私に選ぶ権利などないのです。


 それに今この環境は地獄そのもの。相手が化け物のような見た目をしていようが、心まではそうではないではないかもしれません。


 この悪魔のような心をした二人に虐げられるよりはもしかしたらマシかもしれません。


「わかりました。私はその『辺境伯様』のところへ嫁入りします」


 私はそう告げます。


こうして私は『醜悪な野獣』と言われる『辺境伯様』への嫁入りを決意したのです。









 


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