第7話 お買い物
「こんにちは。遠藤です」
「待ってたよ。さやかちゃん。今コーヒー淹れるね」
私が原田先生の事務所へ向かうと、金子さんがとてもフレンドリーに出迎えてくれた。
「先生は今ちょっと、別の案件で出てるんだけど、さやかちゃんが来たら取り敢えず一緒に買い物に行きなさいってカード預かってるからコーヒー飲んだら出かけようね」
「えっ? 買い物って何を買うんですか?」
「うん。さやかちゃんの洋服や下着なんかも一式新品で買い揃えて上げなさいって言ってたよ」
「そんな悪いです。大丈夫です」
「遠慮なんかしなくても大丈夫だよ。ちゃんとさやかちゃんの元に遺産が戻って来たら、その投資が惜しく無いほどの手数料は貰っちゃうことになるんだから。うちの先生は稼ぎすぎると仕事しなくなっちゃうから、手数料分がほとんど消えちゃうくらい使ってあげて丁度いいんだよ」
「そんなぁ」
「遠慮しなくていいから。はい、コーヒー入ったよ」
「ありがとうございます」
「あの、金子さんは良かったんですか? 私と一緒に暮らすのなんか」
「うん。全然ウエルカムだよ。私ね一人っ子だったからずっと妹が欲しいと思ってたんだよね」
「ありがとうございます。お邪魔してる間は掃除や洗濯は全部任せて下さいね」
「ええ? いいの? 超助かるわ。私は家事苦手なんだよね。良かったらずっと居てくれてもいいんだよ」
「そんな。出来るだけ早く自立しますからそれまでお世話になります」
「遠慮は無用だからね」
「そう言えば昨日の子猫たちは元気ですか?」
「ほらあそこだよ。今は沢山ミルク飲んで寝ちゃってるけどね」
そう言って金子さんが指さした場所は、猫用のベッドが置いてあって二匹の子猫が抱き合う様にして寝てた。
もう超かわいい!
他にも三匹の猫たちが事務所の中で思い思いの場所で転がってる。
弁護士事務所ってこんな感じなの?
「今何考えてるか当てて上げようか? こんな弁護士事務所やる気ねぇだろ! って思ったよね?」
「えっ? そんな事ちょっとだけしか思ってません!」
「それは思ったって事だよ」
なんだかとても幸せな気分になった。
コーヒーを飲みながらロイズのクッキーを食べて一息ついたら「そろそろ出かけようか」と金子さんが言って来たので出かける事にした。
二人で渋谷に出かけると今どきの女子高生が集まる様なファッションビルへと案内されて、「まずは下着を一週間分選ぶよ」と言ってブラジャーとパンティを上下揃いで7セット選ばされた。
私が、おとなし目なのを選ぼうとすると「そんなのばかりじゃダメ。学校は週5しか無いんだから2セットはもっと大人な感じのを選ばなきゃ」と言って、ちょっと照れてしまうような色とデザインのをかごに放り込まれた。
見ただけでちょっとドキドキしちゃうよぉ。
次は原宿のアルタへ行って『イーストボーイ』のショップでおしゃれ制服を選ばされた。
値段を見てドン引きしてた私に金子さんはショップの店員さんを連れてきて「この子に会うコーディネートで揃えて下さい」と簡単に頼んでしまった。
全部で10万円位しちゃうよ……
その後も、部屋着を買ったりJKが使いそうなコスメを揃えたりした。
全部カードで払ってたけど一体いくら使ったんだろ?
最後に「今日の仕上げだよ」って言って美容院に連れて行かれて、髪を切っていかにも今どきのJKと言う装いに大変身を果たした。
丁度、美容院が終わるころに金子さんに電話が入って、原田先生が事務所に戻って来たそうだ。
「金子さんありがとうございます」とお礼を言うと「美鈴って呼んでよ。今日からは同じ部屋で暮らすパートナーだからね」と言ってくれた。
「はい。美鈴さん」
事務所に戻り原田先生にお礼を伝えると「いやぁ見違えちゃったね。読モとかで雑誌で出てそうなJKだ」と凄く褒めて貰えて、なんだか恥ずかしくなった。
「所定の手続きは滞りなく終わらせましたから安心してください。ただし昨日も伝えたけど身辺は十分に気を付けて下さいね」
「はい。解りました」
「郵便物とかを取りに戻ったりするときも、一人では行かずに必ず金子君と一緒に行動するようにしてほしい。当面は学校帰りも一度ここに寄って、一緒に帰宅するようにね」
「解りました。あの先生…… 実際私が襲われる可能性ってどれくらいあると思いますか?」
「そうですね…… もし伯父さんがご両親の遺産に手を付けていた場合は、限りなく100%に近い確率では無いでしょうか?」
「でも、それって逆に怪しまれないですか? 私を殺した事に関わってるとなったら、当然相続も出来ないですよね?」
「海外のヒットマンに事故を装って狙われたりした場合。それを立証するのはものすごく困難なんですよ。日本の法律は疑わしきは罰せずが基本ですから。逆に起訴まで行けば99%以上の確率で有罪になります。それは、有罪にするだけの証拠がそろわなければ、起訴をしないからなだけなんです」
「そうなんだ…… 美鈴さんや先生にまで危険が迫る様な心配は無いでしょうか?」
「それは今回のような件の場合は確率は低いですね。私達が襲われる場合はただの逆恨みであって、被疑者にとって何も利点が無いですから」
「そっか。それならいいんですけど」
その後で美鈴さんは一度、私の住む部屋を片付けて来るから終わったら迎えに来るねと言って出かけて行った。
場所は事務所から歩いて5分だそうだ。
私も手伝いますって言ったけど「見られると恥ずかしい物が出てくる可能性が高いから、ちょっと今だけは一人でやらせて」とそそくさと出て行った。
女性同士なのに見られて恥ずかしいような物って……
凄く気になるけど、きっと聞かない方が良いんだろうな?
事務所で先生と二人きりになってしまうと、当然出てくるのはあの話だ……
「それで、遠藤さん?」
「あ、さやかでいいです」
「そうだね、今回は相手側も遠藤さんだし、さやかちゃんと呼ぶ方が良さそうだね」
「子猫ちゃんの怪我の話ですよね」
「うん」
「私の話を聞いたら、きっと気が狂ってるとか思うかもしれませんけど、それでも構いませんか?」
「既に十分に不思議な現象を見た後だから、気が狂ってるなんて絶対に思わないよ」
「ソフィアに変わりますね」
「えっ? ソフィアって誰」
「私です、原田先生」
「どう見てもさやかちゃんのままなんだが」
「じゃぁこれを見て下さい」
そう言って私は、手のひらの上に生活魔法のライトで明かりを灯した。
「手品? いや魔法なのかい」
「そうです。私はソフィア。この世界では無い、遠い国で聖女と呼ばれた存在でした」
そうしてソフィアな私が何故さやかに宿っているのか等を一通り説明した。
「まさか、そんな事があるだなんて」
「でもそれが事実なんです」
「他に知ってる人は?」
「私と先生だけです」
「そうか、安心していいよ。こう見えても私は弁護士だから、職務上知り得たクライアントの秘密は秘匿する義務がありますから」
「そうなんですね。知られたのが先生で良かったです。お礼に少しだけ聖魔法を使って差し上げますね」
そう言ってソフィアな私は、原田先生の頭頂部の傷んだ毛根を修復して差し上げた。
「何をしてくれたんだい?」
「内緒です。気づいたらきっと嬉しいと思って頂けるはずです」
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