ない味、ない話。

「あのさ」


うん


「カロリーメイトのベーコン味ってあるじゃん」


あるの?


「ないよ」


ない


「ある体で」


わかった


「カロリーメイトのベーコン味ってあるじゃん」


あるね


「あれって美味いけどベーコンの味じゃないよね」


あ〜


「どっちかっていうと蟹みたいな味してるよね」


蟹。


「しない?」


あ〜


「どっち?」


わかんない


「もしかして食べたことない?」


ないね


「なんで?」


え、ないから…


「え?」


カロリーメイトのベーコン味、ないから。


「え?」


実在しないから


「ある体で」


ごめん


「カロリーメイトのベーコン味って蟹みたいな味するよね」


……


「…………」


する〜〜〜!!!!!


「えっ」


え?


「そんなにではなくない?」


え?


「そんな大声出すほど蟹味ではなくない?」


嘘だろ


「いやホントホント」


いやあれは完全に蟹だよ


「完全にではなくない?」


完全には盛った


「あ〜」


やや蟹


「ややだね」


やや


「怪人カニベーコン」


どうした急に


「怪人カニベーコンの身が多分ちょうどカロリーメイトベーコン味と同じ味」


そうかも


「実在しないのに?」


えっ


「怪人カニベーコン。実在しないでしょ」


えっ


「え?」


俺、カニベーコンだけど


「嘘じゃん」


いや本当に


「えっ」


ちょっと待ってみ


「えっ」


フンッ……!!


「えっ」


ウオオオ……!!!


「嘘……」


カーニカニカニ


「怪人カニベーコンじゃん……」


ちょうどカロリーメイトベーコン味と同じ味……俺がカニベーコンだ!!


「ないのに?」


え?


「カロリーメイトベーコン味。実在しないのに?」


急にハシゴ外すじゃん。わざわざカニベーコンに変身したのに。


「わざわざカニベーコンに変身したからだよ」


あ〜…


「そこまではいいから」


あ〜…


「俺も悪かったから」


いやでも…


「ん?」


怪人カニベーコンなんて実在しないはずなんだ


「……???」


俺はカニベーコンなんかじゃないはずなんだ


「実在してるのに?」


実在してるのに。


「そっか……」


そう。


「虚構と現実の境目とはかくも容易く破れるものか」


然り。この世の事、全て虚構よ。


「さにあればより善き虚構を成す事こそが…」


この世をより善きものとするであろう。


「怪人カニベーコン……」


偖、ならば征こうか。


「どこへ?」


俺達の世界へ……!!



【終】

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