地下の教室という学園七不思議

佐久間零式改

地下の教室という学園七不思議




 午前中の授業が終わると、俺は昼飯の弁当を取り出して、一人で黙々と食い始めた。


 今際高校いまわこうこうに入学して間もない事もあって俺は友達が少なく、一人飯の時が多い。


 たまに誰かと一緒に食べる事はあるけど、本当に『たまに』でしかない。


「なあ」


 不意に右側から声をかけられた。


 最初は俺に対して声をかけているとは思わず、そちら側を見なかった。


「なあ、聞いているか?」


 声を共に、右側からぬっと男の顔が現れたものだからご飯がのどに詰まりそうになるも、なんとか堪えて、慌てて飲み物を流し込んで事なきを得た。


 精気の感じる事のない、のっぺらとした顔の男だった。


 誰だったっけ、この人?


 同じクラスにいたっけ?


「……いきなりなんだよ」


 そう思いながら、ぶっきらぼうに答えると、


「友達の友達から聞いた話なんだが、この学校の七不思議で面白い話があるんだ」


 男はそのままの体勢でこんな事を言って、にんまり笑った。


「は? 学校の七不思議? なんでいきなりそんな事を言い出したんだ?」


 男の意図が分からず俺は眉間に皺を寄せた。


「知っているかい? ここの七不思議は教える事に意義があるんだよ」


 男はにたにた笑いながらそんな事を口走った。


「どういう意味だ?」


「この学校に地下があるだろ。そこだけど、戦時中に霊安室として使われていたらしいんだよ。多くの遺体が運び込まれたんだって」


 男は俺の質問には答えずに話を進めてきた。


 この学校は病院を改築してできたという話は聞いている。


 それだけに説得力があるように思えるのだが、戦時中と言われてもどこか遠い昔の話のように思えるので、その点だけは首を傾げた。


「……地下? あったっけ、そんな場所?」


 しかし、地下などあったかな、この学校に。


 一階から下に降りる階段はなかったはずだし、ただの噂話なんじゃないのか。


「あるんだよ。探してみれば地下に降りる階段があるからさ」


「……なるほど、俺が知らないだけか」


 そう言われると、校舎内をくまなく探索した事がないので俺が知らないだけなのかもしれない。


 今度試しに探しに行ってみようか。


「で、その地下がどうかしたのか?」


「真夜中に地下の教室にいると霊界につれていかれるんだって。死者の霊がまだそこに留まっていて、仲間を欲しているんだって」


「教室?」


 地下の教室。


 それこそ聞いた事がない。


 ただ単に使われなくなったから聞かなくなっただけなのか?


「……さあ、噂話だから」


 男はそう言うなり、顔を引っ込めて、俺の視界から消えた。


「噂話? 七不思議じゃなかったっけ?」


 即座にそう言いつつ、右側に顔を向けるも、男の姿は視界にはなかった。


 教室を見回すも、男の姿はどこにもない。


 おかしい。


 ほんの数秒の間に教室を出るなんて事は不可能なはずだ。


「……待て、待て。出て行った事に気づかなかっただけかもしれない」


 もう一度見回しても、やはり男の姿は教室内にはない。


 出て行った事に気づかなかっただけなのかもしれないと納得させて、男の事を忘れようと試みた。


 だが、忘れられる事などできなくて、他の教室、他の学年を見て回ってあの男がいないかどうか確認してみるも、あの男の姿をどこにも見つけることはできなかった。


 しかも、ついでに確認をしたのだが、校内には地下に降りる階段など存在はしてはいなかったのだ。


 先生に聞いても、地下の存在は当然否定された。


 それだけならまだしも、改装前の病院に地下室そのものが存在していなかったと判明して、俺はすっかり狐につままれたような気分になってしまった。


「嘘吐き太郎……ねえ」


 その過程で分かった事なのだけど、この今際高校の七不思議に『嘘吐き太郎』という話があるのを見聞きした。


 嘘吐き太郎という幽霊が唐突に現れて、ありもしない学園七不思議を聞かせてくるというものであった。


 噂によれば、本当の七不思議を隠すためらしいのだが、何故そのような事をするのは分かってはいないそうだ。


 嘘吐き太郎らしき七不思議に遭遇した俺も、嘘の七不思議を聞かされたのか結局分からなかったし、高校を卒業するまで再度遭遇する事もなかったので、真相は今も分かってはいない。







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