義妹に『醜悪な野獣』と言われる『辺境伯様』への嫁入りを押し付けられました。真実の姿を知ってから代わってくれと言われても、もう遅いです!

つくも

獣臭い女と虐げられた日々を送る

それはある日。ある伯爵家に一通の手紙が届いた。その手紙が事件を巻き起こす事になる。


私の名はシャーロット・カーディガン。伯爵家の令嬢ではあるが、実際のところはそういった扱いを受けていない。私は養子なのだ。


両親は私の養父の友人だったらしい。私の両親は旅行先の不慮の事故で亡くなったらしい。

複雑な家庭環境故に他に頼れるものがおらず、養父は仕方なしに私を引き取ったそうだ。しかし養父には養母がおり、そして娘もいた。娘は私より年下なので義妹という事になる。ちなみに義妹の名はガーベラという。


養母は私を引き取る時に当然のように反対した。両親及びそして義妹とは血縁関係にないのである。なぜ血縁関係にない子供を育てなければならないのかと、養母は猛反対した。血縁関係にない子供を育てるという事はそれだけ余計な手間と資金を費やす事になる。


人間が生活するのは決してタダではない。生きていくだけで食事は必要だし。寝るところは必要だ。他人と一緒に生活していくというだけでストレスになる。

養母の言っている事は決して間違いがない。そんな子供は孤児院にでも預ければいいとも言っていた。それも正論である。しかし養父はお世話になった友人の子供だという事で妻の反対を強引に押し切ったらしい。


こうしてわだかまりを抱えたまま私のカーディガン家での生活は始まる事になる。当然引き取る事に対して不満を持っていた養母の扱いは至極当然のように悪かった。


そして子は親の振りを見て育つものだ。その影響は娘であるガーベラにも大きく影響していた。


二人は私を至極当然のように虐げてきた。私には日課があった。それは伯爵家で飼っている馬などの家畜のお世話である。餌をやり、そして糞の始末をする。


他にも屋敷にはいくつかの家畜がいた。愛玩動物としての犬や猫もいた。


「よしよし……良い子、良い子」


私の味方は屋敷には誰もいない。養父も養母の反対を押し切った後ろめたさがあるからか、全面的には私を庇ってはくれなかった。


だから私が心を許せるのは屋敷で飼っている動物だけだ。そういう動物の世話をしているのは私に課せられた義務であり、仕事であったが、決して苦痛ではなかった。


そうした動物と触れ合える時間は私にとって唯一の心が癒される瞬間だったからだ。


こうして私は動物達の世話を終え、屋敷に戻ろうとした時だった。


「待ちなさいな! そこの獣臭い女!」


少女に声をかけられます。見た目は美しいのですが、目つきが鋭く人を見下したような雰囲気をした少女です。私の義妹ガーベラです。


「なんて臭いんですの! もう鼻についてどうしようもないですわ!」


「申し訳ありません、ガーベラ様」


 私は義妹をガーベラ様と呼びます。対して義妹は私の事を決して姉とは呼びません。そこら辺の物扱いか。せいぜいさっきの『獣臭い女』と言うくらいです。

 

 臭いのは当然です。さっきまで私は動物の糞尿の世話をしていたのですから。どうしても体にその匂いが染みついてしまうのです。


 当然のようにガーベラがその行いを労う事はありません。例えそれが必要な事だったとしてもガーベラは屋敷にいさせて貰うだけの当たり前の事しか思っていないのです。


「もう臭くてどうしようもありませんわ! そんなに臭くては屋敷に入れませんわ」


「ではどうすれば……」


「こうすればいいんですわ!」


「きゃっ!」


 バサッ。ガーベラは私に冷水をかけるのです。バケツに溜まった冷水を思いっきり。

 当然のように冷たいです。身も凍える程。


「おっほっほっほっほ! これで少しは獣臭くなくなりましたわ! すっきりしましたわ!」


 そう言って満足した様子でガーベラは屋敷の中に戻っていくのです。


 私はトボトボと屋敷の中に入っていきます。


「まあ! 何かしら! その恰好は水浸しじゃないの!」


 いかにもガーベラの母らしき人物。養母――ローズが降りてきます。ガーベラに似ていて顔立ちは整っているのですが、その視線や態度はものすごくきついのです。


 そう、私に対してのみですが。


「そんな恰好で屋敷にあがったら絨毯が濡れるじゃないの!」


 養母は私を心配するは愚か怒鳴ってきます。義妹であるガーベラに水をかけられたにも関わらずです。言ったとしても娘がそんな事をするはずがない、など反論されるのは目に見えています。

 

 だから私は何も言えずに押し黙るのです。


「ではどうすれば……」


「服が乾くまで外で待ってなさいな」


「はい。わかりました」


 こうして私は服が乾くまで外で待たされる事になりました。しかしその時、既に冬でした。寒いです。冷水を被ったのですから、冷風がさらに冷たく感じます。


 次第に私の体が熱くなってきたのを感じました。どうやら風邪をひいてしまったようです。冷水を被り寒い中突っ立っていたのですから体調不良を起こすのは必然と言いました。


パタリ、と私は倒れてしまいます。意識が段々と遠のいてきます。このまま私は死ぬのでしょうか? お父さんとお母さんのところにいけるのかと。


「おい! 大丈夫か! シャーロット!」


 その時でした。養父のトーマスが帰ってきたのです。仕事を終えて帰ってきたのでしょう。倒れている私を見て駆け寄ってきます。


 こうして私は養父のおかげで一命をとりとめたのです。この様子は屋敷における私の扱いの一例にすぎません。このような扱いで私はずっとカーディガン家で過ごしてきたのです。


しかしそんな私に思わぬ転機が訪れるのです。それはそう。カーディガン家に届いた一通の手紙でした。









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