世界一無意味な時間
葵 悠静
本編
「ジャンクフードが食べたい」
「独り言ですか、マスター」
「あんたに話しかけてんのよ」
「なるほど」
「あんたそういうの探すの得意じゃなかったっけ?」
「肯定。半径500メートル以内の飲食店及び娯楽施設であれば詳細なナビを行うことが可能です」
「え、半径500メートル……?」
「マスター、失望するにはまだ早いです」
「だっておじいちゃんが使っているナビの方がまだ遠くまでの店を検索できるんだけど……」
「私はあんな旧時代的なお荷物とは違って、思考を学習することが可能です」
「それがナビと何の関係が?」
「私が詳細を知ることができるのは半径500メートルですが、そこから人の流れ、物流の流れ、その通りを歩いている年齢層から推測して、1キロ以上先の飲食店を発見することは可能です」
「推測って……。確率的にはどのくらいなの?」
「30パーセント、いえ50%は固いかと」
「固いって半分じゃないのよ。それならやっぱりマップアプリ使ったほうが」
「マスター……私はいらない子なのでしょうか」
(うわ、めんどくさ)
「……わかったわよ! やってみてよ。半分の確率を当てるのは得意なのよ!」
(マスターはやはりちょろいですね)
「お任せください。いい実験……成果を上げてみせます」
「今実験って言わなかった?」
「否定。参りましょう」
「それで、いつつくのよー」
「少々お待ちを。再計算いたしますので……」
「なんかさっきから同じ場所をぐるぐるしているような気がするんだけど」
「それは早計ですよ。似たような景色が続いているだけで、距離的には確実に近づいているはずです。人の流れも多いですし」
「そもそも人の流れでどうやってファーストフード店にたどり着くのよ」
「年齢層が若い人物で対象を絞り、その年齢層の人の流れが向かっている方向を目指します。私の情報は距離が進むごとに新たに更新されますから、最終的に半径500メートル以内にファーストフード店の候補が現れれば成功です」
「そんなことするならやっぱりアプリ使ったほうが早いんじゃ……」
「マスター。私は私の可能性を信じたいのです」
「その可能性とやらに私は振り回されているわけだけど……。アプリ使っていい?」
「マスターは、私のことを信じてくれないということですか?」
「えー、そんなこと言ってないじゃん。素直に連れて行ってくれたら私も別にこんなこと言わないわよ」
「マスター……」
「……あーもう! わかったわよ! とことん付き合ってあげるから案内しなさいよ!」
「感激です。マスター。では参りましょう」
「……はあ」
「マスター! 見えました! ここから800メートル先にカンタッキーがあります!」
「もうなんでもいいわよ……。お腹すいたし歩き疲れたわ」
「マスターこっちです!」
「あんたは疲れ知らずだからいいわね」
『いつもカンタッキー○○店をご利用いただきありがとうございます。○月○日をもちまして、当店は閉店いたしました。長らくのご愛顧ありがとうございました』
「……ちょっと何よこれ」
「マスター、これは予想外です」
「人の流れを読んだんじゃなかったの?」
「昨日までは確かにここに人の流れがあったんです」
「確かに昨日閉店ってなってるけど。……ちょっと待って、人の流れってリアルタイムで見てたんじゃないの!?」
「マスター、残念ながら私はそんな最先端のAI技術は持ち合わせていません。せいぜい見れて24時間前の人の流れが限界です」
「……信じた私がばかだったわ」
「マスター諦めるのはまだ早いです!」
「何?」
「50メートル先に」
「マルドナルドでしょ。私の目でも確認できてるわよ」
「マスター、参りましょう。私はフィッシュバーガーが食べたいです」
「あんた物を食べられる設計になってないでしょうが」
「残念です。ともかく実験は半分成功で、半分失敗。まさに五分五分の結果になりましたね」
「主人を実験の肥しに使うってどういうアンドロイドよ」
「マスターいかないんですか?」
「行くけど、一つだけ言ってもいい?」
「なんなりと」
「私の30分を返せ、このポンコツ」
「マスターのいけず!」
世界一無意味な時間 葵 悠静 @goryu36
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