第18話 ストロベリーショップ

「私『杉下愛子』は女神アストラーゼ様の使徒として、音楽を通じ人々の心が豊かになるような教育を心掛け、生徒たちを導けるように努力をします」

「杉下先生には『音の加護、魔力D』を授かりました」


「素敵。音の加護ではどんな事が出来るのかしら?」

「先生、その加護の所持者は私も出会ったのが初めてですので、詳しくは解りませんが、人々の心に訴えかける演説とか出来るようになるかもしれませんね? きっと選挙演説とかしたらトップ当選確実ですよ?」


「なんかそれ…… 私が求めているのと方向性が違う気もしますけど?」


 杉下先生の洗礼も終わり、みんなでイチゴ畑のイチゴを楽しんだ後は、早速魔導具を創る事にした。

 それぞれの持ち物のバッグに、私がミスリルを溶かした特殊なインクで魔法陣を描きこむ。


「皆さん。それぞれのバッグの魔法陣に手を触れ、反対側の手で収納した物に触りながら、【収納】とイメージしてください」

「ねぇさやかちゃん? 収納する物の大きさとかは、関係無いの?」


「はい。それぞれが持つ魔力の量によって限界はありますが、そこまで大きな消費をする訳では無いので大丈夫な筈です。収納と取り出しに、それぞれ魔力は消費しますが、維持をする事に関しては魔力の消費はありませんので」

「もう一ついいかな?」


「原田先生。何でしょうか? 異次元空間は時間も重さも感じないと言う事だけど、それなら例えばアイスクリームやあったかいお弁当を収納すると、何日後であっても入れた時と同じ状態で取り出せると言う事かい?」

「はい。その通りです。温かい弁当なんかを沢山用意しておくと、快適なサバイバル生活が出来ますよ?」


「凄いな」

「ただし、ラノベでよくある様な、収納物のリストや、ソート機能とかありませんから、中に容れた物は自分でちゃんと把握してないと駄目ですよ?」


「了解」

「まぁ解んなくなったら、一度全部出しちゃえばいいんですけどね」


「来週中迄にはミスリルのナイフとかも用意しておきますので、それが準備できたらそれぞれの属性を纏わせて使える様に、練習しましょう」

「解ったよ。楽しみだね」


「さやかちゃん?」

「綾瀬さんどうしました?」


「私は、日本刀を手に入れて来るから、それにお願いしたいけどいい?」

「大丈夫ですけど、人前で振り回したら普通に掴まりますよ?」


「マジックバッグがあるなら、大丈夫でしょ?」

「まぁそうかもしれないですけど……」


「杉下先生も、そのお守りに毎日お祈りを捧げるのを忘れないでくださいね」

「了解だよ。先生も『さやかちゃん』って呼んでいいかな?」


「勿論構いません。それと先生も除霊活動の時は来てくれるで良いんですか?」

「そうですね、学校の授業に影響しない範囲で参加させて貰いたいわ」


 こうして仲間も増えて、活動は順調に進んで行く事になる。



 ◇◆◇◆ 



 私が、静岡に来て半年が経過した。

 イチゴの畑は屋内式水耕栽培の施設も完成させて、一年中楽しめるようになった。


 栽培に関しては、少しインチキだけど魔法の力を借りて、時間を短縮させてるんだよ。


 イチゴは殆どの場合ランナー栽培と言われる子株から蔓を根付かせて、コピーを作って育てるのが一般的なんだけど、私は種を発芽させて育てる事にこだわってるの。


 何故かって? 種から育てると変異種が発生して、今までの品種より美味しいイチゴが出来る可能性があるからだよ。


 必ず美味しいのが出来るって言う訳では無く、可能性があるってだけなんだけどね。

 1000株くらい育てたら1株くらいは親のイチゴより美味しいのが出来るかもしれない……


 って言う程度の可能性なんだけどね。

 発芽して株が育つまでは、発芽用の土で丁寧に育てる。


 ガラス製のハウスの中で雨が当たらない環境なのが大事なんだよね。

 理由は…… イチゴは発芽に光を好むんだけど、種がすっごく小さいでしょ?

 雨に当たると簡単に流されてしまって、駄目になっちゃうんだよね。


 その環境で発芽すると、一株ずつプランターに移して成長を促す。

 株が育ってきたら、水耕栽培の施設に移して実がなるのを待つって言う感じだよ。


 まぁ魔法を使うから、一年がかりの作業を二週間くらいで終わらせちゃうんだけどね。


 おかげで今は、白く輝く美しい「アストラーゼの瞳」と名付けたイチゴが出来上がった。

 商標登録とかはして無いよ?


 糖度が17度もあって、見た目の美しさだけでなく、本当に美しいイチゴだ。

 このイチゴの種を取ってまた新たな株を育てる。


 勿論満足の行く出来上がりでもあるから、親株からランナーも取って、大量の子株も増やしてるけどね!


 そして、今週はうちの近所に大型の商業施設が完成して、そこにイチゴジュースとイチゴのデザートの専門店を出店する事になった。


 勿論この店で使うイチゴは叔父さんの農園で取れたイチゴだけどね。

 なんでこんな話になったのか? って。


 それはこのショッピングセンターの経営母体が、以前私達が除霊をした奥多摩のショッピングセンターの系列店だったからだ。


 奥多摩のお店は、今では日本有数の売り場面積当たりの売上を誇るお店になっているの。

 その理由を探ると、アストラーゼ様の祭壇の設置が当然思い当たる訳で、その後は一店舗当たり5000万円の費用をかけて、系列のショッピングセンターのすべての店で、私達が浄化を行い、祭壇の設置をした。


 この祭壇にはアストラーゼ様の姿の白い大理石を使った像が、右手にクリスタルを持った姿で立たれている。

 勿論私が錬金術と魔導具作成の能力を使って作ったんだけどね。

 でも実は、この女神様の像とクリスタルを使えば洗礼を行う事が出来る、本物の儀式水晶なんだよ。


 全国30件の店舗で行い、祭壇を設置した店舗は軒並み集客力が1.5倍以上の数字を叩きだしているのが今の現状だ。


 今回は、私の住んでいる静岡の田舎町から車で10分程の場所に、新規で作られたショッピングセンターなんだけど、田舎で土地だけは余ってるからやたらと広い。


 こんな田舎に、そんな大きな施設が必要だったの? とこっちが心配するくらいだけど……

 でも、流石と言うか、商売でやってるだけあって、近隣の住宅地の開発や企業の誘致なども、行政と一緒に取り組む事で、この田舎町自体が5年後には、人口が4倍に増える都市計画を立ててるんだって。


 そんな新規のショッピングセンターに、地域の特産品であるイチゴを使ったお店が入るのも、また既定路線で、それならばと少なからずこのショッピングセンターと付き合いがあった私達に話が回って来たっていう事だ。

 私自身は、ショップは手がかかるしちょっと考えたんだけど、お店を作ってメニューや方針さえ決めちゃえば、後は店長とアルバイトを雇って任せちゃえば良いと、綾瀬さんが言うので結局始める事になった。


 メインはイチゴのスムージーとイチゴのシェイクとイチゴパフェ。

 そして、地元の和菓子屋さんとコラボしたイチゴ大福。


 牛皮の生地にたっぷりのホイップクリームと粒あん、それに叔父さんの育てたパールホワイト種のイチゴが入った、見た目も味も最高のイチゴ大福だよ。

 一個300円もしちゃうけど、それだけの価値はあると思う。


 開店を翌々日に控えて今日はお店のスタッフさん達を招待して、私の家で簡単なお食事会をした。

 このお店『ストロベリーショップアストラーゼ』は、事前のテレビ局の取材でもとても注目を集めてる。


 お食事会には、美鈴さんと綾瀬さんも参加してるよ。

 それにお店の店長の長門さん。

 30歳で以前は東京の一流レストランでパティシエの修行をしていた人だ。

 笑顔の素敵なお姉さんだよ。

 アルバイトの女の子達も10人が揃ってる。


 女性だけで、お庭でバーベキューを楽しんで、私のイチゴ畑でイチゴ食べ放題の幸せな時間を過ごした。

 実際のオーナーがまだ18歳の私である事にみんながびっくりしてたけど、私は経営には一切タッチしないから頑張ってね?


 その場所で一般には売られていない『アストラーゼの瞳』を食べたみんなの顔色が変わった。


「凄いこのイチゴ。正にほっぺたが落ちるって言う言葉は、このイチゴの為にあるような言葉ですぅ」


 大好評だった。

 結局、長門さんに食い下がられて、このイチゴを使ったスペシャルアイテムを毎日限定50個販売するという話になった。

 毎朝、長門さんが収穫しに来るとか凄いよねぇと感心したけどね。


 長門さんは流石にパティシエさんだけあって、その場でメニューを提案して来て早速作り始めた。

 とても大粒な「アストラーゼの瞳」はそのまま嚙り付いても、女子では一口では食べきらないし、薄くスライスして、特製のヨーグルトムースのココットの上に綺麗に並べられた。


「凄い綺麗です。美味しそう」


 実際にみんなで試食しても絶賛だった。

 ココットごと販売する事にして、一個700円。

 決して安くは無いけど、それだけの価値はあると思う。


 こうして、ショッピングセンターもオープンを迎える。

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